第3話 影山蔵人の過去と今
「先生!柔道おもしろすぎます!もっとやりたいです!」
道場の先生は、目を輝かせる蔵人に微笑んだ。
「センスがあるね。もっと練習すれば、きっと強くなれるよ。」
蔵人は、先生の言葉を励みに、毎日一生懸命練習した。汗だくになりながら技を磨く日々は、彼にとって最高の時間だった。
地区大会で優勝したときには、先生や両親、そして仲間たちと喜びを分かち合った。
全国大会出場も夢じゃない!そう確信していた。
中学に入り、練習の強度が上がった。
でも、蔵人の心はいつも柔道に向いていた。「もっと強くなりたい!」その一心で、練習に打ち込んだ。
しかし、無理な練習のせいで、肩を故障してしまう。
病院で医師から「柔道を続けるのは難しい」と告げられたとき、蔵人の心は大きく打ちのめされた。「なんで…?」涙が止まらなかった。
中学校時代、光を失い、影に潜む。柔道ができなくなった蔵人は、自分を見失ってしまう。
これまでの人生の中心だった柔道がなくなり、何をすればいいのかわからなかった。
学校ではいつもひとりぼっちで、クラスメイトともうまく馴染めずにいた。
次第に、蔵人は周囲とのコミュニケーションを避けるようになり、心を開くことをやめてしまった。
明るい笑顔を見せることもなく、いつも陰鬱とした雰囲気を漂わせていた。
「ケガが治れば、また柔道できる」
「早く治ると良いね」――柔道仲間やクラスメイトからの励ましの言葉は、蔵人の心に深く突き刺さった。しかし、蔵人の心には「この体じゃ、柔道なんてできない」「お前らに何がわかんだよ」という思いが渦巻いていた。
友達の優しさが、かえって心の傷となり、友達との仲は悪くなるばかりだった。
蔵人は、友達の励ましを拒絶し、孤独に浸るようになった。
次第に、友達も蔵人から離れていき、自分の居場所は無くなり、学校にも行かなくなる。
最終的には、中学の卒業式にも出席せず、周囲から完全に孤立してしまった。
だが、影山蔵人は、両親に心配され、地元から遠い県外の桜花高校を受験し、見事合格する。
影山蔵人自身も、再出発のタイミングがほしかったのか、高校に入学する事を決める。
だが、影山蔵人の体は柔道のおかげでガッチリ型だったので、大きめの制服を着て体型をわ隠した。
問題はそれだけじゃなかった。
長らく友達と話していない影山蔵人は、人との接し方が分からず、ずっと机で寝ていた。
友達もできない。
クラスの陽キャラがうるさい。
学校やめたい。
影山蔵人は、そう考えていた。
ある日の放課後。
陽キャラ達の話が聞こえた。
冴木リンが一人で先に帰ったなんて言っている。
どうもクラスにいないかららしい。
いやいや、さっき体育倉庫で片付けしてたろ!?
机にカバンもあるじゃん!
絶対、帰ってないだろ!
と思ったら、陽キャラ達帰っちゃったよ。
まぁ、いいや。
俺は少し寝て帰ろ。
・・・
うーん。うわっ、もう暗いじゃん!
帰ろっと・・・
って、冴木リンのカバンまだあるじゃん!
まだ片付けしてんの?
まぁ、俺には関係ないわ。
影山蔵人は、自分のカバンを持つ。
なぜか、足は体育倉庫に向かう。
気になるわけじゃない。
下校時間を守ってないやつがいないか見回りしてるだけ。
いるわけない。
学校の端にある体育倉庫に近づくと、小さな声がする。
あれ?助けてって言ってない?
影山蔵人は、倉庫の扉のロックを外して扉を開けた。
中にいたのは冴木リンだった。
影山蔵人は、リンを見て可愛いと思った。
心臓が大きく暴れている。
顔も燃えてるんじゃないかってくらい熱い。
ヤバい。
カッコ悪すぎる。
何か言わなきゃ。
下校時間過ぎてるよ。早く帰りな。」
何言ってんだよ!
影山蔵人は、急いでその場から歩き去る。
それしかできないのだ。
冴木リンが目を丸くしながら、あわてて言う。
「えー、なんでそんなこと言うの!この状況だよ!?影山くん、先生じゃないし、自分もそうだよ?もっと驚くべきだよ!って話聞けえぇぇー!」
影山蔵人は何も言わなかった。
影山蔵人が家に帰ると、母親が蔵人の顔を見て言う。
「あら、機嫌よさそうね?良い事あった?」
蔵人は素っ気なく返す。
「別に。」
母親は一言。
「ふーん。」
蔵人は部屋に入っていく。
母親は気づいていた。
蔵人の口元が少し上がっていた事に。
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