第12話 好奇心を食ってるようなもの





「……いや、大量すぎでしょ」

 実家から届いた荷物を開け、段ボール箱を覗き込んで室賀が呟く。しゃがんでいる彼の上から、立ったまま同じようにして覗き込んでいる眞壁は無言だ。

 中身は全て、キュウリだったのだから。




 実家は土地があり、夏の時期は何かしら野菜が大量にとれるため、こうなることは予想していたが中身が全部キュウリの箱が来るとは思っていなかった。因みに差出人は兄の穂高で、キュウリに挟まれた白い紙には達筆な字で『眞壁一郎太に一食につき一本は与えてあげなさい』と書かれている。

 書いたのは恐らくもう一人の兄、筑波だろう。

「……毎日3本食ったとて、そうそう減るものでもないだろ」

「……一本『は』って書いてるところからして、『それ以上食え』という意思表示は感じるなぁ」

「……限度ってもんを知らんのか、お前の兄たちは」

「……あー、なんていうか量が多ければ多いほど正義、みたいなところはあるし……高登谷家の人間は本当に加減というものを知らないんだよな……」

 この大小さまざまなキュウリをどうやって消費しようかな、と考えながら、室賀はとりあえずお礼の電話を穂高にかけた。

「……兄上、夏の贈り物が無事に届いたよ、ありがとう。……ものすごく……たくさん…」

『……うむ、それについてはこちらも誤算が生じてその量になってしまってな……。眞壁一郎太にとりあえず食わせておけ、あいつどうせインスタントや外食と酒で生きてるようなものだろ』

「……うーん、否定できないね。だいぶ改善されたけど、仕事柄お付き合いは多いし」

『……ほう、室賀が改善してやったのか。つまりは奴のためにお前の貴重な時間を割き、忙しいのに手間をかけてやってるということだな、前言撤回、しばらくキュウリのみ食わせてろ』

 ほんとに眞壁が関わると過激派になるな、この兄は、と思いながらも、なんで今回は異様にキュウリが多いのかを聞く。

『……誤算が生じたんだ……。筑波とゴールデンウィークに開催される苗まつりに行って、いつも通りに夏野菜の苗を買ったんだが……興味本位でキュウリの品種を変えたんだ。噂の……【どちゃくそ収穫できるキュウリ】を』

「……な、あの品種名がダイレクトすぎる【どちゃくそ収穫できるキュウリ】の苗を!?」

『品種名がストレートすぎるし、筑波ともどれくらいの量になるか見てみたいよなってことで』

「……で、こうなった、と」

『……うむ』

 あの品種名に偽りはなかったですね兄上、と電話の向こうで筑波の声もする。どうやらキュウリを齧っているらしい。

 好奇心で手を出したのが災いしたようだ。しかも試しに一つをその品種にしたわけではなく、半数以上を【どちゃくそ収穫できるキュウリ】に変えたという。本当に加減を知らない人たちだな、と室賀はため息をついた。

「……かなりモンスター級のサイズがいるけど」

『……それも仕方のないことだ、キュウリにはよくある、気が付いたらモンスターが生まれているアレだ』

 しかも育たせすぎてキュウリのエリアがジャングルと化し、通常サイズでは見つけるのも困難らしい。

『因みに来週はシシトウとパプリカを送る予定だ。お前も好きだろう』

「そうそう、肉詰めとかするにもおれはピーマンより肉厚のパプリカの方が好きなんだよな。嬉しいよ、買うと意外に高いしね」

『楽しみにしていてくれ、なかなか出来がいいと筑波と自負しているところだ』

「ありがとう、兄上」


 通話を終え、とりあえず箱からキュウリ一本取ると眞壁に差し出す。なんとなく電話の内容が聞こえていた眞壁は、無言でそのモンスターを受け取った。



 

 次週、今度は段ボール箱いっぱいにパプリカが並べられ、隙間にはシシトウをこれでもかと詰められたものが届き、その加減のなさはわかってはいたがやはり目の前にすれば言葉を失うしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

室賀くんと眞壁さん(仮) とりのめ @milvus1530

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ