第2話 破息

足音がだんだん近づいてくる。金属がぶつかり合う不規則な音とともに、ぼんやりとした人影が洞窟の入り口に現れた。炎の明かりは弱々しく、外から差し込む月光を頼りに彼らが見たのは、日本軍の軍服を着た一人の兵士だった。


兵士は俯きながら、肩にかけた銃を垂らし、まるで今にも持ち上げる準備をしているようだった。その顔は夜闇に隠され、見えるのは冷たい目だけだった。


洞窟内は瞬く間に静まり返り、全員が息を呑んだ。兵士の足音が洞窟内に反響し、その一歩一歩が人々の心臓を重く叩くようだった。


「ここに誰かいるのか?」

兵士の声は低く冷たかった。一歩ゆっくりと前に進むと、洞窟内の揺れる光がその顔を照らし、疲労に満ちた、だが威厳をたたえた顔を浮かび上がらせた。


「私たちは……」

農民が口を開いたが、その声は自然と低くなった。

「私たちはただの民間人です……ここで避難しているだけです。」


兵士は冷笑を漏らし、その声はまるで刃物が鉄を削る音のようだった。

「避難だと?皇国の興廃がこの一戦にかかっているというのに、貴様らはここに隠れているとはな!」


女は腕の中の子供をしっかりと抱きしめ、体を小さく縮めた。涙が目に溜まっていたが、一言も声を発することはなかった。子供は母親の胸に顔を埋め、微動だにせず、すすり泣きさえしなかった。無形の圧力を感じ取ったかのようだった。


「私たちは本当にただの民間人です。」

教師が必死に落ち着きを保ちながら、穏やかでゆっくりとした口調で言った。

「戦闘には参加していませんし、命令にも従っています。ただ家族を連れて空襲から逃れているだけです。」


兵士の冷たい目が洞窟内の全員を鋭く見渡した。彼は銃床に手を置き、皮肉の滲む声で言った。

「何もせずに、ただこうして隠れているだけか?天皇陛下の恩恵を受けて生きてきたお前たちは、忠誠をどこに置いてきた?」


洞窟内に答える者はいなかった。教師だけが冷静さを保ちながら言葉を続けた。

「どうか、我々の無力をお許しください……私たちはただの一般人で、子供を連れて生き延びることしかできないのです。」


兵士はすぐには返答しなかった。彼はそっと銃床を持ち上げ、農民と西郷海に向けた。そして皮肉げに言い放った。

「生き延びる?ならば今日、私がお前たちを戦場へ送ってやろう。お前たちの命は、帝国への忠誠のためにあるのだ。」


「待ってください!」

教師が即座に立ち上がり、農民と西郷海の前に立ちはだかった。

「彼らはまだ子供です。どうか彼らだけでもお許しください。」


兵士は鼻で冷笑を漏らし、冷たく言った。

「戦争から逃れられる者などいない。この子供だろうと、お前だろうと関係ない。」


彼がさらに言葉を続けようとしたその時、洞窟の外からかすかな爆撃音と銃声が響いてきた。兵士は眉間に深い皺を寄せ、素早く振り返って洞窟の外を警戒の目で見つめた。洞窟外の光が一瞬ちらつき、洞窟内の静寂を一層不気味なものにした。


「米英鬼畜どもめ……」

彼は低く呟くと再び洞窟内に向き直り、冷たい視線を洞窟内の全員に走らせた。


洞窟内の空気はまるで凍りついたようだった。先ほどの爆撃音は徐々に遠ざかっていったが、振動の余韻がまだ洞窟の壁に残っているようだった。誰一人として大きな呼吸をすることさえできず、洞窟の中央に立つ兵士をじっと見つめていた。


農民は隅に立ちながら、兵士の一挙一動を鋭く見つめていた。袖の中に手を隠し、先ほど爆撃音に紛れて隠した鋭い鉄片を指先でぎゅっと握りしめていた。冷たい鉄片が手のひらに触れ、刺すような寒さを感じたが、それでも彼はさらに力を込めた。


兵士は洞窟内の人々を冷たく見渡していた。彼の持つ銃は下げられていたが、銃口が時折ゆっくりと揺れ、まるでいつでも致命的な攻撃を仕掛けられる毒蛇のようだった。鋭く冷たい目で洞窟内の隅々まで見渡し、その指先は引き金に軽く触れていた。ほんのわずかな力で、取り返しのつかない惨劇を引き起こすことができる状態だった。彼の存在が洞窟内の空気を凍らせ、全員の喉元に石が詰まったような息苦しさを覚えさせていた。


兵士はゆっくりと洞窟の隅に歩み寄り、布袋や陶器の壺が積まれた場所に目を留めた。その瞳に冷たい光が閃き、しゃがみ込むと銃床で布袋の口を撥ね上げた。中からカビの生えた干し芋が数枚現れた。


兵士は手を伸ばして一枚の干し芋を掴み、じっくりと観察した後、冷たい笑みを浮かべた。嫌悪を示すことなく、嘲るような口調で言った。

「これがお前たちの蓄えか?昨日俺が食ったものよりマシだな。」


そう言うと、干し芋を自分の腰袋に放り込み、別の物資の山を銃口で指し示した。

「開けろ。何を隠しているのか見せてもらおう。」


若い女が硬直したまま立ち上がり、ゆっくりと別の布袋を解いた。中にはひび割れたサツマイモと少量の乾物が入っていた。兵士はサツマイモを二つ掴み、無造作に自分の鞄に放り込むと低く呟いた。

「どれだけ粗末なものでも、これは帝国のものだ。」


彼は立ち上がり、洞窟内の人々を冷たく見渡しながら、銃口を空中でわずかに動かした。

「もし大日本帝国が琉球から転進し、アメリカが首里に上陸したら、お前たちは忠誠と犠牲を持って天皇陛下に尽忠玉砕するだろうな?」


洞窟内は瞬間的に沈黙に包まれた。誰一人として答えようとしない。


女は腕の中の子供を抱きしめ、身体を小刻みに震わせていた。その瞳は恐怖で血走り、今にも涙が溢れ出しそうだった。彼女は子供の背中をそっと撫でながら、相手を落ち着かせると同時に、自分にわずかな勇気を与えようとしているようだったが、結局一言も声を発することはできなかった。若い女は俯き、手で自分の服をぎゅっと掴みながら恐怖を押し殺そうとしていた。


教師はうつむきながら静かに立ち、手を体の横にぴたりとつけていた。その指の関節は少し白くなっていた。農民は最前列に立ち、袖の下に隠した手で鋭い鉄片をぎゅっと握りしめていた。手のひらには力を入れすぎて冷や汗が滲んでいた。


兵士は周囲を冷たい目で見渡しながら、軽蔑の色をますます濃くした声で言った。

「どうした?俺の言葉が分からないのか?それとも、この臆病者どもはただここで縮こまって、死ぬまで隠れるつもりなのか?」


彼の声が急に大きくなり、銃口が言葉に合わせて少しずつ持ち上がり、最前列に立つ農民を正面から狙った。


「お前たちはここで隠れていれば、アメリカ軍が来ても生き延びられると思っているのか?」

彼は言いながら、狂気じみた怒りを込めて叫んだ。

「いいだろう、臆病者が生きている意味などあるか?お前たちはここで死ね!」


その言葉が終わると同時に、兵士は突然安全装置を外し、銃を装填しようとした。その瞬間、農民が動いた。


彼は袖の中から鋭い鉄片を素早く滑り出させ、兵士が全く警戒していない隙を突いて彼の背後に回り込むと、その鉄片で喉を思い切り引き裂いた。


「シュッ——」肉を裂く音が、洞窟内に刺さるように響いた。


兵士は目を見開き、短い「フフッ」という嗚咽のような声を漏らした。両手で喉を押さえたが、裂けた喉からは鮮血が泉のように噴き出し、指の隙間から滴り落ちて洞窟の床を濡らした。


彼はふらつきながら振り向き、怒りと驚きで農民を睨みつけたが、喉から漏れる音はさらにかすれた。不規則な破裂音だけが響き、声にはならなかった。


数秒後、彼の膝は力を失い、地面に崩れ落ちた。手から滑り落ちた銃が鈍い音を立てて地面に転がった。彼の体は数回痙攣した後、床に血の水たまりを作りながら完全に動かなくなった。


洞窟内には血の匂いと血滴の音だけが残った。


洞窟内の空気は凍りついたまま、全員がその場で硬直し、一言も声を発する者はいなかった。女は子供を抱きしめて隅に縮こまり、恐怖に満ちた目から静かに涙を流していた。若い女は洞窟の壁に身を寄せ、手で口を覆って震え、目の前で起きた出来事を受け入れられないようだった。


教師は複雑な表情で兵士の死体を見つめ、しばらく何も言葉を発しなかった。やがて農民に視線を移し、驚きと説明し難い感情が入り混じった目で見つめた。


農民は平然と兵士の死体の横に立っていた。彼の手にはまだ血まみれの鉄片が握られており、手のひらは力を入れすぎて微かに震えていた。彼は顔を上げ、洞窟の他の者たちを見渡して冷たく、決然とした口調で言った。

「彼は俺たちを殺すつもりだった。選択肢はなかった。」


教師はしばらく黙った後、静かに頷き、小さな声で言った。

「あなたはやるべきことをやった。しかし、もうここを出なければならない。」


洞窟内にはまだ濃厚な血の匂いが漂っていた。倒れた日本兵の死体が地面に横たわり、血が一つの小さな池を作っていた。その刺すような臭いが人々を吐き気に襲わせていた。


農民は数秒間黙った後、ついに沈黙を破った。

「彼の持ち物で使えるものは、全部持っていけ。」


農民はしゃがみ込み、兵士のリュックや装備品を漁り始めた。その動作は素早く冷徹で、まるで生命が途絶えたばかりの死体ではなく、ただの物資を奪い取るかのような無感情さがあった。


農民は漁りながら低い声で言った。

「銃が一丁、手榴弾が二つ、それから弾薬袋がある。食糧が少しと簡易救急セット、水筒も……」


彼は鉄片を地面に投げ捨て、袖で乱暴に手の血を拭った。そして見つけた物資をまとめると立ち上がり、洞窟内を見渡して低い声で命じた。

「荷物をまとめろ。出発するぞ。」

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