1の4 隠しクエスト



 【ミッドベル村、初心者の訓練場】



 そこには案山子が三十本ほど設置されていた。シュウジが訓練場に足を踏み入れた途端である。ドンッ、という効果音と共に、目の前に文字が浮かびあがった。



 ――案山子の一万回ノック――



 ……なんだろう、クエストの表示か?

 ……どういうことだ?

 ……レベルを5まで上げるためには、案山子を一万回も叩かなきゃいけないっていうことか?



 シュウジは試しに叩いてみることにした。一本の案山子の前に立ち、グーパンチをぶつける。わら人形が乾いた音と共に揺れた。


 特に何も起こらない。とりあえず何度も叩いてみることにした。三十回も叩いたところで、シュウジは白い光に包まれた。



 ……なんだ、今の光は?

 ……レベルが上がったということか?



 ステータスボードを出してみる。シュウジはレベル2に上がっていた。ステータスも上昇している。


 案山子を叩けば5レベルまで上げることができるというミリアの話であった。シュウジは何度もグーパンチを放った。三十回叩くごとにレベルが上がっていく。


 5レベルになるのに十分もかからなかった。スキルも新たに一つ覚えた。ステータスをチェックする。



 今のシュウジのステータスはこんな感じだ。



 名前  シュウジ

 

 レベル 5

 

 HP  500

 攻撃力 15

 防御力 15

 素早さ 15

 魔攻  5

 魔防  15

 運   0


 ステータスポイント40


 アクティブスキル 『ウインドアサルト』『シールドエンチャント』

 パッシブスキル  無し

 セットスキル   無し


 ユニークスキル  『思考力』


 スキン 平民服セット



 シュウジはなるほどと思った。レベルが5上がる度にスキルを一つを習得できるようである。


 そしてレベルが1上がるごとにHPは100ずつ上昇するようだ。他にも、魔攻と運以外のステータスが3上昇するようだ。


 魔攻は1ずつしか上がらないようだった。シュウジには魔法使いの素質が無いということだろう。ならば剣士になろうと彼は思った。


 運は全く上がらないようだ。


 そして、レベルが1上がるごとにステータスポイントが10溜まる。好きなパラメーターに割り振ることができるようだ。


 何に振るべきか考えた。シュウジは顎に右手を当てた。割り振る前に、もっと情報を集めるべきだ。


 ステ振りをやり直すことができるとは限らないからである。間違った振り方をしたくなかった。シュウジはいじることをせずに、ステータス画面を閉じる。


 案山子の前を離れようと歩き出す。ふと立ち止まった。


 先ほど、案山子の一万回ノックという表示が出たことが気になっていた。実際、シュウジが叩いた数は200回ほどである。5レベルになった後も叩いたのだが、レベルが上がる様子はもう無かった。



 ……だけど、一万回叩くと、何か起こるのか?

 ……まさか?



 シュウジの心に好奇心が起こった。考えた末に決断する。一万回叩いてみることにした。



 ……何か起こるかもしれない。

 ……起こらなかったとしても、損をするわけでもない。



 シュウジは案山子の前に戻り、それからも叩き続けた。辛抱強く繰り返す。二時間半も経った頃、シュウジの背中に女性の声がかけられた。



「シュウジさん、まだ案山子を叩いていたですか?」やって来たのは背のちっこいミリアである。


「ん?」シュウジは振り返った。



 シュウジの名前はHPバーと共に頭上に表示されている。それを見て、彼女は彼の名前を知ったのだろう。


 ミリアがこちらを興味深そうに見ている。先ほど助けたことで関心をもたれたのかもしれない。



「まだ8000回目と少しなんだ」シュウジは笑って答える。


「8000回!? そんなに叩いたって、もうレベルは上がらないですよ?」びっくりとしたミリアの顔と声。


「一万回叩こうと思ってさ」シュウジはまた叩く作業を再開する。


「一万回叩いて、どうするですか?」


「何か起こるかもしれないと思うんだ」


「そんな話、聞いたことないです」


「そうか? まあ、試しに叩いてみることにするよ」



 シュウジの後ろでミリアが嘆息する声が聞こえた。こいつは馬鹿なのか? と思われたのかもしれない。しかし彼は気にせず叩き続ける。



 ……俺の行動を、笑いたければ笑えば良い。

 ……どのみち俺は人嫌いだ。

 ……関わりたくなければそうすればいい。



 シュウジは案山子を叩き続ける。ミリアは近くにあった大きな石に腰掛けることにしたようだ。それからずっと、彼は背中に視線を感じた。


 三十分ほどが経った。シュウジの目の前に、ドンッ、という効果音と共に文字の表示が現れる。



 ――クエストクリア――

 ――ミッドベル村の全てのクエスト開放――



 シュウジの手元に宝石のような青い石が降ってきた。彼は両手でそれを受け止める。ステータス画面を開いて鑑定すると、石はラピスというようだ。


 シュウジは瞳を輝かせた。ラピスをステータスにしまう。



 ……やっぱりだ!

 ……一万回叩いたら、報酬をもらえた。

 ……これは幸先が良いな。



 後ろで立ち上がる音がして、ミリアが近づいてきた。シュウジは振り返る。



「シュウジさん。今のアイテムは何ですか?」怪訝な表情のミリア。


「ラピスをもらえたみたいだ」シュウジは笑みを浮かべた。


「一万回、案山子を叩くと、ラピスをもらえるですか!?」


「そうみたいだ。これは隠しクエストだな。よーし、この調子で頑張るぞー」


「わ、私ももらえるでしょうか?」


「ああ。できると思うぞ。試しに一万回叩いてみろよ」



 ミリアが両目を大きくしていた。尊敬したような眼差しである。どうやって隠しクエスト気づいた尋ねられたので、彼は説明をした。


 最初に、案山子の一万回ノック・・・・・・と表示されたからである。気づいた理由はそれだけだった。一万回叩けば何か起こるかもと思い、試したのだった。


 そして実際にアイテムを入手した。ふとミリアが両手に持っているサンドイッチを差し出した。



「ん? これは?」シュウジの疑問の声。


「差し入れです。貴方にあげるです」頬をほんのりと赤くするミリア。


「良いのか? もらって」


「あげるです」ミリアの目がキラキラと輝いている。


「ありがとう」サンドイッチを受け取るシュウジ。



 今度はシュウジが大きな石に腰掛けて、サンドイッチを食べ始めた。ミリアは案山子の前に立ち、叩き始める。マジックブックという武器を左手に持っているが、それで叩くことはしないようだ。


 乾いた音を立てて、わら人形が揺れた。



「これ、一万回も叩く必要があるですか?」ミリアがちらっとこちらを振り返る。


「ああ。三時間も頑張れば、達成できると思うぞ?」シュウジはもぐもぐとサンドイッチを頬張っている。


「分かりました。やるです!」


「おお。頑張れー」



 サンドイッチを食べ終えるとシュウジは立ち上がる。そして訓練場を離れて行ってしまった。



 “カメラチェンジ、ミリア”



 シュウジがいなくなったことに、ミリアは胸がちくっとした。それでも案山子を叩き続ける。


 二時間半も叩いただろうか? ドンッ、という効果音と共に、目の前に文字が表示された。



 ――クエストクリア――

 ――ミッドベル村の全てのクエスト開放――



 ミリアの手元に青い宝石が降ってきて、両手で掴む。ステータス画面でチェックしてみると、武器ラピスである。アイテム欄にしまった。


 ミリアはラピスをタップして、説明を読む。武器に装着することができるようだ。効果は、セットスキルのスロットランクをアップさせることができる。


 ミリアは操作して、ラピスの項目からマジックブックにラピスを嵌めた。そしてテンションがマックスに上がった。あのシュウジという男は、すごく勘が良い!


 ミリアは訓練場を離れた。シュウジはどこに行ったのだろうか? 彼を探して歩き出した。



 ……お友達になりたいです。



 ◇◇◇


 名前  ミリア


 レベル 8


 HP  800

 攻撃力 9

 防御力 24

 素早さ 24

 魔攻  97

 魔防  24

 運   0


 ステータスポイント 0


 アクティブスキル 『エレキトリックショックサイン』『リカバー』

 パッシブスキル  無し

 セットスキル   スロット1『エレキトリックショックサインLV2』

          スロット2『リカバー』


 ユニークスキル  『死の宣告』


 武器  『初心者のマジックブック(攻撃力+1 魔攻+3)』


 スキン 平民服セット


 ◇◇◇





 ◆◆◆


 作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。恐れ入りますが、次のエピソードも読んでやっていただけないでしょうか? よろしくお願いいたします。


 ◆◆◆


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