第32話『夏休みも変わらずに』


 夏休みである。

 長い休みに入り、宿題は大量に出ているがまぁなんとかなるだろう、最後の方で頑張ればいい。


 と、思っていたのだが……。


「ダメよ、宿題は早い内に終わらせなきゃ」

「へいへい……」


 隣に座る彼女、朱奈に見守られながら宿題を進めていた。


「ウサ疲れた、ゲームしたい」

「よっしゃぁ、〇マブラやっかぁ!」

「まだ始めてから10分も経ってないじゃない!」


 アオの提案に乗りゲームを始めようとしたが朱奈に怒られてしまった。

 渋々とテーブルへ戻る。


「まったくウサ先輩はお家でも変わんないです、やっぱり私がついてないとですね!」


 翠が四人分の麦茶を運んできた。

 彼女から冷たいグラスを受け取りのどを潤す。

 

 かぁーっ、暑い夏はやっぱ麦茶に限るぜ!


「しかしまぁ……」

「ウサどうしたの?」

「いや、こうして愛する彼女たちが家に集まってるのをみるとなんというかなぁ」


 マンションのリビングで、テーブルを囲むように三人の彼女たちがそこにいた。

 まさかこうして三人の女性と付き合うことになるとは。


 あの日、ヒロシ家でこの世界のことを知らされた時に開始された『原作を1ミリも知らない俺による炎珠、氷音を口説き堕とせ作戦(笑)』が懐かしい。

 

「ふふ、そうだね、三股のクズ男♪」

「女の敵ですっ♪」

「……はい、すみません」

「よしよし」


 味方はアオだけだった。

 何故こうして彼女たちが家に集まっているかというと、夏休みの宿題を行うため……という名目で。

 ただ単純に一緒に居たいといった考えにより朱奈、翠が同じタイミングでやってきた。


 あとは……。


「碧依先輩だけずるいです」

「そうよ、同棲始めたなんて聞いてなかったもん」

「ぶい」


 先日の修学旅行で俺はプロポーズに近い告白をアオにした。

 夏休みに入ると彼女は荷物を纏め即日に俺の家へと引っ越しを終えた。


 元々家に物は服以外あまりないという。

 娯楽品は全て空き教室に置いてきているということだ。


「おかげで毎日ウサと愛し合っている。わたしが圧倒的に正妻の座をリード」

「あーっ、するいですっ! 私だってあの日から先輩とエッチできてないのに……」

「私も修学旅行以来してもらってないのに……っ」

「ぶい」


 煽るなっての。

 翠、恨めしそうに俺を睨まないでくれ……。

 朱奈、物欲しそうに俺を見つめないでくれ……。

 アオ、俺の下腹部に手を伸ばそうとするの止めて、まだ昼間だぞ。


 その時誰かのスマホが着信したようで、受信音が鳴り響く――朱奈のようだ。


「もしもし? あ、白。うん、だから今日は美桜の家にいるんだってば、昨日も言ったじゃん。え、翠ちゃんがいない? 私と一緒に来てるよ」


 電話の主は無地来だった。

 朱奈がいるのは当然俺の家なのだが、偽って一条の所に行っている設定らしい。


「うん明日? 明日もちょっと……。え、いつなら空いてるのかって? うーん、今はまだわかんないかな……」

「こんな感じで毎日お姉ちゃんに電話かけてるです」

「翠の方には聞きに行かないのか?」

「……もちろん来るです、ウサ先輩と関わるのを止めろってしつこいくらいに、この間も喧嘩しちゃったです」

「なるほどね……」


 口喧嘩しても一方的に無地来が翠に圧されている姿が何となく想像できた。


「わかったから、今度ご飯作りに行ってあげるから今はもう切らせて、うん、じゃあね。……はぁ」

「お疲れ朱奈」

「ウサくん疲れちゃったよぉ……」


 大きく溜息を吐いた朱奈が俺の肩にもたれかかった。疲れた様子に俺は手を伸ばし優しく髪を撫でる。少しでも彼女の心が軽くなればと、願いを込めて。

 

「えへへ~」

「あ、ズルいですお姉ちゃんっ」

「それは反則」

「アオは一緒に暮らしてるんだから別にいいでしょ」

「それはそれ、コレはコレ」


 お願いだから喧嘩しないでください……。

 結局のところ原因は俺なので強くは言えないが。

 ひとまず求められているであろうことは二人にも髪を撫でてあげることなので、一旦朱奈から離れアオ、翠へと同じように接する。


「あ、ウサくんが離れちゃった……」

「ウサのぬくもりが足りない、もっと」

「ウサ先輩、離れちゃ嫌ですっ」

「分身でもしろと!?」


 海外で働き続けている親愛なるお父様、お母様。

 女の子三人と付き合うってとても大変なことみたいです。byむすこ。


 結局宿題は進まず、三人とひたすらくっついて時は過ぎて行ったのだった。


 


 

 

「ういーっす、差し入れに――あ、失礼しました」

「ごゆっくり」

「待てまてっ!? 帰るな!?」


 ガチャ、とドアを開けいつものように部屋の中に入った来た親友二人。

 だが俺たちの姿を見て踵を返そうとする。


 なんせひとつのソファに四人で密着しており――。

 アオと朱奈は左右から抱き着いていて、翠は膝の上に跨り俺の方へ向きながら抱き着いているからだ。

 

 多分俺もソーマたちが他の女の子と同じ状況になっていたら帰ると思う。


「さすがに親友といえど情事中に茶々入れには行けねぇよな?」

「嫉妬でボク怒り狂うかも」

「やましいことは何もしてねぇ!?」


 ただちょっと密着していただけだ。

 ――アレは完全にギンギンだったけど。


「もう少しでセックスに持ち込めたのに」

「どうせ毎晩ヤッてんだろ」

「昼間ぐらい我慢しなよ」

「愛に時間は関係ない、ぶい」


 何言ってんだこいつ、と言いたげな表情に二人はなったがアオには全く効かなかったようだ。

 一方で残された二人はというと……。

 

「えぇっ、あ、碧依そういうつもりだったの!?」

「は、ハレンチですっ! わ、私はそういうつもりなんて……っ」


 真っ赤な顔で否定をする、しかしアオはにやりと翠を見つめ……。

 

「ウサの勃ったアレで感じてたのは――」

「わーっ知らないですっ! 知らないですぅっ!」

「朱奈も自分のを弄り始め――」

「いやぁーっ!?」

「こいつ強すぎんだろ」

「ウサハーレムの力関係がなんとなくはっきりしてきたよね」

「ぶい」


 ワイワイと盛り上がる彼女たちと親友ら。

 マンションの一室に六人も集まったのだ。一気ににぎやかになる。


「まぁこれからは気を付けないとな」

「いや、別に遠慮するなって……」

「さすがにセックス中に鉢会うのはボクらだって嫌だよ」

 

 それもそうか。

 それでもやっぱり、なんだか距離が出来たように感じで締まって俺は――。


「んな顔すんなよウサちゃん」

「ボクらはずっと親友でしょ?」

「……あぁ、そうだったな」


 あの時、原作と思わしき光景を映し出され続け悩んでいた時に助けてくれた。

 ヒロシはここには居ないけれど、三人はこれからも変わらない関係でいてくれると話してくれた。


 その時のことを思い出して暖かな気持ちに包まれる。


「むぅ~、ウサ先輩が浮気してるですっ」

「へぇ~、私たちを放って小田桐くんたちを選ぶんだ~?」

「ウサは女の子に興味なくなっちゃったらしいから今日からボクがもらうねっ」

「ウサはモテモテ」


 どうしろってんだ。あとユーリは切り替えが早すぎんだよ。

 ぽん、とソーマが肩に手を置く。


「大変だなぁ?」

「うっせ」


 気恥ずかしくあるけれど、それでもこの関係がずっと続いて行くように願うのだった。





 ――

 

イ”エ”ア”ァ”ッー!この女の子が! イ”エ”ィ”ッ!?DLCの無地来翠!? イ”エ”ア”ァ”ァ”ァァッー!?めっちゃ可愛い流石神絵師だーっ!?

「ひっ……!?」


 ヒロシ家に到着して早々、ヒロシの発狂が翠を怖がらせる。彼女は怯えながら俺へと抱き着き『変な人がいるですっ!』と叫んだ。


 翠も転生前はDLC扱いとはいえヒロシが言う神絵師のヒロインだもんな。発狂するのは当たり前か。


「変な人で大体あってんな」

「私も最初はびっくりしたけど慣れるとこんなものよね」

「朱奈お姉ちゃん!?」


 噓でしょ!? と言いたげな顔で朱奈を見る翠だったが、意にも返さずスタスタと朱奈用に用意された椅子の所へ荷物を置きに行く。アオといい順応早すぎだろ。


「あそこ妹ちゃんのスペースらしいから自由に使っていいってさ」

「どういうことなんですか……」


 相も変わらず彼女用のデスクも用意されたらしい。家から一歩も出ないのにどうやって用意しているのかは謎だ。


「お姉ちゃんみたいに慣れる気がしないで……す?」


 溜息を吐いた翠の視線にあったのは――何期か前に放送されていた魔法少女モノのDVDだ。


「も、もしやこれは……地方限定パッケージの!? しかも開始数十分で売り切れたって言われている幻の!?」

「なんかネットで話題になってたな」

「家から出ねぇのにどうやって手に入れたんだ?」

「人雇って並ばせたらしいよ」


 流石ヒロシ、意地でも家から出ない引き篭もりの鏡である。


「やるよ」

「えっ……!?」

「魔法少女好きはみんな仲間だ。おれと君は今日から同じ志の友だ」

「……ヒロシ先輩!」


 ひしっとヒロシへ抱き着く。ヒロシは昇天した。

 

「寝取られかな?」

「タイトルは『俺の彼女が親友に寝取られる~俺には見せないあんなことやこんなことまでしていて俺は勃起しイクッ!~』だな」

「死ね!」


 ふざけたことを言っているソーマに蹴りを入れる。

 後ろでは朱奈とアオが噴出していた。


「変なこと言ってないでヒロシさんを見習うですウサ先輩の親友1、2」

「そもそもよぉ、ヒロシがさん付けで」

「ボクらは数字扱いって納得いかないんだけど?」

「年上相手にそんな失礼なこと言わないですっ」

『オレ(ボク)たちも年上だっての!?』


 どこかで見たようなやり取りである。

 後ろでは朱奈とアオがお腹を抱えて笑い、机を叩いていた。


「ィ……ィェァァッ?」

「生きてるか?」

「死んでるみたい」


 アオがつんつんと突っついて反応を見ている。

 昇天したヒロシが息を吹き返した。

 

「転生して……よかった」

「泣くなよ」


 ドバドバと涙を流している。

 アオがタオルを差し出してあげてさらに泣いた。


「これ……」

「なんだこれ?」


 身体を引きずりながら移動し、ヒロシが持ってきたのはとあるチケットだった。

 絵柄的にプールとかそんなんだろうか。


「みんなで行ってこい」

「……おうサンキュ」


 というわけで、俺たちの夏の予定がひとつ決まったのだった。

 

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