第6話 二人だけの秘密
リンは、影山蔵人に興味を持ち、日々、観察を始めた。
観察結果、だいたい机に突っ伏して寝ている、気づくと昼休みに姿を消している、帰るの早い、友達と話してるの見た事無いという事が分かった。
リンは、影山蔵人が昼休みに教室にいないのが気になった。
「どこ行ってるんだろ?友達のいる他の教室かな?」
リンは考えるが、正解は分からない。
「よし!尾行してみよう!」
名探偵リンが誕生した。
次の日。
リンは昼休みになると、影山蔵人を観察し始める。と、
「リン!ごはんにしよ!」
アンナに話かけられ、振り向いて話しているうちに影山蔵人の姿は無かった。
尾行失敗。
次の日。
リンは、今日こそはと影山蔵人を観察していると、
「どうした?誰か気になるの?」
カレンが言い、
「え!リン!好きな人でもできた誰?誰?」
とアンナも参加してくる。
リンは慌てて、誤解を解こうとするが、正直に影山蔵人を観察していたとは言えない。
「ち、ち、違うよ!ボーッとしてただけだよ。」
とぼかすのが精一杯だった。
そして、気づくと影山蔵人の姿は無かった。
尾行失敗。
次の日。
リンは、昼休みになった瞬間、席を立ち、アンナ達に
「売店行ってくる!」
と声をかけ、影山蔵人を見ると、影山はカバンを持って教室から出て行ったところだった。
リンもカバンを持って、影山蔵人を追い、廊下に出ると、
「あれ?冴木さんも売店?一緒に行こうよ。」
アキトだった。
「あ、え?」
気づくと、影山蔵人の姿は消えていた。
リンは内心、
くっそー、忍者か!
と影山蔵人に突っ込みを入れ、アキトの方を見ると、
「分かったよ。一緒に行こう。」
と空気を読んで、一緒に売店に行くことになった。
尾行失敗。
次の日。
リンは、昼休みななると、急いでアンナ達に「ちょっと用事あるから。」と言って、影山蔵人を追う。
リンが廊下に出ると、アキトと太陽、隼人が三人で話していて、リンに気づいたアキトが話しかけてきた。
「冴木さん。今日も、」
「ごめんね。ちょっと用事なんだ。」
リンは止まらずに廊下の先にいる影山蔵人を追った。
この時、アキトはリンが影山蔵人を追っているのだと感づいた。
「あの陰キャが。」
アキトは小声で呟き、表情が一瞬だけ曇ったが、誰も気づかない。
リンが影山蔵人を追っていると、影山はどんどん歩いていき、校舎の外に出て、リンの閉じ込められた体育倉庫の方に向かっていった。
影山蔵人は、体育倉庫の裏に歩いて行く。
「あれ?こんなところに何の用事かな?人なんて来ないのに。」
リンが影山蔵人の後をついていき、建物の影から見ると、そこには使わなくなった机や椅子が乱雑に置かれている場所で、屋根があって、日陰になっている場所だった。
影山蔵人は、そこで椅子に座り、弁当を広げて、ごはんを食べていた。
影山蔵人の食べていた弁当の中身は、ごはんの上にタレに絡めて焼いた肉ときんぴらごぼうをのせたものだった。
リンはお腹が減っていた事もあり、思わず、
「うわぁ、美味しそう。」
と言ってしまう。
影山蔵人は、リンの方を向く。
二人は、目が合い、時が止まる。
リンは、慌てながら、影山蔵人に話しかけた。
「え、えっと、ここ人が少なくて良いね!」
「え、あ、まぁ、そうだね。」
「私も一緒に食べて良い?今日は静かなところで食べたくて。」
「え、ん、どうぞ。あ、椅子に埃たまってるから、これで拭いてから座って。はい。」
影山蔵人は、ポケットからハンカチを出してリンに渡す。
「ありがとう。」
リンはハンカチを受け取り、椅子の上を拭いてから座る。
「ハンカチ洗ってから返すね。」
「いいよ。そんな事しなくて。」
影山蔵人はリンが持っていたハンカチをパッと取り上げ、ポケットにしまう。
「・・・」
リンは、どうしたら良いか分からずにいると、影山蔵人は弁当を食べ始めた。
「早く食べないと昼休み終わるよ。」
影山蔵人がリンに言った。
「あ、そうだね。いただきます。」
リンも弁当を出して食べ始める。
二人は黙々と弁当わ食べる。
リンは影山蔵人が昼休みを邪魔されて怒ってないか心配になったが、影山蔵人の表情は無表情だが、どこか優しげで怒っていない事は分かった。
リンは弁当を食べ終えると、弁当をカバンにしまいながら、
「影山君。何かごめんね。昼ごはん邪魔しちゃって。もう来ないから安心して。」
「気にしてないし、ここは俺だけの場所じゃないから、使いたくなったら来れば良いよ。安心して、俺はから話かけたりしないし、静かにしてるから。静かにごはん食べたい時はどうぞ。」
「え!いいの!じゃ、明日も来るね!ありがと!影山君!じゃ、またね!」
リンは手を振って、教室に戻って行った。
影山蔵人は、リンの後ろ姿を見ながら、
やっべ。二人だけで、女の子と昼ごはん食べちゃったよ。
俺、青春しちゃってるじゃん。
でも、冴木さんは静かなところで食べたかっただけだろうし、これからは邪魔しないように気を付けよ。
と思うのだった。
でも、恋愛経験ゼロの男子高校生には、大イベントで、この後、影山蔵人は機嫌良く過ごしたのだった。
次の日。
影山蔵人が体育倉庫の裏に来ると、そこには冴木リンがいた。
「あ!影山君。お先。」
「あ、あぁ。」
影山蔵人の顔は真っ赤だ。
まさか、本当に来るとは思わなかった。
影山蔵人は、静かに黙々と弁当を食べていると、
「ねぇねぇ、影山君の好きな食べ物は何?やっぱ肉?」
「え?ま、まぁ、そうだね。」
「今日もお弁当に入ってるもんね!お母さん、大したもんだね。」
「・・・えっと、これ、母さんが作った弁当じゃないんだ。今、一緒に暮らしてないから。」
「ごめん!まさか離婚してるなんて!お父さん弁当だったんだね!」
リンは慌てて、謝る。
「あ、え?何で離婚?あ、母さんと一緒に繰らしてないって、あ、ごめん。俺、1人暮らしなんだ。両親は仲良いし、家族仲も良いよ。」
「あ、そうなんだ。良かった。」
リンは安心した顔になる。
「あれ?でも、そのお弁当って、どうしてるの?自分で作ってるの?」
「うん。まぁ、そうだね。ごはん炊いて、肉やいて、きんぴらごぼうのせるだけだから楽なんだよ。」
「そっか。実は私も親元離れて、今、おじいちゃんとおばあちゃんの家に住んでるんだ。おばあちゃんに負担かけたくなくて、お弁当も自分で作ってるんだ。作るって言っても、前の日の夜ごはんな煮物とか入れるだけだけどね!」
「へぇー。でも、大したもんだね。冴木さんって優しいんだね。」
前髪で目が見えないが、影山蔵人が微笑んでる気がした。
「あ、いや、何かありがと。明日から毎日じゃなくても、たまにここに来るね。アンナとカレンが知ったら騒がしいだろうし。」
「気にしないで。別に俺だけの場所じゃないし。」
「えー。でも、ここは二人だけの秘密の場所が良いから、アンナとカレンには話さないよ!」
リンは、満面の笑顔で答える。
影山蔵人は、その笑顔にドキドキしてしまう。
「あ、・・・そっか。」
影山蔵人は、顔が赤くなっているのを隠すように下を向いた。
「あ、そろそろ戻ろっと。先、戻るね。じゃ、またね!」
リンは手を振りながら教室に戻って行った。
「・・・美人の笑顔。可愛い過ぎ。すげぇ、破壊力。俺、死ぬかと思った。はー。」
影山蔵人は、空を見上げながらため息をついた。
「でも、期待しちゃダメだよな・・・。」
影山蔵人は、ボソッと呟いた。
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