1の14 メリーグーテル
【洞窟、ボスの間】
メリーグーテルは中々倒れなかった。敵の攻撃を耐えているシュウジは、ポーションの数が減ってきていた。ミリアが『リカバー』で回復してくれるのだが、クールタイムがある。
ポーションを随時取り出すために、彼はステータスを出しっぱなしで戦っていた。
……ポーションが持たないな。
シュウジは攻撃をやめて、敵の攻撃を防ぐことに集中した。するとタゲがはずれて、メリーグーテルは背後にいるハルオを向く。
「ひ、ひええ! こっちを向くな!」
広い空間をハルオが逃げていく。シュウジは「ウインドアサルト」と唱える。敵に向けて直線上に5メートル突進するスキルである。
シュウジは敵に肉薄し、また攻撃することでターゲットを自分に向けた。ハルオはおそるおそるにじり寄り、バックアタックを再開した。
シュウジのHPの減り方がまた大きくなる。みんなが焦っていた。ふと、シュウジの背後にいるミリアが声を張った。
「シュウジさん、私に感謝するが良いです!」
「どういうことだ!?」
「メリーグーテル、貴方を殺すです!」
そう言うと、敵の頭上にドクロマークが浮かび上がる。攻撃速度が下がっていた。ステータスも減少しているようで、シュウジは被ダメージが減った。
シュウジは目を
「ミリア、ナイスだ!」
「シュウジさん、私に惚れるがいいです!」
「それは無いけどな!」
「もう使うのやめようかな!」
「大好きだ!」
シュウジは余裕で敵の攻撃を弾くことができるようになった。自分が攻撃する余裕も生まれる。また安定してターゲットの維持ができるようになった。
それから五分も戦っただろうか? ついにメリーグーテルが倒れた。
「お前らごときに、くそう」
苦々しいセリフを残して、敵は地面に沈んだ。赤い光となって数枚の金貨を落とす。金貨は三等分されて、三人のステータス画面に入手された。
「やったああああ! 倒したぞー! えっへん!」弓を掲げるハルオ。
「貴方が倒した訳じゃないですからね!」とミリア。
「とりあえず、何とかなったみたいだな」シュウジは安堵の息を吐いた。
「タフだったです」ミリアが両手を腰に当てる。
「ボスだったからなあ」シュウジは剣を腰の鞘にしまった。
「シュウジさん、さっき私に何て言いましたっけ?」ミリアが嫌な笑みを浮かべる。
「え、えーっと」シュウジはぽりぽりと頬をかいた。
「大、何て言いましたか?」
「大根か?」
「もう絶対助けません」
「ミリアお前な。お前一人で戦ってる訳じゃないんだからな」
「それは、そうですけどぉ」
「お前が俺たちを助けたと同時に、俺とハルオもお前を助けているってことを忘れるな」
「説教臭いのは苦手です」
シュウジは声を明るくした。「まあ良いじゃないか。ボスを倒したんだ。ハッピーエンドってことで」
「うー、何か上手く魚に逃げられたです」ミリアは悔しそうに唸った。
それから三人で赤い木の周りに集まる。最初にミリアが赤い実をもいで、ステータス画面で鑑定をした。テイムの実のようだ。
「これでペットが手に入るですよ」ウキウキと頬をにやつかせるミリア。
「ペットは乗り物って言う話だったな」シュウジも赤い実を採取した。
「俺はウサギがいいぜー。だってカワイイんだもん!」とハルオ。
「ウサギ? ハルオには似合わないですよ?」怪訝な声のミリア。
「え、ええー! じゃあ何が似合うの?」
「百歩譲ってゴキブリがぴったりですよ?」
「ゴ、ゴキブリかい? ゴキブリのペットなんて、あるのかい?」
「きっとあるですよ。ペットにすれば良いです」
「ゴキブリって強いかなあー?」
「おい。ゴキブリはひどいだろ」とシュウジ。
「あ、ごめんなさいです」
「ミジンコにしよう」
「名案です!」
「いじめ!? これっていじめって奴!?」
「大丈夫だハルオ、俺たちには愛がある」
「そうそう、愛があるですよ?」
「何か暖かい。俺、泣けてきたよ。でもミジンコは嫌だ!」
「シュウジさん、後は帰るですか?」
「ああ、そうしよう」
「ここで魔法カード発動! 帰還の札だー!」とハルオ。
三人がステータスから帰還の札を取り出す。シュウジはミリアに顔を向けた。
「ミリア。帰還したら俺は、朝に宿屋に忘れ物したみたいだから取ってくるよ」
「分かりましたです。広場で待っていれば良いですか?」
「ああ、噴水前で頼む」
「かしこみりあです」
「ミリアだけにな」シュウジはクスと笑った。
「かしこみりみりみり」ミリアがウキウキと肩を揺らしている。
「早くワープしろ!」シュウジはあきれた声で言った。
「あは。お先に行きますです」
「ああ」
「俺も飛ぶぜー」とハルオ。
ミリアとハルオが「使用」と唱えて、青白い光に包まれてワープした。シュウジはステータスに帰還の札を戻す。操作して、パーティから抜けた。
歩き出す。
一度この広い空間を出て、再度入室する。赤い木の前にはメリーグーテルがリポップしていた。
……さて。
……一人で倒せるだろうか?
シュウジはボスモンスターに向かって歩いて行く。メリーグーテルは最初、俺を一人で倒せるか? と言った。もしかしたら、一人で倒せば報酬があるのかもしれない。
ユニークスキル『思考力』が告げていた。隠しクエストの予感だった。
シュウジは剣を構える。メリーグーテルが再び言った。
「お前ごときに、俺を一人で倒せるか?」
「倒せるさ。一人でだってやってやる!」
戦い始めた。先ほどのパーティで戦った時とは違い、逃げながらのヒットを繰り返す。『ウインドアサルト』を多用した。
『ウインドアサルト』はLV2になっているおかげで使用後の移動速度が1,2倍に上がる。効果時間は5秒と短いが、走って敵と距離を取るためには充分だった。
『シールドエンチャント』を使い、敵の攻撃をできるだけ防御しつつ、『ダークネスブロー』をコンスタントにたたき込む。『シールドエンチャント』の効果が切れたら、敵の攻撃が痛いので『ウインドアサルト』で逃げる。
ボスから逃げ回ってスキルクールタイムを消費させ、『シールドエンチャント』をまた使う。このスキルは敵の被ダメージを50%カットできる効果だった。シュウジ再び敵に肉薄した。
繰り返しているうちに、敵の攻撃パターンが読めてきた。杖の突きを三度放った後で、上から杖を大ぶりする。さらに杖の突きを三度放った後で、足を狙って杖を二度振る。
シュウジはもう逃げる必要が無くなっていた。敵の攻撃を全て、防御と回避できるようになったからだった。クールタイムが二秒の『ダークネスブロー』で剣を薙ぐ。
モンスターのHPがゆっくりと確実に減少していた。
……これは行けるな。
……もらった!
シュウジは笑みを浮かべていた。ワクワクしていた。20分も戦っただろうか?
「お前ごときに、くそう」
メリーグーテルが地面に倒れる。数枚の金貨を落とした。ドンッ、と効果音がして、シュウジの目の前に文字が現れた。
――隠しクエストクリア――
彼の両手に一枚のカードが振ってきた。それを受け止める。
……やっぱりだ!
……隠しクエストをクリアするには、一人で倒すことが条件だったようだ。
シュウジはステータスを呼び出してカードをしまう。鑑定をした。メリーグーテルの変身カード、と書かれている。
……これは何だろう?
スキンカードではない。新しい種類のアイテムだった。
ステータス画面で説明を読む。メリーグーテルに変身できる。変身時間は三十分。
HPバーが無くなっても、変身が解除されるだけのようだ。死んでも一度生き返ることができるようなブッコワレ効果である。クールタイムは三時間のようだ。
シュウジはステータスを操作し、変身の項目を見つけた。様々なボスモンスターの欄からメリーグーテルを解放する。選択をした。
これで彼は『変身、メリーグーテル』と唱えれば、いつでもメリーグーテルに変身できるようになった。
「よっしゃあ!」
シュウジは右手でガッツポーズをした。生き生きとした笑みを浮かべる。
……さて。
……あの二人にもこの事を教えた方が良いものだろうか?
教えるには教えた方が良いだろう。しかしあの二人の場合、一人で戦ってもボスを倒せない可能性があった。『勇者』が死ねば、もう生き返ることはない。
……死ぬのも自己責任だな。
……帰ったら教えることにしようか。
シュウジは帰還の札を取り出し、今度こそ村へと帰還したのだった。
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恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。
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