第13話『この気持ちは?』
「よし、じゃあ練習の通りでトップランナーがソーマ、次に一条、ユーリ、多谷と続いて本来炎珠の所だがここには碧依に入ってもらって、最後は予定通り俺でいこう」
輪を作って参加する5人に指示を伝える。全員頷きを返してくれたことで順番決めは問題ない。
「朱奈のためにも絶対勝たないとね」
そう決意したのは
「氷音さんが入ってくれて助かったよ」
続いたのは
「みんなごめんね」
「炎珠気にするなよ、その足じゃしょうがないんだから」
「そもそもウサちゃんが炎珠をが上手くリードしなかったのが悪い」
「すべてはウサちゃんの責任だね」
「俺の責任云々はいいんだがウサちゃんは止めろ」
炎珠がこれ以上気にしないようにこいつらなりのフォローなんだろうがウサちゃん呼びは話が違う。
いつものやりとりに申し訳なさそうな顔をしていた炎珠も笑みを零した。
「むしろ氷音さんは朱奈より足速そうだしこれって戦力アップなんじゃない」
「美桜ひどいよっ」
「あははっ、ごめんね~」
「でも、200m走すごかったよね~、男子たちも釘付けだったみたいだし?」
多谷はニヤニヤと俺らを見てくる。
「オレは社畜なお姉さんしか興味ないし」
「ボクも女の子に興味ないし」
「……まぁ、ほら、な?――って痛い痛い、炎珠抓るの止めてっ」
あの時軽蔑されてたのは声に出してガン見してた無地来たちだったが、俺もガン見族の一人ではある。
むしろ気にならん男子は特殊性癖をもったこいつらだけだろう。
そして何故か炎珠が太ももを抓ってきた、解せぬ。
「氷音さんも男子たちがごめんね?」
「……ウサになら大丈夫」
「ひゃぁっ」
「朱奈、この子に勝てる?」
「か、勝てるってなんのことよっ!」
「べっつにぃ~?」
炎珠は一条に揶揄われ、多谷は碧依に『どういうこと、詳しく教えて~?』と引っ付いている。
引っ付かれた碧依はどうすればいいのかわからないといった感じで助けを求める視線を寄こしたが、まぁがんばれ。
一方こちらの二人も『いい感じだなぁウサちゃん?』『もうそろそろゲームクリアかなウサちゃん?』とダル絡みをしてきた。
だからウサちゃん止めろって言ってんだろ。
これからリレー本番だというのに何とも締まらない流れとなったのだった。
――
『さぁいよいよ体育祭も最後のプログラム、クラス対抗リレーだ!』
『現在のポイント数は黄色が優勢、ここで黄色グループが勝てば優勝が確定します!』
『1年生のクラス対抗リレーでは赤が勝利、この勢いのままここでも勝ち切れるのか!?』
放送部による実況で観客たちは盛り上がりを見せる。
「ソーマ、頼んだぞ」
「おう、リード作って回してやるよ」
ソーマに声を掛けて所定の位置へ向かう。
トラックは一周200mとなっておりアンカーの俺はスタートとは反対側になる。
「碧依も無理はするなよ? 足が速いのは200m走で分かったけどリレーはぶっつけ本番だし、あんまり気負わなくていいからな」
「ありがとう、でも大丈夫。必ずウサにバトンを繋ぐ」
何とも頼もしい言葉だ。
彼女たちに健闘を告げて所定の位置へと向かう。
第2走者の一条は既にトラック上に立っている。
多谷が第4走者となるためその隣に並んだ。
『位置について、よーいスタート!』
合図によって第1走者たちがスタートする。
ソーマのスタートは上手く決まり、他5人をわずかに抜け出した。
「いいぞ、ソーマがんばれ!」
「小田桐君頑張って!」
少しずつリードを広げ先頭のまま一条の元へ辿り着く、バトンをしっかり受け取った一条は綺麗なフォームで走っていった。
「お疲れソーマ」
「おう」
「小田桐君先頭だったね!」
「ありがとよ」
役割を果たしたソーマを労う。
リードをもらった一条だったが2番手に付けていたA組が野球部の男子だったこともあり先頭を奪い返されてしまった。
しかし大きく離されることなく、次の走者のユーリまでバトンが渡った。
「多谷、そろそろ位置につかないと」
「そうだった、がんばってくるね!」
多谷は緊張した表情で所定の位置へと向かう。
ユーリとA組の距離は差が広がることもなくじわじわと詰め寄っている。
「ユーリあとちょっとだ!」
「いっけぇーユーリ!」
俺たちも声援を送る、ユーリのスピードが上がりA組との差はなくなった。
「多谷さん!」
「はいっ――あっ」
ユーリの手から多谷へとバトンが渡る直前、手を滑らせてしまったのかバトンが落ちてしまった。
「あ……っ」
「大丈夫、走って!」
すぐさまユーリがバトンを拾い直し多谷へとバトンを渡す。
泣きそうな顔になりながらも多谷は次の走者碧依の元へと走っていく。
受け渡し失敗の最中、F組にも追い抜かれ現在俺たちのクラスは3番目、差はそこそこ開いたな。
「失敗したよ、ごめん」
「どんまいだって」
「おう、まだ逆転できるさ」
申し訳なさそうにユーリが座り込んだ。
こればかりは仕方のないこと、いくら練習しても本番で失敗することなんざよくある話だ。
失敗した分を取り戻そうと奮起しているのか、多谷もスタート時以上の差は広がっていない。
大丈夫、まだ取り返せるはず。
そして5番目の走者、碧依へと無事バトンが渡った。
俺も指定の位置へと向かおうと歩みを始める。その時二人から声を掛けられた。
『ウサ』
「ん?」
『頼んだぞ(よ)』
「おう」
グッと握り拳を彼らへと向ける。
碧依の方へと目を向ける。
彼女の脚力は凄まじく、グングンとスピードを上げあっという間にF組を追い抜いた。
陸上部であるA組との差も縮まっている。
なんつー足してんだ。
「ウサ!」
「碧依!」
彼女からバトンを受け取り、走り出す。
もう差は僅かだ、これならば逆転できる。いや、逆転して見せる!
『さぁバトンは最後のアンカーへと渡った、これはA組とC組の一騎打ちだ!』
リレーはいよいよクライマックス。
実況、観客たち共に盛り上がりを見せる。
競技に集中している俺にもその雰囲気がビリビリと伝わる。
「帝くん!」
「頑張るです帝兎月!」
コーナー付近、C組の応援席から炎珠、妹ちゃんの声援が聞こえる。
他にもクラスメイト達から『がんばれ帝!』『追い抜けるよ!』と後押しするように声が届く。
足に力が入る、自分の思っている以上の力が湧いてくる。
A組との差は縮まり、そして――。
『いまゴール! 勝ったのはC組! 優勝だぁー!』
「よっしゃあぁーっ!」
ゴールテープを切り、地面へ倒れこんだ。
駆け抜けた瞬間どっちが勝ったのかわからなかったが、実況の声、そして湧き上がる歓声によって俺たちの勝利が決まったのだと理解し拳を突き上げた。
「やったぜウサ!」
「ボクたちの勝利だー!」
ソーマに腕を引っ張られ身体が起こされる。背中からはユーリが飛びつき感情を爆発させた。
「よ、よかった~、私死ぬかと思った~」
「陽葵はバトン落としたの気にしすぎだって、ほら氷音さんもこっち来て!」
「う、うん」
一条に手を引かれ多谷、そして碧依も駆け寄ってきた。
「碧依、お前が差を縮めてくれたおかげだよ!」
「うぅん、最後に勝ったのはウサだから」
「そんなことないって、碧依最高だよ!」
俺自身も優勝ということもあって高揚しており、何も考えず碧依へと抱き着く。
やがてクラスメイト達も集まり俺たち全員優勝の喜びを爆発させたのだった――。
――
「じゃあ今日はC組の優勝を祝って、かんぱーい!」
『かんぱーい!』
体育祭を終え、俺たちはC組はとある場所へ集合していた。
その場所とは焼肉屋、当初の約束通り先生の奢りで焼肉食い放題へとやってきていた。
音頭は実行委員である俺に任された。
『お前たちが頑張った優勝だからな、お前が音頭をとらなくてどうする』
という先生からのありがたい言葉。
「人の金で食う肉は美味い!」
「これが〇々苑だったらなー」
「お前たちは自腹でもいいんだぞー」
『うっす先生、最高っす、肉うめーっす!』
「ねーねー何食べる?」
「私キムチ食べたーい」
「妹さんはどうする?」
「あ、あの本当に私が居ていいんでしょうか……」
ガヤガヤとクラスメイトたちが楽しむ中、最後に発したのはそう妹ちゃん。
たまたま閉会後うちのクラスへとやってきており、優勝の喜びを交わしていた際に1年生であるが同じC組である為ともに祝おうと拉致されてきたのだった。
まぁ急遽彼女を連れてこれたのは1人欠員が出たからで……。
『わたしが居るとみんな困るだろうから』
と今回の集まりを碧依は辞退していた。
そんなことはありえない、むしろ今日の主役は碧依だと彼女に説得を試みたものの、碧依は首を縦に振ることなく去って行ってしまったのだ。
「そんな顔すんなよウサちゃん」
「なんだよ、ウサちゃん止めろって」
「どうせ氷音さんのこと考えてたんでしょ、彼女もウサちゃんが落とせばきっとこういう所に来てくれるようになるって」
「ウサちゃん止めろっつーの」
親友二人に慰められる。ウサちゃん呼びは嫌いだがこういう時に察する彼らの存在というのは本当にありがたいものだ。
「つーか今回のウサは大活躍だからな、順調にいきすぎだろ」
「ホントにね、原作知識っていうのは当てにならないね」
「今回の体育祭もヒロシに聞いてたのか?」
「もちろん、ただ内容が全然違うけどね」
そもそもうちのクラス優勝なんてしないらしいしとジュースを飲みながらユーリは答えた。
「前にも言った通り実行委員になるのと二人三脚で炎珠と組むのは無地来なんだが、足を痛めるのは炎珠じゃなくてあっちなんだよな」
「え、そうなん?」
「そう、んで無地来は体育祭をそのままリタイアするんだ『私のせいで』と後悔を引きずった炎珠は力を出し切れずにリレーで負けるらしい」
「それに氷音さんっていうジョーカーもいなかったしね、今日の勝利は氷音さんあってのものだから。そもそも彼女は体育祭に参加すらしてないし」
たしかに、今回のリレーも碧依が居なかったら勝利していたとは到底思えない。
炎珠も足は速い方だが碧依並みの追い上げは厳しかっただろう。
「そんでここでもよエロゲらしくエロシーンがあんだとさ」
「またかよ……。それで?」
「体育祭には参加してないけど氷音さんは学校には来ていたらしい。足を痛めて保健室で寝ている無地来を見舞いに行くシーンがあってその際に彼はアレを勃たせてしまう」
「そっから氷音のアレでパ〇ズリをしてもらえるってことだ」
「ふーん……」
ふと炎珠がいる席へと目を向ける。
彼女の席には一条と多谷、そして妹ちゃんと無地来が座っている。
先日の体育倉庫でのアレを思い出す、あの時俺は理性をフル稼働させ寸での所で彼女の性奉仕を防いだが、原作だと無地来は受け入れると聞いた。
そして本来であれば今日碧依からも性奉仕を受けるはずだった。
――おもしろくねぇな。
なんだかモヤモヤする、苛立ちというかなんというか。
この感情の正体が、俺にはまだ掴めていなかった。
「いい目してるね」
「だな、ようやく本気になってくれそうだな」
「なんだよ、どういうことだよ」
「それは言えないなぁ~」
「自分で気付かないとな」
「なんだそりゃ……」
ケラケラ笑う2人を尻目に再度炎珠の所へ目を向ける。
なんの偶然か彼女と目が合った。
「ふふっ」
一瞬であったが俺へとウインクをして彼女は友人たちとの談笑へと戻った。
炎珠の行動に喜びの感情が増してくる。
それはただの友愛か、それとも――。
この気持ちに気付けるのは、そう遠くないかもしれない――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます