1の15 ペット



 【ミッドベル村広場】



 もう15分以上も待っていた。ミリアは噴水の端に腰掛けていた。そのすぐ近くにハルオが立っていて、ぼさーっとしている。


 彼女はシュウジのことが心配になった。



 ……まだ来ないのですか?

 ……変です。



 何かあって、他人ともめ事になっているのかもしれない。闇落ちの奴らに出くわしたのかもしれない。



 ……これは迎えに行った方が良いですね。

 ……シュウジさんは世話が焼けます。



 ミリアがハルオに声をかけようとしたその時だ。広場に青白い光が生まれて、シュウジが現れた。ミリアはびっくりとして立ち上がった。



 ……いま頃、帰還の札を使ってワープしたですか?

 ……どういうことだろう。



 シュウジが噴水前へと歩いてくる。彼は興奮したような笑顔で右手を上げた。



「悪い、遅くなった」


「遅くなったじゃないです! いまワープしてきたですか? シュウジさんは今までずっと、あの洞窟にいたんですか!?」


「シュウジくーん。遅いぞー」ハルオは気にした様子もない。


「そうなんだ。一人でメリーグーテルを倒せるかと思ってさ。そしたら倒せたんだ」


「馬鹿ですか!?」



 ミリアの声は叱りつけるような響きだった。その顔は激おこである。


 

 ……一人で戦って死んだりでもしたらどうするのよ!



 噴水前にいた人々がびっくりして黙り込み、こちらに視線を向ける。シュウジはひるんだような顔をして頭を下げた。



「悪い、心配させるつもりは無かったんだ」


「心配するも何も、どうしてそんなことをしたのかをちゃんと説明してください」


「隠しクエストだったんだ」


「……隠しクエスト?」


「ああ。ボスを一人で倒すのが条件でさ。倒したおかげで、またアイテムが手に入った」


「どんなアイテムですか?」ミリアはまだ怒っている。


「変身カードだ」


「スキンカードですか?」


「いや、違う」



 シュウジが困ったように右手で頭をかいて、今度は弱った顔をした。そして何を思ったのか、唱えた。



「変身、メリーグーテル」



 シュウジの体が白い光に包まれる。光がやむと、彼は羊の顔の人型モンスターに変身していた。先ほど戦ったところのメリーグーテルである。



「これが、手に入ったカードの効果だ」シュウジの声は低く、不気味なものになっている。


「ま、マジですか!?」ミリアはさすがにびっくりとした。


「シュウジくーん、イカスイカスよー! 最高だよー!」ハルオは両手の親指を立てた。


「お前らも、もう少し強くなったら挑戦してみると良いかもな」


「シュウジさん、その声怖いです」ミリアのオデコに汗が浮かぶ。


「まあ、とりあえずそういうことだから、みんなでペット小屋に行こう」とシュウジ。


「その前に変身を解除してくださいです」


「三十分は切れないんだ」


「お化けと一緒に歩けないです」


「そうか? まあ俺は行くから、先に行くからな」シュウジがペット小屋の方へと歩き出す。


「待ってくれーい。シュウジくーん」小走りで着いて行くハルオ。


「何なんですか、一体」結局、ミリアもその後を追った。



【ミッドベル村、ペットモンスター小屋前】“カメラチェンジ、シュウジ”



 店員の女性はシュウジの姿を見てもおびえなかった。今までにもモンスターに変身をした『勇者』と会ったことがあるのだろう。シュウジは女性に話しかける前から、一枚の銀貨を手に持っていた。



「こんにちは、ここはペットモンスター小屋です」と女性。


「こんにちは。あの、銀貨一枚払うんで、10分間知っている情報を話して欲しいんだが」とシュウジ。


「かしこまりました」


「頼む」シュウジが女性に銀貨を渡す。


「何をお聞きになられますか?」


「まず、ペット種類を教えてくれ」


「ペット種類は、犬、羊、白鳥、イルカ、猫、ウサギがあります」


「それぞれの違いを教えて欲しい」


「ペットには属性があります。犬は火、羊は地、白鳥は風、イルカは水、猫は闇、ウサギは光です」


「属性について教えて欲しい」


「はい。世界には七つの属性があります。火は地に強いです。地は風に、風は水に、水は火に強いです。闇と光は、相互に強く、相互に弱いです。最後に無属性は、何にも強くありませんし、弱くもありません」


「ふむ……」


「他に質問はございますか?」


 それからもシュウジは女性を質問攻めにした。時間は十分では足りず、彼はもう一枚銀貨を支払うことになった。最後の方、シュウジがペットのこととは違う質問をした。


 女性は「それは私にも分かりません」と首を振った。彼はペットについて、聞きたいことのほとんどを知った。ひとまず満足である。


 質問を終えると、近くにミリアとハルオが立っていることに気づいた。どうやらシュウジは夢中になりすぎたようだ。



「犬さん、カワイイですぅ」柵の中の犬を見て、ミリアが頬を染めている。


「俺はやっぱりウサギだな! 乗り回したいぜえ!」とハルオ。


「俺は猫だ」


 シュウジはステータスを呼び出し、女性にお金を支払った。猫を買った。熊のように巨大な黒猫である。


 ステータスのペットの項目からテイムの実を与えた。手懐けることに成功する。


 ドンッ、と効果音が鳴った。



 ――クエストクリア――


 

 ペットを入手し手懐けたことにより、クエストが完了していた。


 猫の初期ペットアビリティは、飼い主の攻撃時のHP吸収である。そしてペットを強化することで闇属性ダメージを増加させることができるようだ。

 

 現在シュウジは『ダークネスブロー』でしか大きなダメージを出せない。『ダークネスブロー』のダメージ倍率は10倍である。つまり通常攻撃の10倍のダメージが出る。


 ダークネスブローは闇属性であり、前方を剣で横薙ぎするというものだ。クールタイムは2秒であり、剣士にとって初歩的なスキルと言えた。


 他のスキルはダメージを出したいだけのスキルとは違う。ちなみに属性は、『ウインドアサルト』が風、『シールドエンチャント』は地だった。


 見るとミリアが店員から犬を買おうとしていた。シュウジの顔面がガチガチに硬直し、こめかみに嫌な汗が伝った。


 犬のペットアビリティは攻撃力の増加である。そして火属性ダメージの増加だ。


 戦闘において、ミリアには全く役に立たないペットである。彼女は魔法スキルしかない。加えて火属性スキルを覚えていない。


 シュウジは体がぷるぷると震えた。アドバイスしようかしまいか悩んでいるのだった。



 ……ゲームは、人それぞれが自由に楽しむものだよな。

 ……他人から、こうした方が良いと言われるのは何か違う気がする。

 ……しかしこの世界は、ゲームであり現実でもあるんだ。



 シュウジはミリアの肩に手を置いた。



「待て」


「ん? どうしました?」ミリアが振り返る。その目が無邪気に輝いている。


「犬はやめておけ」


「ど、どうしてですか!?」


「一度しか言わない。お前にぴったりなペットは白鳥だ。その理由が知りたかったら店員から聞いてくれ。それじゃあ、俺はいつもの草原に狩りに行くから、また会おう」



 シュウジは歩き出した。後ろからミリアが何か言っているが、これ以上話す気は無かった。 



 ……どうしても犬が欲しいなら犬を買えば良いさ。

 ……強くなるために情報が欲しいなら、金を払って店員に聞けば良い。

 ……情報を集める気が無いなら、ミリアには強くなる素質が無いんだ。



 ちなみに、白鳥の初期ペットスキルは移動力と素早さの上昇である。加えて、風属性ダメージを増加させることができる。


 ミリアは風属性のエレキトリックショックサインを覚えている。そして、どのクラスにも言えることだが移動力上昇は魅力的だ。


 シュウジの後ろからは、巨大な黒猫がトコトコと着いてきた。








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 恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。


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