第21話『悪夢』

 

『嫌っ! やっぱり嫌だっ!』

『なんだよ、ここまで来ておいて今更嫌なのか?』

『だって、私には白が……っ』


 これは……なんだ?

 男が嫌がる女の子の腕を掴んでいる。相手は……朱奈?

 

『さっきもあいつが別の女とデートしてんの見ただろ?』

『だ、だって! わ、私と白は将来結婚するって……っ』

『そんなのガキの約束に決まってんだろ、もうお前なんて無地来は眼中にないんだよ』

『そんな……白ぅ……』


 男が告げる言葉に涙を流す朱奈。

 そんな彼女に対して気にも留めないように『ハッ』と笑った。

 

『だからさ、あいつを忘れるために俺とセックスしようぜ? 無地来のことなんざ忘れさせてやるくらい気持ちよくさせてやっからさ?』

『……嫌っ! 離して!』

『おいおい__、待ちくたびれて〇ンコ萎えちまったよ』


 聞き覚えのある声、視線を動かすとそこにはソーマに似ている男の姿が。

 いや、ソーマじゃない、こんな卑しい笑い方をする奴は俺の親友のソーマなんかじゃない。


『ど、どうしてここに__くんがっ!?』

『うーっす炎珠』

『わりぃな、思った以上に無地来に未練が残ってるみたいでな』

『おめぇの口説き方が甘いんだろ』

『ははっ、よく言うぜ。誰のおかげでここまで朱奈を連れてこれたと思ってんだ』

『そりゃもちろん__君のおかげだよなぁ、いつも極上の女たちを連れてくる__君には頭があがらねぇぜ』

『口が回るこった』

『い、いや……っ』


 顔が絶望へと沈み後ずさる朱奈。

 だがこの男共が彼女を逃すはずもなく……。

 

『――んっ!?』


 偽ソーマの持っていた布を朱奈の鼻に押し付ける。

 すると朱奈はみるみると生気がなくなり、目が虚ろとなる。

 あれだけ抵抗の意思を見せていたのにも関わらず、全く動かず立ち呆けてしまった。

 

『結局コレ頼りだな、オレはレイプの方が好みなんだがな』

『わりぃって、最初は譲ってやっからよ。しかしすげーなその薬、あれだけ騒いでたのにあっという間に目がイっちまったな』

『へへ、じゃあ楽しむとするか』


 下卑た笑い声をあげる二人。

 ふと、窓ガラスに男の姿が映し出される。


 その男の姿は……まるで俺自身だった。


 ――

 

『もどったよー』


 ザザッとノイズが入り視点が変わる。

 今度の声の主は……ユーリに似ていた。

 だがいつもに比べて手の込んでいない女装姿であり、部屋の中まで入ると彼はその衣類を脱ぎ捨てた。

 

『おつかれ、名演技だったな』

『腕まで組んじまって、立派なカップルだったぜ』

『止めてよもう。あいつ鼻息荒くなるし目線はキモいし最悪だったよ』


 心底嫌そうに溜息を吐く。

 女物の服を脱いだその男はユーリに似つかないくらいに男の姿をしている。

 

『てか既にお楽しみ中じゃん』

『おう処女はオレがもらったぜ、やっぱ女は処女でなくちゃな』

『出たよ処女厨、処女なんてめんどくさいだけじゃん』

『嫌がって泣き叫ぶのが快感じゃねーか。挿入る時の絶望に染まりきったあの顔がたまんねーのよ』

『歪みすぎだろ』

『さっすがボクらイチのクズ男』


 ゲラゲラと不愉快になる笑い声、友達の声に似ているだけで話している内容は最悪だ。

 そして視点が偽ソーマへと映る、彼は全裸だった。

 彼が腰を前後に動かしている相手は……朱奈だ。

 

『はく……? わたし……あれ……』


 うつろ目になりながら性行為を受けている。その目の端には涙が落ちた。

 

『まだ意識飛んでるな』

『炎珠の奴は特に薬の効きが良いみてぇだな』

『効き目すごいね~、結構ヤバい奴?』

『組の知り合いからもらったんだ、試供品ってやつだよ。今度海外で売り捌くらしい』

『相変わらず半端ないね、ところで次ヤラせてよ、無地来の奴に受けた気持ち悪さを発散させたいとね』

『おう、今イクからまってろ……うっ』

『中出しとか止めろよ、次使う俺らのことも考えろって』

『女は中出ししてナンボだろ』

『ははっ、鬼畜ぅ』

『は……く……』


 偽ソーマは絶頂したみたいだ。入れ替わるように偽ユーリのアレが彼女の中へと挿入っていく。

 最後まで朱奈の涙が途切れることはなかった。


 ――


『少しは抵抗しねぇのか?』

『……これが目的だったんでしょ』


 またも視点が変わる、今度の女の子は朱奈じゃない……碧依だ。

 

『なんだお見通しなのか、つまんないな』


 全てを諦めたように、吐き捨てながら碧依は言う。

 

『結局男なんてどれも同じ、人の事を性欲でしか考えていない』

『お前みたいな女ソレ以外で何があんだよ?』

『……信じたかった、真っ直ぐ見て話してくれるあなたを』

『ははっ、バカじゃねーの!? お前なんかと話して楽しいと思ったか? くだらねぇ陰キャちゃんの相手をするのが俺はなによりも嫌いなんだ。特にお前みてぇな自分は恵まれていない、可哀そうなんだ感を出してる女はさ』

『…………』


 碧依の表情が沈んでいく。

 ふざけんな……、碧依にこんな顔をさせんじゃねぇよ……。


 碧依を傷つける男の声の主は当然――俺であった。

 

『……セックスがしたいならすればいい、慣れてるから』

『なんだ、嫌われっ子の本性はただのビッチだったか。だったら最初っから押し倒せば良かったな。なんせお前と話しても反応薄いしつまらねぇし』

『……』


 つまらない、と伝えられた碧依は一瞬ながら悲しそうな目をする。

 しかし俺らしき奴はそれに気づいておらず心底つまらなさそうに吐き捨てていた。

 やがて後ろへと振り返り、仲間たちへ声を掛ける。

 

『おいお前ら出てきていいぞ』

『コレ要るか?』

『必要ないでしょこの感じじゃ』

『……バカみたい』


 ――


 また視点が変わる。

 何故か次に映る女の子は想像が出来ていた。

 

『嫌ですっ! 離してっ!』

『おいおい、自分から乗り込んでおいて離せはないだろ』

『お姉ちゃん! 朱奈お姉ちゃん!』


 その相手は想像通り、翠の姿が。

 彼女は決死の想いを込めて呼び掛ける。


 だが、そんな彼女を裏切るように……。

 

『翠……あなたもこっち来なよ、すっごく気持ちいいよ?』


 朱奈と思われしき少女は完全に――堕ちていた。

 衣類はまとっておらず、後ろでから偽ソーマに腰を打ち付けられている。

 

『お姉ちゃん! 目を覚まして!』

『あはは……私は寝てなんかいないよ? あっ、激しいぃ……っ』


 彼女の喘ぎ声に身じろいだ翠、しかし彼女の目はまだ負けてはいない。

 

『お兄ちゃんが好きだったんじゃないの!? お姉ちゃんが離れてからお兄ちゃん引き籠っちゃってもう私どうしたらいいかわかんないよ!』

『んっ……、奥当たってるぅ……、知らないよ白なんか、あっ』


 意にも返さず朱奈は悦がる声をあげる。翠の言葉がまったく届いていない。

 翠は視線を変え、偽ユーリに騎乗位で突き上げられている碧依にも呼び掛ける。

 

『あなたもいいんですかこんな奴らに好きにされて! あなたもお兄ちゃんのこと好きだったんじゃなかったですか!?』

『……わたしは愛が欲しいだけ、それが性愛でも愛ならなんでもいい……』


 彼女の目は先程の映像となんら変わりないが、それでも翠の言葉に耳を貸す意思は見られなかった。

 

『こいつは相変わらずマグロだな』

『気持ち良さは最高なんだけどね、うっ出るっ』

『つーわけで、助けに来た二人は絶賛楽しんでるみたいなんだが? お前も交じるか?』


 スッと翠へと手を伸ばす。

 だが――。

 

『っ、離せ! お前たちみたいなクズに触らせるもんか!』


 バチィッと強打音が教室に響く。どうやら俺自身が平手打ちをされたようだ。

 夢なのに、まるで本当に叩かれたかのように、頬に痛みを感じる


 キッと視線の主である俺を睨みつける。

 初めて会った時の翠からは比べ物にならないくらいの敵意だ。 

 

『なにしやがんだこの女ぁっ!』

『痛っ……!』


 翠が床へと倒れこむ。


 こいつ……翠に手をあげやがったっ。

 だが翠を平手打ちしたのは他ならぬだった。


『俺はな、うるさい女が大嫌いなんだよ、あそこのマグロも吐き気がするぐらいうぜぇけど、ぴーぴーうるさい女の方が嫌いなんだわ』

『あ~あ、__がキレちゃった』

『あの女終わったな』


 ケラケラと笑い声をあげる偽物たち、腰を打ちつかれている彼女たちは何も反応することなく悦がっている。

 

『……っ、絶対に許さないっ』

『コレいるか?』


 偽ソーマの手にあるのは朱奈をおかしくさせたあの布。

 

 だが……。

 

『いらねぇよ、犯しまくって自分から奴隷にしてくださいって言うまで徹底的に調教してやる』

『いやぁ怖いね~』

『オレたちはあいつに比べればマシだよな』

『こ、来ないでっ』


 これからナニを起きるのか、自分がされてしまうのかを察し翠は後ずさる。

 だがその甲斐空しく――。



 

『……私をあなたの__にしてください』

『あぁん、聞こえねーよ? まだ殴られ足りないか?』

『ひっ、お、お願いします。私をあなたの奴隷に、して、くださいっ、うぅ……っ』

『ひぃ~怖い怖い』

『レイプ好きのオレの方が優しいぜ、オレでもあそこまで女を殴らねーよ』

 

 プルプルと震え、涙を流しながら土下座をする翠。その床元には血の跡もある。

 そんな彼女の頭を踏みつけているのは……俺の足だ。

 

『はい、いっちょうあがり』

『相変わらず鬼畜な奴』

『一番怖い男だよね~』

『はっ、逆らうこいつが悪いんだよ』

『……っ』


 げしっ、と頭を踏み続ける。

 

 もう嫌だ……、いつまでこんなのを見せ続けられるんだ。

 

『こいつも無地来の前で見せつけるか?』

『いいね、この間みたいに射精しそうだよね』

『ありゃ傑作だったな、なんせ好きな女を目の前で犯されたんだからな』

『ははっ、人の女奪うって最高だな!』


 ゲラゲラと耳障りな笑い声をあげ続ける偽物の俺。

 こんな……こんなの受け入れられるかよっ。


 俺は……彼女たちのこんな姿を見たくなんて……っ。


 偽物たちの行いを見ているしかできない、苦しんでる彼女たちを助けることも出来ない。

 絶望と無力に陥りながら、やがて悪夢は明けていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る