『落研ファイブっ』アナザーストーリー

鈴木裕己(旧PN/モモチカケル)

しほりとの交際と別れ(大山詣り)までのアナザーストーリー

第1話 湘南の激闘(27話)翌日(改稿作業中)

https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330668518930015 の続きです。←に出てくる『お百度参り/藤巻しほり』=本投稿における『藤崎しほり』です。


 幾星霜いくせいそうの時を経て、高校ビーチサッカー界の強豪に成りあがる私立一並ひとなみ高校ビーチサッカー部――通称『落研ファイブっ』――。

 親子ほどに年の離れた後輩たちに、『湘南しょうなんの激闘』と語り継がれる事になる初練習試合の終幕から一夜明けた放課後の部活前。


生霊退散生霊退散いきりょうたいさんいきりょうたいさんっ、急急如律令きゅうきゅうにょりつりょうっ。秘孔突ひこうづきっ!」

 シャモの第七頸椎だいななけいついに向かって、餌が出し抜けに手を伸ばして磁気バンを張り付ける。

 首元をさぐったシャモは、餌が貼った磁気バンをべりっとはがす。

「はーがーさーなーい。ねえシャモさん、昨日から生気せいきが無くなっていますって」

 餌は『生霊退散生霊退散いきりょうたいさんいきりょうたいさん』とぶつぶつ言いながらシャモの頭に粗塩をぶちまけた。


「それにしても変な女だよな。うちのばあちゃんの根付ねつけと同じシールを無言で二の腕に貼って来るなんて」

「みつるばあちゃんの根付と同じとなると、そのシールは電波系で有名な『ゆんゆん』愛読者層に刺さる文字って事ですね」

「『ゆんゆん』読者でなくとも、仏教徒なら見た事はあるはずだ」

 仏像の指摘に、三元と餌はシャモの二の腕をしげしげと見た。


「仏教っすか。常滑とこなめのじいちゃんの墓には、こんな文字が書かれた木の板(卒塔婆そとうば)があったっす。神社のお札の次は仏教って、どれだけ自分に自信がないんだろ、生霊(藤崎しほり)は見た目は悪くないのになあ」

 下野も三元の後ろからシャモの二の腕をのぞき込む。

「しっかりしろ下野しもつけ。お前まで取り込まれてどうする」

「大丈夫っすよ政木まさき先輩(仏像)。あんなのと関わったら終わりですって」

「ちょっと、俺の女バカにすんの止めてくれる」

 下野の鋭い拒絶きょぜつの声に、にわかにシャモが気色けしきばんだ。


「「「「ええええええええっ! 俺の女ーっ?!」」」」

What's up,guysどうした野郎ども? バッファローの骨でも見つけたか」

 騒然とする部員に、出席簿片手にやって来た多良橋たらはしがたずねた。 


「せっかく彼女が出来たのに浮かない顔だな」

「そんな事ないっすよ。俺いつも通りです」

 だが、明らかにいつもよりテンションが低すぎる。目もどことなくどんよりとしている。

 心配半分からかい半分の面々をよそに、シャモはビーチサッカーピッチのブルーシートを取り外しに掛かった。


「シャモが牡丹灯籠ぼたんどうろうみたいになったらどうしよう」

 明らかに生気の無いシャモを遠目に見ながら、三元が仏像にむかって心配げにささやいた。

「そう言えばシャモは去年の文化祭の演目決めの時に、牡丹灯籠ぼたんどうろうをやれってに向かって散々騒いだよな。落語初心者があんな超大作をどうやって演じろと。おかしな事をと思ったが、その時からロックオンされていたのか」


 落語の怪談物かいだんものの代表的な存在であり、歌舞伎かぶきや映画・演劇などにもなった『牡丹灯籠ぼたんどうろう』。日本三大怪談の一つに数えられるそれは、少年時代を米国で過ごした仏像ですらその存在を知っていたレベルの超有名作品だ。


牡丹灯籠ぼたんどうろうのおつゆに取りつかれたシャモが、『お百度参り』を召喚しょうかんしたってか」

 一人黙って淡々とストレッチを始めたシャモを見ながら、三元と仏像はぶるりと首を振る。


「でもシャモさんはどう見たって新三郎しんざぶろうじゃ無いじゃないですか。あれが美人の幽霊とよろしくやって取り殺されるようなタマだとでも。松田君なら分かりますけど」

 もし松尾に手を出したらただじゃおかねえ。

 松尾には過保護な仏像が息巻いていると、当の松尾がやって来た。続いてプロレス同好会の部室で着替えを終えた三名もやって来る。


「シャモさん、あの後例の彼女とは」

 一旦終わったはずの話を服部が蒸し返すと、シャモは無言で二の腕のタトゥシールを指さした。

 一部で流行っている梵字ぼんじのタトゥシール。

 サンスクリット語で『キリーク』と書かれたそれは、まるで生き物のようにシャモの二の腕で存在感を放っている。

「おそろいだってよ。昨日の今日で付き合うなんて急展開が過ぎるだろ。俺とシャモは三年一組、落研、喪男。全部被っていたってのに」

 彼女いない歴十八年の三元さんげんがやっかみ半分、呆れ半分で吐き捨てた。


「まあ一応、お友達からって事で話はつけたから。厳密にはまだ付き合ってはいない」

「シャモさんの分際ぶんざいで『お友達から』って何その上から目線。ムカつきますね」

「仕方がないだろ。散々『お百度参り』だの『生霊』だの『六条しをん』だの言って脅かしたのは餌だろ」

 自他ともに認める憑依体質ひょういたいしつのシャモは、大事を取って『友達』コマンドを入力したらしい。


「それはおめでとうございます。加奈さん達ともあの後その話で持ちきりで」

「服部も結局ファミレスに行ったんだ」

「女の子との出会いのチャンスは逃したくないよ」

 仏像に向かって服部はモアイのような目を細めた。どうやら女子との語らいに手ごたえを感じたらしい。


「オイオイ服部君。エロカナ軍団を女の子扱いするのかよ。心広すぎか」

「本当っす。俺なんて集団でセクハラされたんっすよ。あんなの猛獣」

 仏像に下野が加勢する。

 すると、プロレス同好会の三名は仏像と下野、そして自分たちと三元の間に目に見えない線を引いた。


「女子に」

「集団で」

「セクハラされる」

「「「「それ何てごほうび」」」」

 エロカナ軍団aka日光女子軍団によるセクハラ被害を訴えた下野に、非モテ男子は冷たい。


「ごほうびじゃないっす。羽交はがい絞めにされて腹筋をさわられて、頭の匂いをかがれながら可愛い可愛いって。カッコいいって言われるならまだしも、あんなペットみたいな扱いってヒドイっす」

 下野は屈辱くつじょくに震えながら、リスのように頬をふくらませて訴えるも。

「なあ服部、長門……。多分、俺達、きっと一生そんなポジにイケる気がしない」

「大丈夫だ彦龍(天河)。サッカー部が特別なだけだ」

「「「「女子受け良いってお得だよな」」」」

 すねるプロレス同好会&三元に向かって、好きな奴以外にあんな事されるの迷惑なんっすよと下野は叫んだ。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る