1の8 機転
【ミッドベル村の広場の大衆食堂】
人々が悲鳴を上げながら逃げていく。その背中を追いかけて、黒のローブを着た人間たちが襲いかかった。武器で背中を斬られて、PKされる者たち。
黒のローブと戦おうとする勇敢な男もいた。しかしここは初心者の村である。その男の戦力は高くないだろう。
勇敢な男は、黒のローブと剣を交差させる。相手に攻撃スキルを使われて大ダメージを受けていた。それでも逃げず、
……あいつ!
……大したものだ。
恐怖の中でシュウジは目を
食堂にいるシュウジとミリアは窓の下に身を隠した。カウンターの方から女将さんが早足でやってきて言った。
「二人とも、こっちへおいで!」
女将さんが手招きしている。シュウジとミリアは着いて行った。カウンターの奥の厨房に身を隠させてもらう。
「「ありがとうございます」」二人で礼を言った。
「ったく、あの闇落ちの奴ら、違うところにアジトを移せば良いのに」女将さんが吐き捨てるように言う。
「この村に奴らのアジトがあるんですか?」シュウジが聞いた。
「アジトは村の東の森の中だよ。誰か強い『勇者』が来て、討伐してくれないかねえ」と女将さん。
「あいつら、許さないです」憎しみのこもったミリアの声。
「あんたも被害にあった口かい?」女将さんが聞いた。
「初めての友達が、あいつらのギルドマスターに殺されたですよ」とミリア。
「そうかいそうかい。それは辛いことにあったもんだねえ。うちとしても、あいつらがいたら商売がやりにくいよ。どうにかならないかねえ」
ガチャリと音がして大衆食堂の玄関の扉が開いた。数人の人間が入ってくる足音がする。
女将さんはシュウジとミリアに顔を向けて、人差し指を唇に立てた。喋るなという事だろう。
彼女は厨房を出て、カウンターの方へ歩いて行く。そして何食わぬ口調で言った。
「いらっしゃいませ。空いている席にお座りください」
「おい女将。俺たちは客じゃねえ」なんとヨウイチの声である。
「ふーん。じゃあ何をしに来たんだい? ここは食堂だよ?」
「そこのテーブルの上に食器が二人分置いてあるなあ。ひっひ、おい女将。そこにいた『勇者』の二人はどこに行った?」
「今、出て行ったところだよ」
「嘘をつくな。俺たちが広場に来てからというもの、この食堂から人が出た気配はないからな」
「気がつかなかっただけじゃないんですかあ?」女将さんは相手を馬鹿にするような高い声を出した。
「ちっ! おい女将。カウンターの後ろの厨房に誰か隠しているな! 出せ」
「……っっ」ミリアがひどく震えている。
「……」シュウジは彼女に顔を向けて、黙ったまま首を振った。
「さーねー。誰もいないよ。だけど、誰かがいたとして、どうする気なんだい?」
「もちろん殺す! そして所持品を奪う。それが俺たちの流儀だ」
「へえー。まあ『勇者』はいないけどねえ。料理人の亭主ならいるけれどねえ」
「どけ! 厨房を調べさせてもらう!」
「あんたそれ不法侵入。どかないよ! あたしゃあたしの店を守る権利があるんだ!」
「くそっ! どけったらどけっ! お前も斬り捨てるぞ!」
「帰りな、坊ちゃん。それとも『住人』のあたしを殺すかい? すぐに広場へリポップできるけどねえ。だけど、そんなことしたら、この村の住人全員に声をかけて、あんたのアジトを潰させてもらうよ!」
「俺のアジトを潰すだとぉ?」
「簡単さあ。なんたってあたしたち『住人』は、何度でも生き返れるからねえ」
「っっくそが!」けたたましい音が鳴る。ヨウイチがテーブルか何かを蹴っ飛ばしたようだ。
「坊ちゃん、帰りな。アジトでお友達とミルクでも飲みなさい」
「馬鹿にしやがって! おい女将、この店、いつか俺が潰す」
「やってごらんよ。そしたらあたしたちも、あんたのタマをもらう」
「ヨウイチさん、この店は出ましょう」と知らない男の声。
「しっっっっかたねーなー! おい、また来るぜ。女将、オマエコラ、オボエトケ?」
「またのご来店をお待ちいたしておりまーす」慇懃無礼な女将さんの声だった。
扉が乱暴に開閉される音がした。女将さんのふーと息を吐く音が聞こえる。
シュウジとミリアはそれからも黙って隠れていた。そして十分も経っただろうか? 女将さんが厨房に来て、笑顔を見せた。
「二人とも、もうあいつらは広場にいないよ」
「ありがとうございます、女将さん」とシュウジ。
「女将さん、ありがとう」涙目のミリアである。
二人で立ち上がる。女将さんはおかしそうに笑った。
「二人とも、今回は死なずに運が良かったねえ。だけど、次回は自分で自分の身を守るんだよ!」
「「はい」」シュウジとミリアが声をそろえる。
「行きな」女将さんが顔をきりっとさせた。
シュウジとミリアは厨房から出て、カウンターも出る。ゆっくりとした足取りで、食堂の窓から広場を見た。空間が静まりかえっている。
広場には人間が誰もいなかった。地面に血の跡は無いが、武器や盾がいくつも落ちている。一体どれほどの『勇者』が殺されたのだろうか。
あの飄々とした男も死んだのだろうか? 生きていてくれれば良いが。
……兄さん、あんたはこんなことをして、何が楽しいんだ?
その理由がシュウジには分からなかった。
◆◆◆
恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。
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