1の6 逃走
【ミッドベル村北方、ミモネ山中腹】
シュウジは逃げていた。ミリアの手を引いて、林の中を全力疾走する。後ろから追って来ているのは大勢のモンスターだった。
ホブゴブリンやオーク。気色の悪い見た目をしたジャイアントスパイダーやポイズンスネーク。空からはスイーパークロウというカラスのモンスター。
総勢30を超えるだろう。絶体絶命だった。
昨日は宿屋に泊まった。今日の早朝、シュウジとミリアは一緒に狩りをしていた。特に約束をしていた訳ではなく、たまたま草原で鉢合わせたのだ。
時間が経つにつれて狩り場には人が増える。ミリアの提案で、狩り場のランクを上げようということになった。シュウジは了解し、二人で山を登って良い狩り場を探した。
最初のうちは、何も問題が無かった。危険は起こらず、安定しての狩りが続いていた。
しかし出会ってしまった。その名もホブゴブリン! オークのような大きな体躯をほこり、肌の色は赤い。
攻撃力が強く、タフである。二人が中々倒せずにいるうちに周囲から他のモンスターが集まってきた。
辺りに助けてくれるような他人はいない。気づけば二人は森の中を当てもなく逃走していた。
「死んじゃう! 死んじゃうよー!」ミリアが悲鳴を上げる。
「おいミリア! 帰還の札を使え!」シュウジが前を向いたまま言う。
「わ、分かりました! ステータスオープン!」
ミリアがステータス画面から帰還の札を取り出した。右手に握り――
――つるっと落っことした。
「ああ! 落としちゃったです!」
「馬鹿! 二枚目は無いのか!?」
「もう無いです! ああっ! 私、死んじゃうー!」
「くそ、どうすりゃあ良いんだ……」
シュウジもステータス画面に帰還の札を一枚持っていた。しかし、ミリアを見捨てて自分だけ逃げるわけにもいかない。
走っていると、目の前に切り立った崖の壁が見えてきた。崖の下に洞窟のような穴が空いている。
……マジか!
……ついてるなっ!
シュウジは迷わず洞窟に駆け込んだ。岩陰に隠れて、二人で外を注視する。
モンスターたちは洞窟の前をたむろしている。二人を探しているようだが、洞窟に入ってくる様子はない。
シュウジとミリアはそろってため息をついた。ミリアが怖々と聞いた。
「シュウジさん、これからどうするですか?」
「とりあえず、敵がいなくなるまで隠れているしかないな」シュウジのこめかみに一筋の汗が流れた。
「じっとしてるですか?」
「ああ。そうしよう」
「分かりました。それにしても、あのホブゴブリン、強すぎです」
「レベル20だったな。どうしてあんな高レベルモンスターが初心者の村の近くにいるんだ?」
「多分、『勇者』を何人も殺してレベルアップしたホブゴブリンですよ」
「そうかもしれないな」
シュウジは立ち上がった。辺りを見回して、洞窟の奥を睨む。明かりが無いので、奥はよく見えなかった。
ミリアが体を震わせながら注意した。
「シュウジさん、行かないでください。洞窟の奥からモンスターが出るかもしれませんよ!」
「おい、何か落ちているぞ」
シュウジはすぐそこに落ちていた弓とカードを拾った。ステータス画面を開いて、鑑定をする。
――初心者の弓。
――お姫様ドレスのスキンカード。
ミリアが四つん這いで近づいてくる。
「何かあったですか?」
「すごいぞこれ。女性用のスキンカードだ」
「本当ですか!?」ミリアが立ち上がりカードを覗き込む。
「ああ。でも何でこんなところに落ちているんだ?」
「多分、ここで誰かが、モンスターに倒されて死んだですよ。それで、弓とスキンカードを落っことしたと思うんです」
「そういうことか……。そりゃあ、気の毒の話だな」
「そうですね。それより! その女性用のスキンカード、私がもらっても!?」
「馬鹿。売って金にして分配だ」
「あ、ごめんなさい。そうですよね、分かりました! そうしましょう」
「ああ」
シュウジは洞窟の外に目をこらした。たむろしていたモンスターたちが、いつの間にかいなくなっている。ほっとため息が出た。
彼はスキンカードをミリアに渡した。
「お前、一度着てみろよ」
「あ! 良いですか?」ミリアは服が気になっている様子だ。
「ああ。売るまでの間、着ていても良いぞ」
「ありがたいです! ステータスオープン」
ミリアが画面のアイテム欄にカードをしまい、スキンの項目を操作した。白い光に包まれて、彼女の服装がチェンジする。
ピンク色のドレスだった。ドレスには白い布のリボンや様々な
「シュウジさん、私の格好、可愛いですか?」素敵な笑みを浮かべるミリア。
「馬子にも衣装だな」照れたようにそっぽを向くシュウジ。
「あー、何照れてるですかぁ?」
「照れてない!」
「素直に可愛いって言えば良いのにー。その方がシュウジさんも可愛いです!」
「やけに自信があるんだな?」
「私のルックスはキュートですから!」
「座布団投げて良いか?」
「現実を受け止めましょう」
「この世界はゲームだけどな」
「シュウジさん、さては上手いこと言って会話から逃げようとしていますね?」
「逃げるも何も、モンスターから逃げてきたばかりだな」
「今から絶対! シュウジさんに私を可愛いと言わせてみせるです」
「おう、やってみろ」
「私を可愛いって言わないと、スカートをたくし上げるです」
「お、おい! やめろ!」
「さあどこまで耐えられますかね。うふゅふゅふゅ」
「分かった、可愛い! 可愛い!」
「誰が?」
「俺が」
「シュウジさんの顔は、まあまあ可愛いです」
「否定しろよ!」シュウジは肩をがくっと落とした。
「素直になれば、もっと可愛いと思いますけど?」
「馬鹿言ってないで、そろそろ帰るぞ?」
シュウジは洞窟の外へ歩き出した。ミリアはまだ何か言っていたが、彼は取り合わなかった。そして二人は慎重に狩りをしながら、村への帰路につく。
◆◆◆
恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。
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