押し入れ

ツヨシ

第1話

ふと気がついた。

押し入れの戸が少し開いている。

――閉めたはずなんだが。

俺はその押し入れの戸を閉めた。

この部屋に引っ越してきて三日。

ようやく細かい荷物の整理も終わったところだ。

都心郊外の小さなワンルームなのだが、リビングに三畳ほどの畳の部屋があり、そこに押し入れがある。

布団やその他荷物を押し込んでいるところだ。

その押し入れの戸が開いていたのだ。

少し気にはなったが、深く詮索することはなかった。


次の日、気がつくと押し入れの戸がまた開いていた。

さっきまでは確かにしまっていたのに。

――建付けでも悪いのか?

俺は戸を閉めた。

やはり気にはなったが、かといってどうこうするわけでもなく、そのままになった。


その翌日、また押し入れの戸が開いていた。

もちろん少し前は確かに閉まっていた。

――どういうことだ、いったい?

さすがに今まで以上に気にはなった。

だが気になったからと言って、なにもするべきことは思いつかなかった。

と言うわけで今まで通り。

結局何もしなかった。


さらに翌日、また押し入れの戸が開いていたのだ。

――もう、いい加減にしてほしいぜ。

乱暴に少ししか開いていない戸を閉める。

そのまま押し入れを見ていた。

何の変化もない。

ソファーに座ってテレビを見る。

芸人数人が笑いながら何かを言っていたが、頭に何も入ってこなかった。

芸人がしゃべる。

周りが笑う。

別の芸人がしゃべる。

周りが笑う。

さらに別の芸人がしゃべる。

周りが笑う。

俺はリモコンを手に取ると、テレビを消した。

そして押し入れの前に行き、戸を眺めた。

しばらくそうしていたがふと思いつき、その戸を少し開けてみた。

そして見ていると、押し入れの戸が、今度はゆっくりと閉まった。


       

       終

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押し入れ ツヨシ @kunkunkonkon

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