第7話 攻めはすれど攻められると弱い(名呼び編)

「ごちそうさま!」


 はい、お粗末そまつさまでした。


今日きょうもおいしかったあ」


 それはかった。つく甲斐がいがあります。


「ワンアップ!」


 ビックリした! いきなりなんですか?


「あなたのミケコちゃんへの好感度こうかんどがりました!」


 はいはい。もっと上げてしければ夕飯ゆうはん片付かたづけくらいしてください。


「えー! わたしってぇ、かわいいだけが仕事しごとだしぃ。こうやってぇ、ダラダラしてるのもかわいくなぁい?」


 ……ごろごろしてたらパンツえますよ。


「パンバカパーン! おつぎはラッキースケベ! 今日のノルマ、はやくも達成たっせいです!!」


 ゲームのやりぎです。ほら! おなかまで見せて!


「オカンか! いや、オトンか!」


 はしたないですってば。


「ただよろこべばいいのに。ドーテーはこれだから」


 わざとらしくためいきつかない。


「でもさぁ?」


 はい?


ねこのときは私、全裸ぜんらじゃん? なのにひと姿すがたになったとたん、ふくろ、かくせって、へんかんじ」


 当然とうぜんです! 人間世界にんげんせかいで人間としてきていくつもりなら、人間の常識じょうしきおぼえてください!


「はいはい、かりました、おとうさん」


 まったくもう……。


「ウフフ。でぇも、たしかにおぼえていかなきゃね。人の姿になったから人のおいしいものもべられるわけだしぃ。なにより……」


 なんですか? ニヤニヤしながらにじりってこないでください。


「人のことを覚えなきゃ、人と恋人こいびと同士どうしにもなれないしね!」


 うわ! 猫みたいにいてこない!


「なあんで? 人の姿のときは拒否きょひすんの? 猫のときは私のおなかでまくりなのにぃ。どっちでも敏感びんかんなんだけどなあ、お・な・か」


 耳元みみもとささやかない! あれはきみが!


「もふもふのお腹、撫でると気持きもちいいでしょ? いやされるでしょ? 白状はくじょうしろ、このぅ。ちなみに私は気持ちいいです! 最高さいこうです! とろけます!! もっと撫でなさい!! うにゃん❤」


 君はまったく、もう……。


「それ!」


 はい? そろそろっ付いてないではなれてください。片付け出来できません。


「うれしいくせにぃ。って、ちがぁう!」


 なんのことです? 君はほんと、突然とつぜんですから。


「だからぁ、それ! 君ってなに?! 私にはおばあちゃんからもらったミケコって立派りっぱ名前なまえがあるんですぅ! そろそろちゃんとんでくださぁい」


 それはそうですが、名前呼びって、なんか、ねえ?


「なんかって?」


 恋人こいびとでもないのに……。


れない! ドーテーはこれだから!」


 き、傷付きずつくんですからね、ぼくだって。おんなからそんなことばかりいわれると。


「あ、それは、ゴメン……。でもさ、だったらなおさら女の子にれてこ。名前で呼んで。まずはそこからです❤」


 ま、まあ……。


「はい。じゃあ、さんはい」


 ミ、ミケコ、さん?


「さんはいらなぁい」


 昨今さっこんはですね、セクハラというものがありまして……。


「ここは会社かいしゃじゃない。なにより本人ほんにん許可きょかしてるんだから、呼びてじゃないほうがセクハラです」


 そんなムチャな。


「もう! ほらっ! ウダウダいわず、ミケコってあまく囁くだけでいいの」


 甘くは……。


「はい、ミ・ケ・コ❤」


 ミ、ミケコ?


「んん! やっと呼んでくれた!」


 だあ! 離しなさい! 君はまったくもう!


「ああ、またキミっつったぁ! 私は玉子たまご黄身きみでも、キミって名前でもありません! 三毛猫みけねこのミケコちゃんです! はい、復唱ふくしょう


 ミケコ。


今度こんどまた君なんていったらおしおきしちゃうぞ」


 はいはい、もういいでしょ。そろそろ離れてください。


「片付けなんて後回あとまわしでいいじゃん。昼間ひるまほっとかれてるんだからさ、ラブラブしようよ。私はあなたとくっつきたいです!」


 なにがラブラブですか。


「えー! あいにあなたと二人ふたりきり❤ ラブラブじゃん」


 同居どうきょです。人としての節度せつどまもってください。


「もう! かたいなあ」


 そういえば……。


「なぁに?」


 くびうでからませない。


「えー……。あなただって、ほんとはきなくせにぃ」


 それ。名前呼びをいうならミケコも僕を呼んでください。知ってますよね? 僕の名前。


「そ、それは……」


 はい、どうぞ!


「も、もう! 名前で呼びいたいなんてそれこそラブラブじゃん」


 ごまかさない。照れない。君がそうなら、僕もミケコとは呼びません。


「もう、強引ごういんなんだからぁん❤ ス・ケ・ベ❤」


 だいたいかってきましたよ。ミケコがそんなふうにからかったりごまかしたりするときは照れてるんでしょ? ミケコもかわいいところありますね。


「そ、そういうことは分かっててもいうな! ドーテー!!」


 じゃあ、はい。僕の名は? って、これも照れますね。


「なら、また今度ってことで」


 がすか。


「きゃん。つよめるなんて❤」


 ご・ま・か・さ・な・い。


「う……。も、もう……。じゃあ……」


 はい。


「た」


 た?


「た、た、たぁ……」


 ほら、一気に。


「たぁぼう!」


 なんですか、それ! おばあちゃんが僕をちいさいころに呼んでたのじゃないですか!


「うっさい! うっさい! たぁ坊はたぁ坊でじゅうぶんだ! いつまでもたぁ坊だ!!」


 ずるいですよ!


「こ、これ以上いじょうもとめるならラブラブしてやんないんだから!」


 ▼▼▼


 あ、こら!


 都合つごうわるくなると猫になって逃げるんだから。

 まだまだどもですね。

 めはしても攻められるとよわいんですから。


 でもまあ、こうやってじゃれ合うのも悪くないですね。

 なんだかたのしいし、毎日まいにちり合いが出来できました。

 ミケコが……、猫がいる日常にちじょうもいいものです。

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