第18話『ヒロシ家へようこそ』
「ってことでようこそヒロシの家へ」
「いらっしゃい」
「歓迎するよ」
「お、お邪魔します……」
碧依を一緒に帰ろうと誘った。
そしてやってきたのは俺たちの溜まり場であるヒロシの家だ。
一足先に帰っていたソーマとユーリが出迎えてくれる。
家の中に入るとヒロシが仁王立ちしていた。
何か知らんけど顔がプルプル震えている。
「おれは感動している」
「なにが?」
「神絵師の描いたヒロインが……目の前にいるっ!」
「よかったね」
「イェア"アァァーッ!」
ヒロシは感動で打ち震え発狂していた。
碧依が『ど、どうしたの?』と困惑しているが別に気にしなくていいよと伝えた。いつものことだし。
「遠慮なんてしなくていいからさ、我が家のようにくつろいでいいぞ」
「で、でも……」
「大丈夫だって、碧依用にデスクとディスプレイをヒロシが用意してくれたらしいから、ゲーム機、ソフトも全種類あるから好きなゲーム出来るぞ」
「え、えぇっ!?」
ヒロシに連絡をした後すぐさま用意したらしい。家から一歩も出ないくせにどうやったんだ。
さすがヒロシである。
「氷音さんなにか飲む?」
「あ、えっと、水で大丈夫、です……」
「水だなんて遠慮しなくていいのに、じゃあボクの好きなオレンジジュース置いとくね」
「あ、ありがとう」
「氷音ポテチ好きか? コンソメとのり塩なら今あるが」
「じゃ、じゃあコンソメで……」
「氷音さん〇マブラできる? 一緒にやろうよ」
「GCコンとプロコンどっちがいい?」
「あ、えぇと、その……」
ユーリとソーマからも矢継ぎ早に声を掛けられる。
クラスメイトとはいえ全く話したことない相手であるため軽くパニックになりかけている。
そもそも面識もない男の家にいるってだけでも落ち着かないか。
「おいおい、さすがに碧依が困ってるだろ」
というわけで彼女をフォローするために助け舟をだす。
が、俺の行動に対し非難の目を向ける親友たち。
「お前が精いっぱい持て成せって言ったんだろ」
「ボクらなりに頑張ってるんですけど?」
「ごめんなさい」
素直に謝る。
ヒロシへとチャットを送った後、二人にも話を通しておいた。
『碧依は人と話すことを怖がってる節があるから、まずは俺たちで関わって慣れてもらおう、そのためにお前ら精いっぱい持て成せ』
と伝えていた。
「はー、慣れねぇことはするもんじゃねぇな」
「ホントだね、もう飽きたからいつも通りにしようよ」
「諦めはえーよ、もう少し頑張れよ」
突っ込むもすでにやる気がなくなったみたいで、各々自由に遊び始めたのだった。なんて奴らだ……。
「ご、ごめんね、わたしのせいで……」
「氷音は何も悪くねーよ、そこのウサちゃんが全部わりーから」
「そーそー、なにもかもウサちゃんが悪い」
「まぁ作戦が微妙だったのは認めよう。だけどウサちゃん言うんじゃねー」
「ウサちゃん」
「てめぇもなんだ急に!」
「……ふふっ」
人をウサちゃんと連呼し始めた友人たちに怒っていると急に碧依が噴出した。
「ご、ごめんね。いつものやりとりが面白くて……、教室でずっと良いなぁって思って聞いてたから」
「お、そうか、じゃあ今度からウサちゃんて呼び続けよーな」
「ぶっ飛ばすぞ!」
「氷音さん喜んでるからいいじゃん我慢しなよウサちゃん」
「俺はその呼び名嫌いなんだよ!」
「ウサちゃん」
「てめぇヒロシなんなんださっきから!」
「も、もう止めてっ……!」
碧依は可笑しそうにお腹を抱えている。
彼女がここまで笑い続けているのは初めて見る。
「氷音もウサちゃんて呼んでやれ、こいつ嫌がってるけど何だかんだ楽しんでるから」
「殺すぞ」
「そんなこと言って~、氷音さんが楽しんでるの見て占めたって思ってるんでしょ」
「……うっせ」
「ウサちゃん」
「ヒロシてめー!」
「う、ウサちゃん……?」
「碧依嘘だよな? 俺たちサボりを共にした仲間じゃないか」
『ウサちゃん、ウサちゃん!』
「てめーら〇マブラで白黒つけてやっから準備しろ!」
なお3対1でボコボコにされた模様。
まさにorzな姿勢で項垂れていると俺とコントローラーをチェンジして碧依がゲームへ参戦していた。
「氷音の動きやばくね!?」
「リトル〇ックの拳は誰にも止められない」
「こいつナーフされてたはずだよね、滅茶苦茶強いんですけど!?」
ゲームを介してではあるがソーマたちとも問題なく話すことが出来るようになっていた。
ちょっと予定外だけども、作戦通りでいいだろう。
わ、わざとボコボコにされた甲斐があったなぁ……っ。
「いい所に目を付けたな、氷音碧依は人前でコミュニケーションをとるのが苦手、彼女は学校で話しかけられることを望まない、だからここに連れてくることで彼女の心を溶かし好感度を爆上げさせようと思ったのか」
「そんなんじゃねーよ」
ヒロシの言うことは正しく実際のところその通りになっているが――。
でも俺が彼女をここに連れてきたのは――。
「笑っていて欲しかったんだ」
「ん?」
「涙を流す碧依なんて見たくない、ただ彼女に笑ってほしい。あの子が安心していられる場所をつくってやりたい。そう思っただけだ。好感度とかそんなん考えちゃいねーよ」
「万が一だ、氷音碧依が他者と交流するようになり、彼女の心が別の男へと傾くことになってもか?」
「……それが無地来だと妙にイラつくけど、碧依が幸せになるならいいのかもな」
碧依の方へ目を向ける。
彼女の操作するキャラがソーマとユーリのキャラを同時に撃墜した所だ。
二人は『んなぁー!?』『もう1回だよ!』とムキになっているのに対し碧依はドヤ顔をしている。
「それでいい、だからこそ彼女はお前を選んだんだろうな」
「選ばれたっていう感じなのかねぇ」
「氷音碧依というヒロインは原作でも結局の所、陽キャたちが身体はモノにしても彼女の心を手に入れることはできない。彼女を幸せにするのならあのゲームの中身のままでは一生叶わないことだ。それ程までに彼女が抱える傷は大きい」
「傷だと?」
「おっと、喋りすぎた。ウサに原作知識は入れない予定だったな。忘れてくれ」
ヒロシはポリポリと頭を掻いて『さて、エロゲでもしてくるか』と自分用のデスクへと向かっていった。
いや今の話を忘れろとか無理に決まってんだろ……。
それに碧依が来てるのにエロゲすんじゃねーよ。せめてヘッドフォンつけろよ?
ヒロシの言い残した言葉は妙に気になるが、真意を尋ねたところで喋りはしないだろう。
まぁなんとかなるだろう。気を取り直して碧依たちの方へ目を向ける。ちょうどソーマとユーリのキャラが同時に撃墜した所だ。再放送かな?
「おい、ウサ、お前も協力しろ! 氷音強すぎるって!」
「2対1がダメなら3対1だよ!」
ボコボコにされ続けた二人が助けを求めてくる。
碧依はゲーム強いからなぁ、この俺がいつもボコボコにされてるんだし。
「さすがに3対1は卑怯だろ、碧依が可哀そうじゃないか」
「ウサの〇ービィはわたしのカモ、問題ない」
「かっちーん、俺キレちまったよ」
「まあウサの〇ービィはなぁ」
「そもそも最弱キャラだし」
はぁ~? 〇ービィちゃんは初心者から上級者まで幅広く使いこなせる最強キャラですけど~?
俺の〇ービィちゃんは可愛くて最強なんだ、目にモノを見せてやる!
コントローラーを手に取り俺もゲームへと参戦する。
意識せず碧依の隣へと腰掛ける。
ふと、彼女と目が合う。
「楽しいか?」
「……うん、すっごく楽しい」
「そりゃよかった」
ここに連れてくるのは大正解だったみたいだ。
碧依も、そして俺と碧依を見る彼ら二人も笑顔で楽しそうにしている。
今この瞬間碧依は、俺意外にもソーマ、ユーリ、ついでにヒロシという友達を作ることが叶ったのだった。
――綺麗にまとめたがこのあと俺ら三人は碧依のキャラによってボコボコにされるのだった。
「強すぎる……」
「3対1だよ……」
「緑の……悪魔」
「ぶい」
――
「お、もうこんな時間か」
ゲームに夢中となって気付けば外も真っ暗になっている。
どこの家も夕食を摂るような時間になっていた。
「明日も学校だしそろそろ解散すっかぁ」
「だねー」
名残惜しいがこれにてお開き。明日もいつも通り学校があるのでどこかで切り上げる必要がある。
二人は片付けを始めた為、俺も準備するかとソファから立ち上がろうとすると。
「……」
「碧依、掴まれてると立てないんだけど?」
ぎゅっと服の裾を握り、その目は不安そうに潤んでいる。
「帰りたく、ない」
「碧依?」
「こんなに楽しかったの初めて、わたし、家に帰りたく……ない」
『……』
「ご、ごめんね……やっぱり迷惑だよ、ね……ごめんなさい」
『……』
ヒロシたちへ目配せをする。
『いけっか?』
『まかせとけ』
『ここで断ったら』
『おれたちの存在意義はない』
さすが親友たち、言葉を交わさずともアイコンタクトだけで意思が通じ合った。
「んじゃ今日は泊まるか。でもまずは飯食おうぜ」
「この時間だし今から買い出しに行くのもな。今日の所は出前取ろうぜ」
「いいね、ボクは寿司食いたい気分かも」
「んじゃなに頼むか」
「中トロ」
「オレはマグロ食いたい」
「ボクもマグロ、ワサビ嫌いだからちゃんと抜いて頼んでね」
「アナゴ」
「光物も入れとけよ」
「ウニも忘れないでね!」
「注文まとめやがれ! んで碧依はどうする? てか寿司いける?」
「あ、あの、本当にいい……の? わたしの我儘なのに……」
おずおずと遠慮した様子であるが、何も問題はないと俺たちはサムズアップで返した。
「いいんだよ、碧依の気が済むまで今日は一緒に遊ぼうぜ」
「どーせ授業中は寝るだけだしな」
「明日は歴史だし、寝るにはいい授業だよね」
「俺と碧依は空き教室行けば眠れるしな」
『ウサだけ死ね』
「ははっ、まぁそういうわけだから何も気にすんな」
上手く話を纏めたところで碧依へとメニュー表を渡す。
「じゃ、じゃあ選ぶね……」
と、メニューで顔を隠していたが、彼女の肌が見える首元にはうっすらと光るものが流れていた。
その後寿司を堪能した俺たちはゲームを再開し深夜になるまで遊び尽くしたのだった。
そして――。
「この部屋三人用だからお前と氷音はあっちの部屋な」
「初耳なんだが?」
「ごゆっくりね、明日も学校なんだから激しくしすぎないようにね?」
「殺すぞ」
唐突に決まったルールにより俺と碧依は同じ部屋でねることになり――。
「彼女の心を受け入れてやれよ、それがどんなに辛く、苦しいものであってもな」
ヒロシの発した言葉の意味、それがわかるのはもう間も無くだった。
夜はまだまだ続いていく――。
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