第31話『貴方を更生させる使命』


「朝か……」

 

 目を覚ますと、カーテン越しに柔らかな朝の光が部屋を照らしていた。

 耳を澄ませば遠くから小鳥のさえずりも聞こえてくる。

 心地よい静けさが辺りを包む中、目を瞑ってしまえばもう一度眠りに付けそうな予感が――。


「ん……ウサぁ」

「ウサ、くん……」


 左右、胸に寄り添う様な形で眠る彼女たちの声が漏れる。

 左にはアオ、右には朱奈。


 二人とも、そして俺も全裸で眠りについていた。


「……ヤバかった」


 昨夜の出来事を思い出す。

 アオ、そして朱奈と代わる代わるに身体を重ねた。


 片方と身体が繋がっていれば、もう片方はキスや愛撫で愛し合う。

 逆に二人で奉仕する姿も最高であった。


「エロゲヒロインって……凄いな」


 エロゲはヒロシの家でやったこともあるし、あいつが作るゲームのテストプレイとしてやることもある。

 大体いつも『こんな何回もヤれねぇだろ』『所詮は作り話だしな』という風に笑い飛ばしていたというのに。に。


「ヤバい、これはヤバい……」


 俺はもう二度と〇ナニーで満足できない、彼女たちとする以外では満足できない。


 もう二度と戻れない。


 アオが昨日語った自信の通り、彼女の性技に完全に魅了された。俺はすぐに堕ちた。

 だが、一方の朱奈もアオに負けじとあらゆるテクを使って何度もイかされた。俺は完全に堕ちた。


「俺って……最高の幸せ者だな」


 未だ眠り続ける彼女たちへ静かに手を伸ばし、髪にそっと触れる。

 二人はわずかに体を縮め、眉をかすかに動かしたが、すぐにまた穏やかな表情に戻っていく。

 寝息は微かに深くなり、触れられていることを感じているのか、まるで夢の中で安心しているようだった。


「必ず……幸せにするから」


 いつか見た悪夢のような光景は起こさせない。

 俺が彼女たちをハッピーエンドへ導くんだ。


 より強く決心をして、時間まで再び眠りにつくのだった。


 

 ――


 修学旅行は二泊三日で行われ、今日が最終日。

 最終日は団体行動で観光地を回り、お土産を選んで学校へと戻るといったシンプルなスケジュール。


 三日間の思い出話を話題に新幹線内では各グループたちの話が弾んでいる。


 俺たち四人もいつものように盛り上がっている最中にふと、朱奈たちの所が目に入る。


 視線に気づいた朱奈がこちらを向き笑みが零れるが、席位置は当然奴がいるので――。


「――っ!」


 お馴染みになりつつある、無地来からの鋭い視線が飛ぶ。

 相も変わらず俺と朱奈の壁となるような位置に居て『邪魔してやった』と勝ち誇ったような笑みに変わる。

 

 お前も大概しつこいね……。

 

 前まではうざったいなとか、なんなら悔しいなとか思ってたんだけども。


「……♪」


 無地来の後ろでウィンクしながら手を振る朱奈を見て、気持ちが暖かくなる。


 俺の反応が淡々としていた為か、肩透かしのような表情となった無地来は首を傾げながらも朱奈の方へ顔を向ける。


 そんじゃせっかくだし……。


 朱奈と同じように彼女へ向けて手を振る、無地来に声を掛けられた彼女は淡々とした反応であったが俺を目にすると一瞬パァッと明るい表情になる。


 それに訝しんだ無地来がこちらを振り返ったが、冷静にさりげなく振っていた手を戻す。俺はなにもしてないぞぉ~。


 やはり無地来は『おかしいな……』といった表情になっている、その後ろでは朱奈がニコニコとしていた。


 もはや俺たちに、無地来の妨害など取るに足らない存在となっていた。


 無地来を手玉に取ってやったことで今までの奴に対する苛立ちが少し晴らせた所で――。

 ポケットへと入れていたスマホに振動が走る。


 スマホを取り出して画面を確認すると『翠』の名前が。

 三人へ電話してくると伝え、新幹線のデッキへと移動する。


 通話ボタンをタップするとすぐに翠の『もしもしウサ先輩っ』と声が入る。

 

「翠どうしたんだ?」

『先輩の声が聴きたくて……』


 可愛いことを言ってくれる。彼女の素直な言葉に思わず微笑んでしまう。


『今は新幹線の中ですか?』

「そ、電波安定しないから声が聴こえ辛いと思うけど大丈夫か?」

『大丈夫ですっ、先輩の声は聴き洩らさないですっ』


 可愛い、何度でも言うけど可愛い。

 こんなに可愛くて素直な娘が無地来の妹だぞ、信じられるか?

 

 そのまま彼女との電話を楽しむ。

 

「――というわけでさ、朱奈にも気持ちを伝えたよ」

『朱奈お姉ちゃんも仲間入りですか、なんとなくわかってはいましたけど。とはいえこれで見事三股ですね、おめでとうございますクズ先輩♪』

「いや、ほんとすみません……」


『冗談ですっ』と付け加えてはくれるが、三股というのは限りない事実なのでクズであるのは当然だし、一人へと絞らない自分に対して不甲斐なさと、彼女たちに対する罪悪感は今も感じている。


 ――だからといって誰か一人に絞り、二人を泣かせるような真似を今更するつもりはない。


 全員俺が幸せにしてやるんだ。心の中で強く決意する。


『そもそもどうして昨日も一昨日の夜も電話をくれなかったですか』

「いやー、そのー、色々ありましてー」


 昨晩はその、ね……。

 色々な目にあっていたもんで……。


 昨日のコトを思い出すと下腹部に熱が溜まる。

 あれだけ興奮して、あれだけ出した日も今までにない。

 

『どうせ朝までお姉ちゃんや氷音先輩とイチャイチャしてたに決まってるです』

「……」

『あー! 何も言わないってことは確定ですっ! 最低ですこのクズ男!』


 見事に図星を突かれ黙り込んでいると非難の声が飛んだ。 電話越しにわかる、今の翠は膨れっ面をしていると、彼女の顔が目に浮かぶ。


『うぅ~、私だってウサ先輩とぎゅってしてもらったり、その……キスしたりしたいのに……』

「帰ったらたくさん抱きしめてあげるよ、もちろんキスも。翠が満足するまでね」

『言ったですねっ、もう予約しましたからねっ! 今日の夜ウサ先輩のお家に行くですっ!』


 今日の夜さっそく来るんかい。夜に男の家へ来るって意味わかって言ってんのかな、と少し不安に思う。


『その、お友達の家に泊まるってお母さんには伝えますから……』


 ちゃんと翠はわかっていた。

 ならば答えるのが彼氏の務めってもんだ。

 

「……わかった。今日は寝かさないからな」

『ケダモノ!……嘘です、ウサ先輩に私の初めてもらってほしいです』


 その後も少しやりとりをして電話を切る。

 電話を終えると、ふぅっとすこし息を吐いた。


 色々と考えたけれど、結局のところ一番強く感じたのは――嬉しさだった。

 期待と少しの緊張が入り混じる中で、俺は深呼吸を一度する。


「翠にも……伝えないとな」


 彼女にはまだはっきりと伝えていない、なんとなく通じ合っている所はあるけれど、しっかりと想いを彼女に返されなければ。

 焦りと楽しみが交互に押し寄せ、落ち着かないが、今はその瞬間を待ち望む気持ちの方が勝っていた。



 ――


「お、お邪魔しますです……」

「おう、いらっしゃい」


 夜になり翠が部屋へとやって来た。

 彼女の表情は緊張した様子でいつもの元気さはなく少し縮こまった様子が見て取れる。


「そんなに緊張しなくても」

「だ、だってっ、先輩のお家ですし……っ」


 緊張せずにいられるか、とでも言いたげに『うぅ……』と俯いてしまった。

 電話越しに『ウサ先輩のお家に行くですっ!』と言っていた翠はどこに行ったんだ。


「そ、そういえば、えーと……う、ウサ先輩の住んでるマンション凄い立派ですね。ここ一人で住んでるんですか?」


 緊張した雰囲気を払拭したかったのか、慌てて話題を選んだように見える。

 とはいえそのことを指摘するなんて真似はしない、彼女の質問へと答える。


「両親が海外で共働きだからな、不自由しないようにってマンション買ってくれたんだ」

「す、すごいお父さんお母さんですね……ウサ先輩のことを想った良いご両親です」


 良い両親という俺自身にも言葉に笑みが零れる。


 これは転生特典というやつなのか、俺たちと似ている設定である陽キャの裏設定なのか知らないけれど。

 転生した俺たちの家族関係に変化はなかった、まるで家族ごと異世界へと転生したかのように。ソーマはげんなりしていたけれども。

 

 幼い頃の俺は親に対して良い感情を持たなかったけれど、あの日ヒロシたちと出会って吹っ切れてからは両親に対してのわだかまりはなくなった。

 こうして息子の一人暮らしの為だけにマンションを一室買ってしまい、毎月節約を考えずとも余ってしまうぐらいのお金を振り込んでくれるのだ。

 仕事が第一とはいえ、毎月手紙のやりとりもしていて、俺の体調や暮らしぶりを気に掛けてくれている、とても良い両親なんだ。


 きっと三人の女の子と交際していると伝えても祝福してくれるに違いないと思っている。


「そうだな、自慢の親だよ」

「い、いつか私もご両親に挨拶がしたいですっ」

「あぁ、俺も翠のお父さんお母さんに挨拶しなきゃな」

「三股してることも白状してくださいねっ」

「……おう」


 ……一気に気が重くなってきた。

 翠のお父さんがどんな人かは知らないけれどぶん殴られるかもなぁ。一発で済めばいいなぁ。


「大丈夫です、お父さん優しいですからきっと許してくれます」

「……そうだといいな」


 心中を察した翠に励まされる。

 

 ご両親へのあいさつも大事だが――。


 今は翠に伝えなきゃいけないこともあるんだったな。


「なぁ、翠。改めて伝えようと思うけどさ、今言ってもいいか?」

「……なんですか?」


 一旦深呼吸を挟む。

 きちんと伝えなければ、あの日彼女を待たせてしまった返事を。


「翠、告白してくれてありがとう、そして今日まで返事を待たせてごめん。――俺も君のことが好きだ。君以外にも二人の女性を愛してしまってる最低な男だけど、こんな奴で良ければ俺の恋人の一人になってほしい」

「……遅いです、それに相変わらず最低な告白ですっ」

「そうさ、最低な男なんだ。だからこんなクズでロクデナシの俺を傍で支えてくれないか? 俺を更生させてくれるんだろ?」

「むぅ、私が言ってた事をうまく使われたですっ。……ふふっ、でもそうですね、私があなたの傍に居てずっと見張ってます! 私は帝兎月を更生させるのが使命ですから!」


 久々に聞いた彼女からの『帝兎月』呼び。

 けれど翠からの声には、抑えきれない嬉しさが確かに溢れ出ていた。


「でもウサ先輩」

「うん?」

「今日は……今日だけは二人のことを考えないで私だけを愛してくださいねっ!」

「もちろん。今日の夜を幸せな日にしような」

「はいっ!」


 この日の彼女の愛らしさを俺は一生忘れることはないだろう。


 ――余談ではあるが流石彼女もDLC設定とはいえ、物凄かったと残そう。

 俺は一生彼女たち以外で欲を発散させることは不可能だと。



 

 


 短かったようで長かった修学旅行。

 恋人となった彼女たちとの初めての夏。


 そして……。


 原作主人公との決着を迎える時が。

 いよいよ始まる――。

 

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