第25話『修学旅行!』
「しゃーっ、オレあがりぃ!」
「マジかよ、イカサマだろ」
「ウサがシャッフルした」
「そうだったっけ?」
「バカ言ってないで進めるよ」
「ドロー」
「んじゃ俺も続けてドロー出すわ」
「それ公式がダメって言ってた」
「はぁ!? 嘘だろ!?」
「ってことでウサ2枚引くんだよ」
四人で向き合いながらカードゲームをやる。国民的、旅行の定番ONOだ。
今、俺たちは修学旅行により新幹線で目的地へ向かっているという状態だ。
「てかさ」
「あん?」
「なんで夏休み前に修学旅行なんだ? しかも俺らまだ2年だぞ」
「この世界が夏休み後でゲームが終わる設定だからじゃない……あ、ONO」
「おせぇぞ2枚引け」
「ウサのせいでタイミング逃したじゃん!」
「知らんがな!」
「設定ってなに? ドロー」
「またかよ!? こっちの話だ、すまんな」
というわけでわいわい騒ぎながら遊んでいる。ちなみに他の席の生徒はみんな寝てたりしている。何故かというと集合が6時だったからだ、弾丸旅行かよ。
「んぅ……」
「アオ、眠い?」
「少し寝ててもいいよ」
「だいじょう、ぶぅ……」
「寝とけって、ウサの肩使っていいから」
「なんでお前が決めんだよ、いやもちろん使っていいけどさ」
今『アオ』と呼んだがこれは俺らで付けたあだ名。
せっかくヒロシ家で違和感なく馴染むようになったので、あだ名をつけようとユーリが提案。
碧依のあおをもじってアオとなったわけだ。
その際のアオが『やっとあなたたちの仲間に慣れた気がする』と言った彼女の表情を俺たちは忘れないだろう。ヒロシはもちろん発狂して死んだ。南無。
ONOも一息ついたので一旦休憩でいいだろう。
やはりアオは眠かったようで俺の左肩に寄り掛かる。少ししたら小さな寝息を立て眠りについた。
彼女を起こさないように俺も一息吐き、背もたれに寄り掛かかる。ちょうど首を右側に傾けると、斜め前の席に座っている朱奈の姿が目に入る。
朱奈たちはお喋りをしていたようだ。向かい側には一条と多谷が座っている。
話がひと段落したようで彼女はふぅと息を吐いて何の気なしに右側を見た。
俺と朱奈の視線が重なる。
彼女はニコッと微笑み手を振ってくれた、同じように俺も手を振り返す。
……だが。
「……っ!」
隣の席、窓際へ座っている無地来が朱奈の手を制し、俺の方へ顔を向け親の仇のように睨まれる。
「はぁ……」
「また監視役に見つかったか」
「最近炎珠さんと喋れてないね」
「タイミングが無くてな、ずっとあいつがいるし」
あのように無地来の邪魔が入ることで喋ることはおろか、今みたいに手を振り合うことも許されない。
ホントめんどくせー奴。
そもそもあそこの席には一条と多谷もいるんだけど、よく入りにいけたな。
陰キャの癖に変な所でクソ度胸すぎんだろ。
こっちも男三人の所にアオがいるわけであるが、既にクラスでは俺らの仲間としてアオは馴染んだ存在になっている。だから彼女がここに居ても何ら不思議ではない。
「……ん?」
マナーモードにしているスマホにチャットが届く。
確認してみると差出人は……翠だ。
『ウサ先輩、今頃新幹線の中ですか?』
『おう 、さっきまでみんなとでONOやってたよ』
『いいなぁ、羨ましいです』
翠は今頃学校へ行く支度をしている頃だろうか。
『翠も来年になれば修学旅行あるじゃん』
『……ウサ先輩がいないです』
……可愛いことを言ってくれる。
『色々と落ち着いたらさ、デートしようか』
『ホントですかっ!? 絶対しましょう!』
楽しみ! と書いてあるスタンプが送られてくる。ホント可愛い娘だな。
『お土産待ってるですっ!』
『おー、期待しててな!』
『ウサ先輩のくれるものなら何でも嬉しいです! 楽しみに待ってます♡』
ハート、マーク……だと!?
翠の可愛いチャットにノックアウト寸前だった。
「なにニヤニヤしてんだか」
「どうせ妹ちゃんからチャット来てたんでしょ」
心の中だけでニヤニヤしてるつもりだったが顔に出ていたみたいだ。
二人が呆れたように溜息を吐く。
「あーやだやだ、イチャつきやがって」
「これが……寝取られってやつ?」
「俺はお前と付き合ってもいないし寝てもいないわっ!」
「だって……あんなに激しく絡み合ったのにっ」
「こないだやったツイスターゲームの話でもしてんですかねぇ!?」
ギャーギャーと騒ぎ立てる。
やがて『帝くんたちうるさーい』と声が飛んできてしまった。
隣のアオにも『んぅ……ウサうるさい』と怒られる。
「お前らのせいだぞ」
「ハーレム主人公の宿命ってやつだ」
「女に飽きたら待ってるからね」
「死ね」
いつものように馬鹿なことを言い合いながら、俺たちは目的地へと向かっていくのだった。
「いいなぁ」
「朱奈、眠たいの? 僕の肩に寄り掛かるといいよ」
「いや、大丈夫」
「そ、そっかぁ……、あぁ、帝たちは見ない方がいい。君にあんな奴は似合わない。君には僕がいるから」
「……はぁ」
『ねぇ、どうにかならないかな?』
『どこかで朱奈を引き離してあげないとね』
『そうだね、佐貫川君たちにあとで相談しようか、帝君にはこれでまた貸しが増えるね』
『今度は高級化粧品セットでも買ってもらわないと割に合わないね』
――
そんなこんなでやっと着いた目的地。
とある大都市であり、様々な観光スポットやショッピングなどが楽しめる施設も多数ある。
各自行動は自由なのでこのまま四人で行動することに。
朱奈の方には一条、多谷といつもの二人に加えて無地来が。
お前……やっぱクソ度胸だな。明らかに二人が嫌がってんじゃん。
なお本人は朱奈しか目に入っていないようなので気にしていない様子、この辺りのメンタルが主人公というべきなのだろうか。
「無地来を気にしててもしょうがねーだろ」
「炎珠さんとはそのうち良いタイミングがくるって」
「そうだな、今は楽しまないとだな」
「いこ、ウサ」
俺たちも他の生徒たちを見習い行動を始めることにした。
大都市を回り楽しむ。
ソーマは音楽が好きなのでこの国全ての曲の品揃えがあると謳われているCDタワーや、アオやユーリの目を引く女の子向けの雑貨品やアクセサリーなどが揃っているお店、ヒロシから頼まれた大都市限定のアニメグッズなど様々な所を回っていた。
「一旦休憩するか?」
「そうだねー、少し疲れちゃったかも」
自由とはいえ時間の限りはある。
思う存分堪能しようと回っていたが、休みなく歩き続けているため疲労は溜まってきていた。
『おい』
『――だね』
突然ソーマとユーリが何やら耳打ちをはじめた。
アオと共に疑問符を浮かべていると。
「ちょっとボクさっきのお店のパフェが気になってさ、ソーマ連れて行ってくるね」
「おう、少し別れるぜ」
「いや、さっきの店って……」
俺の静止を聞き止めず二人で歩いて行ってしまった。
――ユーリが目を引いてた所って『カップル限定メニュー特製いちごパフェ~あまーいひと時をいかが?』って幟があった所だろ。
お前ら実はそういう仲だったのか、察せなくて悪かったな……。
とはいえせっかく二人きりになった。
改めて彼女を見る。
「アオ、まだ歩ける?」
「ウサとデートできるチャンス。休んでいられない」
「なんだよそれっ」
ニコッとアオは笑った。
歩き出すと同時にそのまま腕を組む。
「幸せ」
「腕を組むのが?」
「それもだけど、こうしてウサと一緒に歩いてることが」
「……じゃあ俺も幸せだよ、アオが隣に居てくれるからな」
「わたしたち幸せのお揃い」
そのまま彼女と共に幸せを噛みしめながら街を歩く。言葉数はそう多くないけれど、一緒にいるだけでアオの言った通り確かな幸せを感じていた。
「お、アイスある。食べようぜ、アオは何がいい?」
「じゃあ、チョコミント」
「おっけー、俺は無難にバニラかなぁ」
店員に注文し、お金を支払いアイスを受け取る。
「あむ、美味しい」
「だな、今日も暑いし、アイスが火照った身体に染みるよ」
二人でアイスを堪能する。
ふと半分食べ終えたところで彼女の方から提案が。
「ウサのバニラも食べてみたい、ちょうだい」
「ほらよ」
「ん、美味しい」
「じゃあアオのも少しくれよ」
「はい、どうぞ」
「サンキュ」
二人でアイスの食べさせあいっこをする。
端からみたらまるで恋人同士のように。
「ウサ」
「ん? まだ食いたいの――っ」
「ちゅっ、ふふっ、バニラの味」
「……アオは歯磨き粉の味がしたよ」
「ウサ、デリカシーがない」
「チョコミント選んだお前が悪い」
「だったらウサの口に歯磨き粉をしみ込ませる――んっ」
「んむっ――こ、こらっ、こんな往来の場でディープキスしようとすんなって!」
こんなん見られてたら堪ったもんじゃないぞ。
「……ふふっ」
「なんだ、どうした?」
「なんでもない、それよりもっとキスしたい」
「キス好きねお前!?」
「キスもだけどウサが一番好き」
強すぎるわ!?
今もキスをしようと顔を近づけてくる。
……いつもされるがままってのも違うよな、俺も素直にならないと。
「んむっ!?……ぷはぁ、やっとウサからしてくれた」
「おう、その……まだはっきりと伝えられてなかったけどさ、アオのことは心から大事な人だと思ってて絶対に手放したくない。これからもずっと隣で笑っていて欲しいって思ってるよ。だから俺アオのことがす――っ!?」
「んっ、えへへ……」
彼女への想いを口にするよりも前にアオからのキスで言葉を止められる。
キスを終えた彼女の顔はさっきよりも赤みが増していて。
「やっと言ってくれた」
「人が喋ってる最中にキスするなって」
「だって嬉しいから、それにウサからキスもしてくれたから」
「ただ……もうちょっとだけ時間をくれ。もう一人話をしていない子がいるんだ」
「わかってる、待つのは得意。でも……」
セリフを止め、またキスをされる。
しっかり舌を絡める熱いキスを。
「待ってる間にもキスはずっとする。もう貴方とキスをしないと耐えられなくなっちゃった」
「せめてその、こういう往来の場ではさぁ……」
「やだ、ずっとこのままくっついてキスしよ?――見せつけちゃえ」
「それってどういうっ――!?」
結局されるがままになる。
恋愛強者のアオに勝つなんぞ、無理なことだということだった――。
――
どれくらい時間が経っただろう。
アオの宣言通りずっと抱き合いながら唇を重ねていたが――。
「おいこらバカップル」
「やりすぎだと思うんだ」
こほんと咳を立てた音、振り向くとソーマとユーリの姿が。
「……もうおしまい?」
「心底残念そうにするな」
「充分堪能したと思うんですけど」
「このままアオをほっといたらウサが下まで食われるかもしれねぇ」
「まだ日も明るいんだよ、はいおしまい」
「ざんねん」
本気で残念そうな顔をしないでくれませんかね。
すっかりアオの求めっぷりに揶揄うどころか呆れられるようになってしまった。
この間もヒロシ家で『少し控えてくれねぇか?』『バカップルは目の毒なんだよね』と言い出す始末、いやまだ付き合ってはいないし。
ヒロシは『氷音碧依が報われた……これこそが真エンド』とか言って涙流してたけど。
「ほら行くぞ」
「時間は限られてんだからね」
「ウサ、いこ」
「はいよ」
アオから腕を引かれるように歩き出す、進み始めるとぎゅっと腕に抱き着いた。
彼女は俺の顔を見つめ『大好き』と囁く。
そんな俺らの様子を見て二人は呆れたように溜息を吐くけれど、その顔には笑みが浮かんでいた。
まだまだ修学旅行は始まったばかりだ――。
「朱奈お待たせ~、ってどうしたの?」
「何か顔色悪いね、待たせすぎちゃった? あのお店凄く混んでてね……」
「うぅん、大丈夫……」
「それとも無地来君がしつこすぎるせいかな。今彼トイレ行ってるんだっけ」
「このまま逸れていてくれてもいいんだけどね。まぁ夜になったら引き離――」
「こらっ、内緒だってそれは!」
「あ、ごめんね~」
「――どうしてウサくんと氷音さんがあんな風に腕組んで、それにキスまで……やだよぉ」
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