1の1 初めての狩り




 【ミッドベル村の広場】



 淡い燐光に包まれて、シュウジは地面に降り立った。自分の姿を眺めてみる。異国風の平民服とでも言えばいいのだろうか? 茶色い服の上下を着ている。


 背丈からして、シュウジの年はおそらく18ぐらいだ。83歳から一気に若返ったものである。彼は苦笑した。


 ここはゲーム世界という話だが、武器や防具を持っていない。



 ……これからどうすれば良いんだ?

 ……この世界はゲームだから、モンスターを狩りに行けば良いのか?



 ゲーム知識はあった。前世では、VRMMORPGなどをよく遊んだものである。中年、高齢になってからも彼はゲームに夢中だった。


 家族がいなかったため、会社の給料や貯金をゲーム課金に費やす毎日であった。とりあえずゲーム内の情報が欲しい。彼は辺りを眺めてみた。


 村の広場にはシュウジと同じ年格好の男女が何人もいた。友人たちと会話に花を咲かせている者たち。ひとりぼっちでベンチや噴水の端に腰掛けている者。


 シュウジと同じ服を着た者も多数いて、女性はスカートだ。違う格好をしている人たちもいる。おそらく彼らは、シュウジよりも早くこのゲームに来ていた転生者たちだろう。


 考えた末、シュウジは店を探すことにした。ゲーム世界なのだから、村には道具屋がどこかにあると思った。その店員に情報を尋ねてみよう。


 歩き出す。広場の通りの横っちょに、道具屋はすぐに見つかった。ポーションの瓶や薬草の葉が描かれた看板が出ていたのですぐに分かった。


 シュウジは扉を開けて入っていく。カランカランとベルの音がした。他に客はいないようだった。


 木製の床を歩き、カウンターの奥にいるオッサンの店員に話しかける。



「すいません。なあ、あんた、ちょっとゲームの情報を聞きたいんだが?」


「あん、どうした? 少年」短髪にあごひげの店員の低い声。


「俺はこの世界に来たばかりなんだ。ちょっと、色々教えてくれないか?」


「少年。情報は金だ。俺にいくら払える?」


「金? 金は、今は持っていません」


「じゃあ話せねえなあ」と首を振るオッサン。



 シュウジは心の中で舌打ちをした。無料で教えてはくれないようだ。彼は頭を垂れる。



「そうか。悪かったな」


「ああ。金が出来たらまた来な。大銅貨一枚につき一分間、俺の知っている情報を話してやる」


「……分かった。金が出来たらまた来る」


「ああ。幸運を祈るよ」



 シュウジは店を出た。情報を聞き出すには金を払う必要があるようだ。情報について、広場にいる人間たちに尋ねるという方法もあった。


 シュウジは人嫌いであった。だが、人見知りではない。しかし、なるべく知り合いを作りたくなかった。


 ここは一つ、村の外へ出てみよう。この世界はゲームなのだから、モンスターを倒せば金を落とすかもしれない。そう思い、シュウジは通りを歩いて村の出口を目指した。



 【ミッドベル村の北出口からほど近い、草原地帯】



 そこにはスライムやゴブリンのモンスターがいた。他にもマポリンという名前の青いクラゲの姿をしたモンスターもいる。モンスターの頭上にはHPバーが出ており、レベルも表示されていた。


 モンスターたちのレベルは2、あるいは3だった。人間の男女たちが武器を持って、モンスターと戦い倒している。地面に沈んだモンスターは赤い光を帯びて消えていた。


 死体となったモンスターたちが銅貨を落としている。なるほど、やはり金を稼ぐには狩りをする必要があるようだ。


 シュウジは遠くからその光景を眺めていた。ふと思い立つことがあった。右手を胸の前に掲げて、ゲームでお決まりのセリフを唱えてみる。



「ステータスオープン」



 目の前に青色のステータスが現れた。操作して、自分の持ち物やパラメーターをチェックしてみる。


 スキンは平民服セット。他に持ち物は無かった。シュウジはレベル1であり、二つ覚えているスキルがあった。


 一つ目は、アクティブスキルの『ウインドアサルト』である。二つ目は、ユニークスキルの『思考力』だ。そう言えば、後者のスキルを女神から受け取ったのだった。


 『思考力』はどんな効果だろうか?



 ……思考力って言うからには、思考が早くなるのか?

 ……戦闘では役に立ちそうに無いな。



 『思考力』はハズレスキル臭かった。


 自分の頭上を見ると、HPバーがあった。彼のHPは現在100である。それはステータスのパラメーター欄に記載されていた。


 モンスターに負けて、この世界で死ぬとどうなるのだろうか? 村の広場にリポップするのか。それとも永遠に死んでしまうのか。


 分からなかった。情報が無い以上、とりあえず死なないように気をつけた方が良いだろう。


 シュウジは顔をしかめつつ、モンスターの近くに歩いて行った。一番弱そうな緑色のスライムを見つけて、かかっていく。レベル1の自分でも倒せるだろうか?



「ぽにょん!」とスライムが鳴き声を上げた。


「悪いが倒させてもらうぞ!」とシュウジ。



 黒い靴でスライムを蹴りつけた。そして何度も何度も踏みつける。



「ぽにょぽにょっ!」怒ったようなスライムの声。



 彼は何度も攻撃するのだが、スライムのHPはちょっとずつしか減らない。ふとスライムが体を弾ませて、彼の腹に体当たりをした。シュウジのHPがごりっと削れて、四分の一ほどが減った。


 痛みは無かった。



 ……マジか!?



 危機感に体があわ立つ。


 シュウジはすぐに逃亡を決意した。背中を向けて村の入り口まで走る。スライムは追いかけて来たが、彼が草原を出ると引き返していった。



 ……はあ、はあっ。

 ……やばい、死ぬところだった!



 スライムの体当たりを四発くらったら、HPが無くなりそうな塩梅である。その上こちらの攻撃はダメージを全然与えられない。いまシュウジは、一番弱いモンスターさえ倒せない状態であった。



 ……どうする?



 武器や回復アイテムを買う金は無い。


 考えると、彼はすぐに良い発想が思い浮かんだ。ユニークスキル『思考力』のおかげだろうか? 一瞬で答えが出た。それは先ほどスルーした案である。


 広場にいる人間たちに、強くなるための情報を聞くのだ。人嫌いの彼だが、コミュニケーション能力が無い訳ではない。今の状況を打破するには、誰かに協力を求めなくてはいけないだろう。


 ため息をつきつつ、シュウジは村の広場へと歩いて戻るのであった。村の入り口には看板が出ており、この村の名前はミッドベルと言うようだ。歩いている途中、時間の経過でHPが少しずつ回復することも分かった。





 ◆◆◆


 作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。恐れ入りますが、次のエピソードも読んでやっていただけないでしょうか? よろしくお願いいたします。


 ◆◆◆

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