第5話 彼のトラウマ

「ねえぇ」


 なんですか? 仕事しごと邪魔じゃましないでください。


社畜しゃちく


 いきなりなんですか、もう!


仕事しごとしごとって、やすみのときは休まないとからだこわすよ?」


 ありがとうございます。でも、これはぼくまかされた仕事ですから。業務時間中ぎょうむじかんちゅうえられなかった僕がわるいんです。


「そういうこといってるから、会社かいしゃていよくつかわれるんじゃない? そんな会社めちゃえばいいのに」


 そんな簡単かんたんにはいきません。……って、よくってますね、人間社会にんげんしゃかいのこと。


「ん? ああ、おばあちゃんってさあ、世話好せわずきだったじゃん?」


 たしかに。田舎いなかくとあれやらこれやらされて、べなさい、もっと食べなさいでしたね。


「だからさ、近所きんじょひと相談そうだんってか、愚痴ぐちをこぼしにるわけ。それでね」


 みみてていたわけですか。きみねこなんで油断ゆだんしたんでしょう、ご近所さんも。……猫がいたら秘密ひみつはなし出来できませんね。


「そうよう。猫ってね、人間にんげんが知らないだけで10ねんきれば人の言葉ことばかっちゃうんだから。さらに15年くらい生きるとねえ……」


 け猫になる!


「化け猫ちゃうわっ! ねこまただっつーの!」


 おなじでしょ?


「わけあるか! って、話がずれすぎ!」


 なんの話でしたっけ?


「仕事を辞めなさいって!」


 ですから、そんな簡単にはいきません!


「だったらぁ、さっさとそれわらせてわたしにかまいなさい! そもそもなんで私にまで敬語けいごなわけ? ゆーて、おんなの人全部ぜんぶにそれじゃない? なんで?」


 ……いわなきゃダメですか?


「いやなことだったら無理むりにいわなくてもいいけどさ。でぇも、いわなきゃずっと仕事の邪魔じゃましてやる!」


 どのみち話さないといけないじゃないですか! それじゃあ!!


「いいから、いいから♪ 私とあなたのなかじゃん?」


 どういう仲ですか?


おさななじみ。恋人こいびとへと発展中はってんちゅう❤」


 しません。ていうか、幼なじみ?


「そうじゃない? あれはそう。15年まえ・い❤」


 はいはい。


「スルーするな! こっちをろぉ!」


 ですから、仕事中なんですってば。


「邪魔されたくなかったら、話せ。なんで敬語なんか。話せないんだったら、私に敬語はやめろ」


 うーん……。


「いや?」


 ま、まあ。いいですけど。


「よろしい」


 られたんですよ、高校時代こうこうじだい


「それをきずってるわけ?」


 そういうことです。部活ぶかつ後輩こうはいだったんですけどもね。けっこう仲良なかよくなっていたとおもっていたんですよ。それで、思いって告白こくはくしたら……。


「振られたと」


 とかいわれました。勘違かんちがいして、って。


「うわ、きっつっ! どこのだれ! 私がいまからってひっかいてやる!!」


 ありがとうございます。でもま、それはいいんですよ。僕もまあ、ね……。


「いいわけあるか! そんなの女のほうがわるいにまってるのに!」


 やさしいですね。


「う、うるさし! と、とにかく!! その程度ていどきずなら私がいやしてあげるから。だから余計よけいに、私に敬語使うな!」


 それだけじゃないんですよ。


「へ?」


 それがケチのはじめといいますか。痴漢ちかん間違まちがわれたこともありました。今は世間的せけんてきにもセクハラ、セクハラで肩身かたみせまいですしね。会社でちょっといい雰囲気ふんいきかな? って、思っても、スルッとかわされて、ああまた勘違いしたんだなあ、とか。女の人なんてこわいです。なるべく距離きょりって、そう敬語で。僕はあなたに敵意てきいがないとしめしているんです。もう、くせです。


「そんなのそとでやりなよ。うちでくらい、リラックスしよ」


 そう簡単なもんじゃありません。


「だからぁ、ぜんぶ、私が癒してあげるっていってんでしょ!」


 うわ! びついてこないで!!


「ラッキースケベ! てか、ぜん? よろこべ!!」


 だ、だから、仕事の邪魔です!!


「そんな仕事より、私のほうが大事だいじでしょう。いや、大事にしなさい!」


 ダ、ダメです! 今は、今だけは……!


「ええい、この! よいではないか、よいではないか!」


 ▼▼▼


 ミケコにまわされる、ここ最近さいきん

 でもま、そうですね。たすけられています。

 ひとりだった以前いぜんよりなんか、ね。

 一人ひとり気楽きらくでしたけど、やっぱり、ね。


 それより、ミケコのほうが心配しんぱいです。

 時々ときどき無理むりしているようにも見えますが……。

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