第22話『悪夢は続く』
「――っ!?」
けたたましく鳴り響く電子音。
スマホのアラーム音だ。
……すべて夢だった。
心臓がまだバクバクと音を立てていて呼吸も荒い。
全身が汗でびっしょり濡れ、Tシャツが肌に張り付いていて気持ちが悪い。
部屋中に鳴り響くスマホを手に取りアラームを解除する。
「なんだったんだ……今の夢」
まるで自分のことのような、実際に体験したかのように鮮明に、それでいてリアリティのある悪夢だった。
吐き気がする……。
夢というのは自身の願望、欲望が映し出されることがあるだなんて言うが。
嫌がる朱奈を薬で抑え込み、碧依を傷つける言葉を平然と吐き、翠を暴力で支配する。
俺がこんなもの望んでいるとでも言うのか?
これが俺の本性なのか?
「ふざけんなクソっ、こんなのが俺なわけが……っ」
ベッドから体を起こす、部屋に置いてある鏡が目に入る。
――そこに映っているのは悪夢に出ていた紛れもない
「う、うわあぁぁ!?」
ベッドから降り、部屋を出てリビングへと走る。
洗面台でコップに水を注ぎ一気に飲み干した。
「はぁっ……はぁっ、――あれ?」
時計に目をやると、いつもより起きるにはかなり早い時間だ。
なんの偶然かアラームを設定する時間を間違えたようだ。
「……シャワー浴びっか」
汗はまだ引かない、気分もまだ晴れない。
こんな状態で学校なんか行けるわけなかった。
「今日も暑くなりそうだな……」
バスタオルをもって風呂場へ向かう。
汗を流しても気持ちはスッキリしなかった。
気持ちは晴れないけれど学校には行かなければならない。
いつものように軽く朝ごはんを腹に入れ、誰もいない家へ別れを告げる。
早く起きてしまったためいつもよりかなり早い時間だったが、なによりもジッとしているのが苦しかった。
「……」
頭の中には未だ鮮明に悪夢が残っている。
夢っていうのは起きたらぱっと忘れるものじゃないのか。
クソっ、と悪態を吐きつつあっという間に学校へと着いてしまう。
普段のように靴を履き替え自分の教室へと向かう。
気分は一向に晴れない。
「だめだ、今日はサボろう」
とてもじゃないが授業を受ける気なんて起きない。
学校へ来て早々と授業をサボることにした。
翠の怒った顔が目に浮かぶ、あぁまた怒られるんだろな。
ぐにゃり、と彼女の顔が泣いて恐怖する顔へと変わっていく――っ、違うこんなのは違う!
映像を搔き消すように顔を振っていつもの空き教室へ向かっていく。
足を踏み入れると
だが――。
またあの悪夢が、寝てもいないのに夢と同じような映像が突如目の前に広がった。
『あ、あかな……?』
『あはっ、白だぁっ』
『ひょうね……さん?』
『……んっ』
『オラッ、もっと腰振れよ』
『あぁっ気持ちい。君の締め付けは最高だよ』
今度の映像は俺からの主観視点ではなく、無地来と思われる声の主からの視点で繰り広げられる光景だった。
悪夢に出てきた偽のソーマ、ユーリたちはまたも全裸で彼女たちを相手に腰を打ち付けている。
『お、無地来やっと来たのか』
ソファに座りその光景を見ていた俺が立ち上がり無地来へと声を掛けた。
『__君、なんで……どうして彼女たちが……』
『そりゃお前から奪ったからさ』
フッ、とバカにしたような笑みで偽の俺は言う。
『奪った……?』
『そ、気に食わなかったんだよな。陰キャのお前が女に囲まれてヘラヘラしてるのが、だから奪ってやろうとおもったわけ』
『ふ、ふざけるな!』
怒りで無地来は怒鳴り声をあげる。
顔は見えないが歯を食いしばり、今にも偽物に向かって殴りに行きそうな勢いが感じられた。
『お怒りの所悪いんだけどよ、お前勃起してんぜ?』
偽物が指摘する指先は無地来の股間……彼のズボンがピンとテントを張っていた。
『なんだぁ? 取られて興奮するクチか?』
『じゃあたっぷり見せつけないとね』
『ど、どうして僕は……っ』
『あんっ、見て白っ、あなた以外の男に犯されてる私をみてぇっ』
『……んぅっ』
『あ、ああぁぁ~~っ!!』
「おえっ……」
吐き気を催しトイレへと駆け込む。
朝に入れた物が全部出て行ってしまった。
なんだよ今の映像は……っ。
まるでさっきまでの悪夢みたいだ。
とてもじゃないが彼女たちがここで犯されている光景を見た後に、たくさんの思い出が詰まっているこの場所を使う気にはなれなかった。
――
中庭に寝そべる。
彷徨い続けて結局来たのは中庭だった。
どこの空き教室に行っても浮かんでくるのは偽物たちが朱奈と碧依、翠を犯し続ける映像だった。
これではまるでヒロシの言ってたゲームの中身みたいだ。
気持ち悪い、吐き気がする。
目を閉じようとすると浮かぶのはあの光景だった。
クソっ、これじゃ眠れやしない。
あぁ、そうだ。
だったらもっと良いことを考えよう。
こういう時に浮かべるのは申し訳ないが、思い出させたのはあの時体育倉庫で二人きりになった時の朱奈だ。
紅潮した頬に涙が浮かぶ赤い眼。
あの時の朱奈ははっきり言って滅茶苦茶可愛かった。
理性をフル動員させ彼女の性奉仕を断ったけども――。
――今度は犯してやりてぇな。
「――っ、なんなんだよクソっ!」
犯してやりたいだと!?
ふざけんなっ!
俺は彼女に対してそんな感情を抱いたことなんて――っ。
――無地来から奪うか、俺のモノにしてぇな。
「ちがうっ、俺はそんなんじゃっ!」
「帝ぉっ! サボってないで授業出ろおぉ!」
ちょうど上の教室、俺のクラスで授業やってた我が担任に見つかり怒られた。
その後、さりげなく教室に戻るため後ろのドアから教室への侵入を試みたが、ドアが不自然に空いて気づかれないわけもなく。
クラスメイトが見守る中教師から公開説教を受けた。
数分程度の説教が終わり席へと戻る途中。
「もうっ、なにやってんの」
と呆れた表情で声を掛けてくれたが。
『あぁっ! もっとっ、もっと犯してっ!」
朱奈の犯される光景が浮かんでくる。
慌てて顔を抑え朱奈から逃げるように席へと戻る。
俺の只ならぬ様子に心配した表情をしてくれたが答えることはできなかった。
「怒られてやんの」
「バカだねぇ」
「……」
『……?』
親友二人も朱奈と同じように声を掛けてくれたが、まともに返事が出来ない。
いつもの覇気がないと感じたのか。
二人は疑問符を浮かべていた。
しかし俺の様子が変であっても授業が再開される。
前へ目を向けると黒板には『修学旅行』の文字が。
「それじゃああとは修学旅行の実行委員を決めるぞ」
「また実行委員っすかー!?」
「ぶーぶー!」
「はいはい、静かに」
不満続出のクラスメイト達相手に淡々と諫める。
夏休み目前、しかも2年生が修学旅行かよ、設定詰めすぎだろ。
「じゃあ今回も炎珠さんと帝でいいだろ」
「そうだねー、この間の体育祭もいい感じだったし」
「おいおい、そうやってお前たち押し付けるな。炎珠も嫌だろう?」
「いや、私は別に……」
ちらっ、と俺の方へと振り返る。
その表情は期待が含まれているようにも見受けられたが、先程の反応が気になっているのか心配といった点も入っていそうだった。
「む? そうか、じゃあ女子の方は炎珠でいいか。帝はどうだ?」
「俺は――」
「先生」
どう答えるか決めかねていると。
無地来が挙手をしていた。
「僕が実行委員やります、朱奈と一緒に」
「そうか、他に手を挙げそうもないし、それだったら無地来頼んだぞ」
「はい!」
周囲は俺と朱奈で組むことを推していた雰囲気があり微妙な反応ではあったが『まぁ……自分でやるのは嫌だし無地来でいっか』と次第に納得するのだった。
タイミングよく終わりを告げる鐘が鳴る。
授業が終わると二人は俺の方へ向き非難するような目をする。
「おいおいウサちゃんいいのかよ」
「無地来に取られちゃった、これじゃ原作通りだよ」
「……うるさい」
「……お前さっきからどうした――」
「こらぁ! ウサ先輩!」
ソーマの言葉を遮って怒声が飛ぶ。
声の方向へ顔を向けると、鬼の形相をした翠が立っていた。お馴染みの腰に手を当て人を指差すポーズで。
「私の教室から見えてましたよ! また授業をサボったですね!」
「……」
「まったく! 最近のウサ先輩は更生したかと思えばやっぱり変わらないですっ、やっぱり私がこうしてずっとウサ先輩の傍にいたほうが――ウサ先輩?」
「ウサ、大丈夫?」
俺にいつもの元気がないことに違和感を覚えたのか、翠の言葉が止まる。
いつの間にか隣の空席へと来ていた碧依、実行委員のコンビになったことで無地来に話しかけられていた朱奈も心配そうに見つめていた。
『あぁっ、イイっ、そこ凄く気持ちいいですっ』
『す、い?』
『おう、お邪魔してるぜ無地来』
『な、なんで__君が、翠と……』
『ヤリたくなっちまったからさ、俺の〇ナホを使って発散してるわけ』
『ご主人様、もっとっ、激しくぅっ!』
『ははっ、どうだ、お兄ちゃんに見られながらセックスするのは!』
『最高ですっ、あぁっお兄ちゃん見て! 私がご主人様の〇ナホにされてる姿をもっと見てくださいっ!』
『あ、ああぁぁーーっ!!』
今度は翠が犯されている光景が目に浮かぶ、なんだってんだよ……っ。
「ウサ先輩、顔色が悪いですよ?」
心配そうに顔を覗き込んでくる翠、触れようと手を伸ばしてくれるのを見て――。
――お前の幼馴染も、クラスメイトも、妹も、全部俺のモノだ!
「……違うっ!」
「あっ……」
脳内に響く忌々しい考えを否定するように手を振り払った。
ただ、タイミングが悪かった。翠が差し伸べてくれた手を振り払う形になってしまった。
「ウサ、先輩……」
「……翠? いや、ち、違う、そんなつもりじゃ……っ」
ぽろりと涙が落ちる、あぁ泣かせてしまった。
俺の行いで翠を泣かせてしまった……っ。
「ちょっとウサくん!?」
「翠!? 帝君いったいどういうつもりだ!?」
離れて会話をしていた朱奈と無地来も騒ぎを聞き付けて駆け寄ってくる。
――泣くほど気持ちいいのかよっ、お前も大概淫乱だな。
「……っ、クソっ!」
「あ、ウサくん!?」
とてもじゃないがここに居続けるのは無理だった。
俺は教室から逃げ出した――。
「翠、大丈夫かい!? 帝君に叩かれたんだね!?」
「ち、ちが……っ、ウサ先輩はそんなこと……っ」
「だったらどうして翠が泣いてるんだ! クソっ、帝君、いや帝の奴絶対に許さない!」
「どう見る?」
「……何かが起きてる気がするよね。それで、この後は?」
「決まってんだろ、追っかけるぞ」
「当然だよね、氷音さん悪いんだけどウサの鞄を放課後持ってきてくれる?」
「持っていくって……どこに?」
「そりゃもちろん」
「ヒロシの所!」
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