1の2 前世の兄
【ミッドベル村の広場へと続く通り道】
シュウジが引き返していくと、村道では騒動が起こっていた。彼は焦って民家の角に身を隠す。黒いローブを着た大男と、平民服であり猫背の男性がバトルをしていた。
大男は両手にダガーを持って振るっており、猫背の男は小さな剣で応戦している。
「おらおら、パツッてやるぜ! 俺は初心者キラーだ!」と黒いローブの大男。
「く、くそう! お前なんて、倒してやるからなあ」と猫背の男。
シュウジはびっくりした。大男の顔は、知ったものであったからである。その頭上にあるHPバーの名前を見る。
ヨウイチ、レベル31。
シュウジよりも半年早く地球で亡くなった実の兄と同じ名前であった。若返ってはいるが、その姿形はシュウジの記憶通りの兄そのものである。筋肉質で巨躯の体つき、大きな鼻、でっぷりとした唇。
……嘘だろ?
……兄さんもこの世界に転生していたのか!?
前世の幼い頃、ヨウイチは暴力でシュウジを痛めに痛めつけた。人嫌いになったのはそのせいである。彼はシュウジのゲームやお小遣い、友達まで取り上げるクソ野郎であった。
バトルはすぐに勝敗がついた。馬乗りになったヨウイチが、猫背の男の顔面にダガーを何度も突き刺す。
ゲームだからだろうか。血しぶきは飛ばなかった。しかし猫背の男のHPはガンガンと減っていき、やがて無くなった。
「う、うわぁぁああああああ!」猫背の男が断末魔を上げる。
「ハアッハアー! パツパツパツパツ! パツッってやったぜ! ゴミゴミゴミゴミ、お前はゴミなんだよ!」
ちなみにパツるというのは、ボコると同じ意味の言葉である。兄が作った造語だった。
猫背の男は赤い光に包まれて消えた。彼が持っていた小さな剣がその場に落ちていた。
ヨウイチはそれを拾い、満面の笑みを浮かべる。その剣を店で売るのだろうか?
ヨウイチがこちらの方へと歩いてきた。
……やばい、ここにいたら見つかる。
シュウジは民家の影から出ることにした。隠れていたところを見つかるよりも、平然と挨拶をした方が格好つくと思った。
「ん? お前は……」眉をひそめるヨウイチ。
「こんにちは、兄さん」右手を上げてシュウジは挨拶をした。
「ハッハー! お前、シュウジか! 本当にシュウジか!? 懐かしいなあ、小僧みたいに若返りやがって! お前もこの世界に来ていたのか?」
「ええ、そうみたいです。それより兄さん、どうして今の男を殺したんですか?」
「当たり前だろ? 俺は殺人ギルド、『闇落ちフェス』のギルドマスターだからだ。この村では初心者狩りを楽しんでいるんだ。どうだ? シュウジ、お前も『闇落ちフェス』に入るか?」
「いえ、結構です。それより、あまり人をいじめない方が良いと思いますよ」
「何い? おめえ、俺に意見しようってのか? シュウジの分際で」
「意見ではありません。個人的な感想です。それより、俺は先を急ぐんで、今日はこれで」
シュウジは広場へ向かって歩き出す。ヨウイチの隣を通り過ぎた。その際、心臓がバクンバクンと振動した。
ヨウイチはゆっくりと振り返り、シュウジの背中に言い放つ。
「シュウジ、お前のユニークスキルは何だ?」
「『思考力』です」立ち止まって、シュウジは顔だけ振り返る。
「何だそれ? ハズレ臭えスキルだな!」
「そうですかね」シュウジはまた歩き出した。
「よう、シュウジ。仲良くしようぜー? お前の大切な物、また全部奪ってやる!」
「今度はそうは行きませんよ」振り返りもせずに言った。
「こりゃあ楽しいオモチャを見つけたぜー。今日は最高の気分だ! ヒャッハー!」
「……」
シュウジはもう何も言わなかった。ヨウイチが追いかけてくる様子は無い。そのことにひどく安堵している自分がいて、シュウジは自分が情けなくなった。
力が無い。今の自分では、ヨウイチを怒らせたらたちまちにPKされてしまうだろう。せめてヨウイチよりも強くならなければいけない、そう思った。
◆◆◆
作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。恐れ入りますが、次のエピソードも読んでやっていただけないでしょうか? よろしくお願いいたします。
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