第6話 彼女の寂しさ

(カッ!! ゴロゴロゴロゴロゴロ……)


 おおきなかみなりですね。


「そ、そうね……」


 あ、まだますね。


「そ、そうね……」


 あのぅ……。


「そ、そうね……」


 いてませんね。雷、苦手にがてそうですね。


「そ、そうね……」


 ……仕方しかたない。


「うにゃ?!」


 ひと姿すがたにはならないでくださいよ。


「お布団ふとん一緒いっしょに?」


 ちょっとはこわさもまぎれるんじゃないですか?


「うぅ……。屈辱くつじょく……。キャァッ!」


 フフ……。


「な、によ! ひとが怖がってるのがそんなおもしろいわけ!」


 あ、ああ、それはごめん。でも、おばあちゃんちで夕立ゆうだちったときおもしまして。


「あったっけ、そんなこと?」


 ありましたよ。その時、きみ、おばあちゃんにすりって、はなれなくて。おばあちゃんはよしよし、大丈夫だいじょうぶだよってしていました。


いまは! もうおばあちゃんいないんだから、あんたがその役目やくめにないなさい!」


 はいはい。


(カッッ! ドッカァァァッンッ!! ゴロゴロゴロゴロ……)


「キャアッ!」


 どこかにちましたか? これは一晩ひとばんおさまりませんか?


「うぅ……」


 大丈夫ですよ。ぼくはそばにいます。お布団のなかにいれば、きっと大丈夫ですから。


絶対ぜったい、そばから離れないでよ!」


 はいはい。ですから、おんなの姿にはならないでくださいね。


「わ、かったよ、それはもう……」


 よしよし。


「もっと! もっとしっかりでて!」


 はいはい。ねこの姿のままでいてくださいね。


「しつこい! 私も全然ぜんぜん余裕よゆうないんだから!」


 そうやっておとなしいと、こういう時になんですけど、かわいいんですけどね。


「……いつものアピールは、イヤ?」


 あんまりはげしいのはね、かえってくものですよ。きっと僕でなくても。


「……そうなんだ。なんか、ごめんね。加減かげんからなくて」


 ま、まあ……。君もまだ男心おとこごころなんて分からないでしょうし、ゆっくりまなんでいけばいいんじゃないですか?


さない? 私を一人ひとりにしない? おばあちゃんみたいにいていかない?」


 追い出しません。一人にしません。まだまだ僕はきています。


「あ、ありがとう……」


 もしかして、君、さびしがり?


「う、うるさい! そういうことは分かっててもいうな! だからモテないんだ、バカ!」


 う、うるさいなあ、そっちこそ!


「フゥッ……」


 それだけ元気げんきならもう大丈夫ですね。


「ワフゥ! 布団かぶせるなあ!」


 もぐり込んでいれば、雷のおとこえないでしょ? 僕もそばにいますから。……おやすみ。


「……おやすみなさい」




(チュン……。チュン、チュン……)


 うぅん……。ああ、あさですか。どうやら、あらしぎたようですね。


「そうね」


 おはようございます。


「お・は・よ・う」


 って、なんで! 人間にんげんの姿で、それもはだかって!!


はつ! おめでとうございます! あさチュンです!!」


 え?!


「朝から元気ですなあ!」


 うわあ! こ、これは、生理現象せいりげんしょうで……!


「うーん、定番ていばん。マンガのセリフを聞けるなんて❤」


 そ、それより、はやく……!


「え? はやく? なぁにを? いやん❤」


 そうではなく!


「まだおそってないから安心あんしんして❤ それはね、同意どういのもとに、ううん、あなたからおそってほしいな❤」


 そういうことじゃありません! ……てか、遅刻ちこく!!


「キャハハハ! いってらっしゃあい」


 ▼▼▼


 まったくもう……。

 昨夜さくやはあんなにしおらしかったのに。……すこしかわいいとおもったのは不覚ふかくです。


 でも、彼女かのじょはまだ人間にんげんでは17さい。猫ではもうけられるとしでも。

 そこはつかってあげないといけませんね。

 きっと一番いちばんこわいのは雷ではなく、孤独こどくになることでしょう。

 ……僕とおなじかもしれません。


 ミケコはあまえんぼうで、さびしがり。

 

 耳年増みみどしまで、くちではえらそうなこといっていても。

 まだまだども。

 大人おとなの僕がけてあげないと。


 もとめているのはおばあちゃんのわり。

 ほうされるのが怖くて、アピール過剰かじょう


 そういうことなんでしょう。

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