『落研ファイブっ』アナザーストーリー

モモチカケル

しほりとの交際と別れ(大山詣り)までのアナザーストーリー

第1話 湘南の激闘(27話)翌日

https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330668518930015 の続きです。←に出てくる『お百度参り/藤巻しほり』=本投稿における『藤崎しほり』です。


 幾星霜いくせいそうの時を経て、高校ビーチサッカー界の強豪に成りあがる私立一並ひとなみ高校ビーチサッカー部――通称『落研ファイブっ』――。

 親子ほどに年の離れた後輩たちに、『湘南しょうなんの激闘』と語り継がれる事になる初練習試合の終幕から一夜明けた放課後の部活中。


〔餌〕「生霊退散生霊退散いきりょうたいさんいきりょうたいさんっ、急急如律令きゅうきゅうにょりつりょうっ。秘孔突ひこうづきっ!」

〔シ〕「磁気バンじゃねえか。何やってるんだよ」

〔餌〕「生霊退散いきりょうたいさん秘術ひじゅつです」

 シャモの第七頸椎だいななけいついに向かって、餌が出し抜けに手を伸ばして磁気バンを張り付ける。

 首元をさぐったシャモは、餌が貼った磁気バンをべりっとはがした。

〔餌〕「はーがーさーなーい。ねえシャモさん、昨日から生気せいきが無くなっていますって」

〔シ〕「おい今俺の頭に何を掛けた」

〔餌〕「粗塩あらじおです。生霊退散生霊退散いきりょうたいさんいきりょうたいさん

 うるせえよ、とぶつぶつ言うシャモの切り返しにもいつもの切れがない。


〔仏〕「真面目な話、生霊いきりょう女を、お百度参ひゃくどまいりをどうする気だよ。今ならフェードアウトできるぞ。逃げるなら今だ」

〔シ〕「そういや、お守りだって言ってしほりちゃんから貼られたんだけど。これ何」

 シャモは左二の腕をまくり上げて、お百度参りこと藤崎しほりから貼られたシールを仏像に近づけた。

〔仏〕「梵字ぼんじシールか。魔除けやファッション感覚で有難がってるやつらはいるな。シャモが貼られたのは梵字ぼんじ、つまりサンスクリット語。そのうちの『キリーク』だ」

 梵字シールの貼られたシャモの左二の腕を見るなり、仏像は文字を判別した。


〔三〕「うちの婆ちゃんが似たようなキーホルダーを持ってんな」

〔餌〕「かの電波系で有名な『ゆんゆん』愛読者層に刺さる文字って事ですね」

〔仏〕「『ゆんゆん』読者でなくとも、仏教徒なら見た事はあるはず」

〔下〕「たしかに、常滑とこなめのじいちゃんの墓には、こんな文字が書かれた木の板(卒塔婆そとうば)があったっす。神社のお札の次は仏教って、どれだけ自分に自信がないんだろ。見た目は悪くないのに」

〔仏〕「しっかりしろ下野しもつけ。お前まで取り込まれてどうする」

〔下〕「取り込まれて無いっすよ。あんなのと関わったら終わりですって」

〔シ〕「ちょっと、俺の女バカにすんの止めてくれる」

 下野の鋭い拒絶きょぜつの声に、にわかにシャモが気色けしきばんだ。


〔一同〕「ええええええええっ! 俺の女ーっ?!」

〔三〕「急展開過ぎるだろう。昨日の今日で」

〔仏〕「どんな術を掛けられたらそんな事に」

〔餌〕「それにしちゃシャモさん全く嬉しくなさそうなんだけど。カラオケに行った日の方が、よっぽど浮かれ騒いでたじゃないですか」

〔多〕「What's up,guysどうした野郎ども? バッファローの骨でも見つけたか」

 騒然とする部員に、出席簿片手にやって来た多良橋がたずねる。 


〔仏〕「例の生霊女に取りつかれちまったらしい」

〔餌〕「シャモさんが、『お百度参り(しほり)』のお供え物になったのです」

〔多〕「おっ、彼女持ちになったのか。そりゃおめでとう。後でプレゼント渡すわ。何でそんなに浮かない顔を」

〔シ〕「そんな事ないっすよ。俺いつも通りです」

〔三〕「絶対明らかにいつもよりテンション低すぎだって」

〔仏〕「本当におかしいよ。目が違うもの」

 そんな事はねえよと力なくつぶやくシャモは、一人でビーチサッカーピッチのブルーシートを取り外しに掛かった。


※※※


〔三〕「シャモが牡丹灯籠ぼたんどうろうみたいになったらどうしよう」

 明らかに生気の無いシャモを遠目に見ながら、三元が仏像にむかって心配げにささやいた。

〔仏〕「そう言えばあいつ去年の文化祭の演目決めの時に、牡丹灯籠ぼたんどうろうをやれって俺に向かって散々騒いだよな。落語初心者があんな超大作をどうやって演じろと。おかしな事をと思ったが、もしかしてその時からロックオンされていたのか」

 落語の怪談物かいだんものの代表的な存在であり、歌舞伎かぶきや映画・演劇などにもなった『牡丹灯籠ぼたんどうろう』。日本三大怪談の一つに数えられるそれは、少年時代を米国で過ごした仏像ですらその存在を知っていたレベルの超有名作品だ。


〔三〕「牡丹灯籠ぼたんどうろうのおつゆに取りつかれたシャモが、お百度参りを召喚しょうかんしちまったってか。確かにお百度参りは幸薄系の美少女だよな」

 一人黙って淡々とストレッチを始めたシャモを見ながら、三元と仏像はぶるりと首を振る。


〔餌〕「でもシャモさんはどう見たって新三郎しんざぶろうじゃ無いじゃないですか。あれが美人の幽霊とよろしくやって取り殺されるようなタマだとでも。松田君なら分かりますけど」

〔仏〕「ふざけんな。あの女が松尾に乗り換えようとしたら、俺が刺し違えてでも止める」

〔松〕「済みませんHRで遅れました。今日は飛島君はお休みです」

〔多〕「了解。早く着替えしろ」

 鼻息も荒く仏像が反応すると、噂の主がお出ましだ。


 松尾が着替えをしていると、プロレス同好会の三名が部室で着替えを終えてやってきた。

〔服〕「シャモさん、あの後どうなったんすか」

 一旦終わったはずの話を服部が蒸し返すと、シャモは二の腕のタトゥシールを指さした。

〔仏〕「『俺の女』だって。絶対止めといた方が良いって」

〔服〕「おめでとうございます。ファミレスでその話で持ちきりだったんすよ」

〔仏〕「服部も飯食いに行ったんだ」

〔服〕「そりゃ女の子としゃべれるチャンスは逃したくないし」

 服部はモアイのような目を細めた。どうやら女子との語らいに手ごたえを感じたらしい。

〔仏〕「日光女子軍団を女の子にカウントするのかよ」

〔下〕「絶対あいつら嫌っす。俺集団でセクハラされたんっすよ」

〔天〕「女子に」

〔長〕「集団で」

〔服〕「セクハラされる」

〔三/天/長/服〕「それ何てごほうび」

 エロカナ軍団aka日光女子軍団によるセクハラ被害を訴えた下野に、非モテ男子は冷たい。


〔下〕「ごほうびじゃないっす。羽交はがい絞めにされて腹筋をさわられて、頭の匂いをかがれながら可愛い可愛いって。カッコいいって言われるならまだしも、あんなペットみたいな扱いってヒドイっす」

 下野は屈辱くつじょくに震えながら、リスのように頬をふくらませて訴えるも。

〔天〕「俺ら一生かかってもそんなポジにイケねえよ」

〔服〕「これだからサッカー部は」

〔長〕「女子受け良いってお得だよな」

〔三〕「俺なんて下野君よりずっと長い時間あいつらと一緒にいたけど、指一本も触れられなかったわ」

 すねる非モテ男子に向かって、好きな奴以外にあんな事されるの迷惑なんっすよと下野は叫んだ。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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