第5話 お礼が言いたい
リンが影山蔵人に助けられてから、土日を挟み、月曜日になった。
リンは元気にクラスに登校すると、アンナとカレンがいた。
「おっはー!」
リンが言うと、アンナは苦笑いをしながら
「おはよー。っておっはー古いよ!」
と返す。
カレンもアンナに続いてあいさつする。
アンナ「はい。おはよ。そういえば、先週の金曜日、先、帰ったでしょ?彼氏との予定でもあったの?」
リンは、顔をひきつらせた笑顔で言う。
「ちょっとね・・・」
リンは、心の中で
体育倉庫に閉じ込められてたんだよ!
影山が助けてくれなかったら今頃大変だったよ!
と突っ込みを入れた。
「おーい!何の話してんの?」
声をかけてきたのは、陽キャ男子の佐久間隼人(さくまはやと)だった。
佐久間隼人は、身長170、細身、茶髪のチャラ男、誰にでも明るく分け隔てなく接する男子だ。
「隼人、おはよー。金曜日にリンが先帰ったからどうしたのって話だよ?」
アンナが答えると、隼人は
「やっぱ、リンって彼氏いたんだ!」
と言うと、リンがあわてて
「いないから!」
と答える。
「隼人!冴木さん困ってるからやめろって!冴木さん、ごめんね?」
隼人の後ろから話しかけてきたのは、杉木太陽(すぎきたいよう)だった。
杉木太陽もクラスの陽キャ男子の1人で、身長175、細身、金髪でスポーツ万能、勉強はいまいち、性格が明るく、クラスの中心にいる男子で、隼人ともう1人の男子と一緒にいる事がほとんどだった。
「隼人。太陽の言うとおりだぞ。」
太陽の隣に立つ如月アキトが言った。
如月アキトも陽キャ男子の1人で、身長173、細身、赤茶な髪、頭脳明晰、スポーツ万能、性格も明るく、爽やかキャラ。
アキト、太陽、隼人は、ルックスも良く、陽キャ男子としてクラスの中心人物となっていた。
「良いよ。気にしないで。」
リンが明るく返事する。
「この土曜日にね、桜花駅近くのマリーズに行ったら、可愛い服があってね、」
アンナが桜花駅の近くにあるマリーズという洋服屋に行ったという話を始め、その後、陽キャ六人はどこに美味しいケーキ屋ができたとか、どこに行きたいてか、たわいもない話をして盛り上がる。
ふと、リンは影山蔵人を見ると、彼はいつも通り机に突っ伏して寝ていた。
リンは思った。
まだ、助けてもらったお礼言ってないな。
後でこっそりお礼言おうかな。
と。
太陽は、リンが影山蔵人を見ている事に気づく。
「影山だろ?あいつ、いつも寝てるし、友達と話してるところ見たことないよな。性格も暗そうだし。学校来て楽しいのかな。」
太陽がリンに話しかける。
リンは、少し困った笑顔をしながら答える。
「まぁ、色んな人がいるよね・・・」
「おい、太陽。冴木さんが困ってるだろ?あんまり、関係ないやつの話題出すなって。」
アキトが太陽に一言言う。
アキトは、困ったリンに気を使ったのだろう。
「陰キャなんて気にしない。気にしない。」
隼人が続く。
「ああいう人って二次元の美少女が彼女なんでしょ?」
アンナがのってきたが、カレンは黙っている。
「まぁ、良いじゃない。あんまり、人を悪く言うの良くないよ?」
「リン、優しいね。まぁ、明るく、可愛いリンが影山くんと関わる事無いし。気にしないでおこう。」
アンナに悪びれたところは無く、別の話を始まる。
リンは複雑な気持ちになった。
いやいや、もう関わってるし。
倉庫から助けてくれた恩人だし。
でも、私のイメージもあるし、お礼は皆がいない時にしよ。
リンは心の中で呟いた。
そして、放課後。
リンは、アンナとカレンと一緒に帰る話になったが、影山蔵人にお礼を言いたいリンはやんわり断っていた。
「ごめんね。私、ちょっと用事あるから先帰ってて。」
「そうなの。じゃ、しょうがないね。また、明日ね。」
「じゃあ。」
アンナとカレンは、先に教室から出て行った。
リンは、影山蔵人に話かけようと、席を見ると、・・・いなかった。
「早!え、いないし!」
リンが1人で騒いでいると、アキトが話かけてきた。
「冴木さん。どうかした?」
「いや、別に。ごめんね。私、帰るね。」
リンは、クラスメイトに独り言を言ってる姿を見られて恥ずかしくなり、ダッシュで教室から出て行った。
リンは桜花駅近くにある桜花公園の中を歩いていた。
「お礼言えなかった~てか、消えるの早すぎない?ちょっと待ってくれたって良いじゃん。まぁ、そんな仲じゃないけど、」
「この子、迷子かな?」
「多分、そうだな。飼い主が探してるかもな。」
リンがふと見ると、小学三年生くらいの男の子と女の子、桜花高校の制服をきた男性が子犬を触りながら話していた。
高校生の男性は、犬を撫で回しながら、子犬と戯れていて、慣れてる様子だった。
その高校生は、黒髪で前髪が長く、下ろしていて、制服はサイズが大きく、・・・って影山蔵人じゃん!っとリンは心の中で突っ込む。
「お兄ちゃん。僕たち、そろそろ帰らないと行けないんだけど、ワンちゃん、どうしよう?」
小学生達が困ったような顔で言った。
「大丈夫だ。俺がしばらく見てるから。先、帰りな。」
「良いの?」
「きれいな狗さとだから飼い主も探してるさ。俺がしばらく待ってるから安心しろ。気をつけて帰れよ。」
「うん!ありがとう!お兄ちゃん!じゃぁね!」
小学生達は、自転車に乗って帰って行った。
リンは、影山蔵人って優しいんだなと感じて、ニヤニヤしてしまう。
リンは、影山蔵人に話しかけようと、近づいて行く。
「おい、ワンワン。お前、飼い主どうした?まったく。心配してるぞ?ほれ、ほれ。」
影山蔵人は、子犬に話かけながら、両手で撫でまくっている。
こりゃ、犬好きだわ。大好きだわ。と見れば分かる程、ちょっかいを出している。
リンは、小学生の前でカッコつけてた姿から、犬にデレデレの姿に変わった影山蔵人の姿を見て、リンは思わず、吹いてしまう。
プッ
リンと影山蔵人は目が合う。
「こ、こ、これは、その、あの、」
「影山くん、キョドりすぎだよ。」
リンは腹を抱えて笑う。
影山蔵人の顔は真っ赤だ。
右手で子犬を撫で回すのはやめないが。
「あははは、はー、お腹痛い。影山くん、犬どうしたの?」
「あ、えっと、迷子みたいで・・・」
影山蔵人は慌てて、説明する。
右手で撫でるのはやめないが。
無意識なのだろう。
「そっか。影山くん、犬に慣れてるね。飼ってるの?」
「いや、初めて触った・・・」
一瞬、時が止まる。
「初めてなの!?そんなに慣れた感じなのに!?」
リンは思わず、突っ込む。
「だって、可愛いから・・・触りたいじゃん?そしたら、止まらないみたいなね?」
影山蔵人は、右手で犬を撫でながら、困ったように左手で頭をかいた。
「まぁ、いいや。で、ワンワンどうするの?」
「まぁ、飼い主が来たら渡して、ダメなら交番に持っていくよ。」
「そっか。」
すると、首輪のついたリードを持った20代くらいのスラッとした金髪ロングヘアの女性が慌てて、こっちに走ってくる。
「茶々丸(ちゃちゃまる)~!」
多分、子犬の事だろう。
「このワンワンの飼い主ですか?」
リンが女性に話かける。
「そうです。散歩してたら、元気良すぎて。首輪取れたら、逃げちゃって。」
「そうだったんですね。」
女性が子犬を抱き上げると、影山蔵人も立ち上がる。
「・・・小学生達が保護してくれました。俺は、ただ、いただけなんで。じゃ。」
影山蔵人は右を上げると、振り替えってそそくさとその場逃れをはなれていく。
リンは、慌てて女性にお辞儀して影山蔵人の後を追った。
「ありがとう!」
女性が叫んでいるのに向かって、リンは手を振りながら影山蔵一人に話しかける。
「急にどうしたの?」
「・・・別に。飼い主見つかって良かったよ。」
その時の影山蔵人の顔は何となく残念そうだった。
「もう少し触りたかったんでしょ?」
「・・・否定はしない。」
影山蔵人は恥ずかしそうだった。
「あ、そういえば、倉庫から助けてくれてありがとう!まだ、お礼言えてなかったね?」
「あ、うん、まぁ、たまたま通りすぎただけだから、気にしないで。」
「通りすぎただけって、体育倉庫、学校の端だよ?」
「まぁ、帰り道だったんだよ。じゃ、俺、こっちだから。」
影山蔵人は、リンとの話を切ると、足早にその場を後にした。
「あ、待って、あ、あ、もう、じゃあね!急にどうしたんだろ?急に冷たくなっちゃった。」
リンは影山蔵人の後ろ姿を見送り、自分も帰路に着く。
リンは帰り道、影山蔵人の事を考えていた。
きっと心優しい人なんだろうな。
ちょっと恥ずかしかったのかな。
と。
この時、リンは影山蔵人に興味を持った瞬間だった。
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