2,1 作戦概要 東満州国境紛争【火明作戦】概要

 人数はこれが全てか?映写機のフイルムが逆さになっているぞ。

 …よろしい、それではこのたび我々空軍独立飛行中隊に所属することになった実験戦闘隊の為に改めて一週間後に迫った作戦を説明する。

 


 我らが飛行中隊は三上元帥閣下の隷下におかれる部隊だ。主に実戦データの収集や戦術の確立、そして精鋭の集まりとして戦果主義を遵守し空軍の有用性を祖国に示すかが肝心である。

 それを踏まえ、我々の今回の任務は国境線付近へ先行する勇気ある味方戦闘爆撃機部隊の援護を行う。

 本作戦の目的は敵国境警備隊陸戦力の大幅な撃滅、および現段階で優勢であるソ連の極東地域(日本海沿岸のウラジオストク方面)戦力を膠着状態に追い込む事だ。

 

 現在東満州とソビエトの国境付近では関東軍(満州国を実質統治する日本陸軍の部隊)を始めとした帝国陸軍とソビエト国境警備隊が睨み合いを続けている。困った事に我々空軍の上層部がどれだけ関東軍の連中をたしなめようとも奴らは聞く耳持たず、先のモンゴル方面の紛争で多大な被害を被ったに関わらずその真逆の海沿いの国境でも脅威論を叫ぶばかりだ。

 これ以上の二国間の緊張は満州国のみならず日本海を挟んだ日本本土にも脅威を与えかねない。事実、日本海を往復できるような長距離爆撃機をソビエトが開発できたものならウラジオストク付近のソビエト領内飛行場から本土爆撃を行う事ですら容易になる。五か年計画に続き軍備拡張、将校の粛清続きで近年政治情勢が不安定で暴走気味なソビエトを見ていると関東軍が躍起になるのもまあ、無理もない。関東軍には不平不満を言いたいことが山ほどある、が、そんな事の流れで我らが日本空軍の出番だ。

 

 我々空軍は先ず国境で戦闘体制を整えた陸軍に対して先遣し、航空戦力を持って奇襲作戦を行い国境付近の敵陣を無力化する。次に航空支援攻撃を皮切りにコサック解放軍、満州軍、日本陸軍の混合部隊が奇襲攻撃の混乱に乗じて突撃作戦を行う。これを第一波とする。


その後第二波攻撃として空軍は索敵、地上爆撃、機銃掃射を行い地上戦力の支援にあたる。そして我々独立飛行中隊の主任務は敵航空機部隊の撃破を行い制空権を確保する事だ。それも視界の悪い森林地帯の一番苛烈になるであろう戦線の地上防衛を我々は任された。三上元帥閣下のご期待に沿えるよう、心して掛かれ。

 

 以上が作戦の簡潔な概要だ。新たに我ら中隊に加わった実験戦闘隊には三上閣下のご子息がいるらしいな。貴様がどのような境遇、そして心持で飛行士になったかは知るまでもないが、生まれがどうあろうと特別扱いする気はない。できて十年も満たない組織だがここは歴とした軍隊だ。階級以上の人間関係は無いと思え。先の国境紛争でどのような活躍をしたかは知らんがウラジオストックはソビエトの港を司る重要地点だ。ゆえに以前に増して敵には猛者が控えている。くれぐれも我ら精鋭部隊の足を引っ張ってくれるな。

 

 大本営より作戦変更があり次第随時報告を行う。

 長かったこの不毛な紛争を今こそ終わらせよう。

 以上だ。

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