第11話『体育祭!』


 体育祭の準備期間にハプニングはあったものの、ようやく本番を迎えた。

 天気は梅雨を感じさせない程の快晴、絶好の運動日和である。


「俺らの動きは開会の後は1年の100m走の誘導で……」

「その後は3年生の障害物競走のセッティング係だね」


 体育祭当日も実行委員のやることは多い、俺と炎珠はその打ち合わせをしているところだ。


「昼休憩後に俺らの二人三脚があるのか、あんまり休めなさそうだな」

「その後はリレーもあるし、走ってばっかりだね」

「そうだなぁ、炎珠もリレーのメンバーにもなっちまって悪いな」

「うぅん、大丈夫だよ」


 俺の参加種目は騎馬戦とクラス対抗のリレー、後は炎珠との二人三脚の3種目だ。

 炎珠の方も参加数は同じくらいである。


「それで、その、お昼なんだけどさ」


 少し躊躇うように、それでいてモジモジした様子の炎珠。


「帝くんは……お昼ご飯どうするの?」

「おにぎりとかコンビニで買ってきたし、ソーマとユーリとでどっかで食う予定かな。炎珠は無地来たちの所だろ、親御さんも来てるらしいしな」

「う、うん。そうなんだけどね……」


 今更なんだが、炎珠との距離が今までより近い。

 そう感じるようになったのはあの体育倉庫での一件から、具体的に挙げるのが難しいのだが手を少し前に踏み出せば彼女に触れてしまうくらいには距離が近い。試しに一歩後ろへ下がったことがあるが速攻で距離が詰まった。


 その際には『なんで離れるの……?』と寂しそうな目で言われて以来動けなくなってしまった。

 

「わ、私たちさ、お昼の後すぐに二人三脚じゃない、だからさ、その」

「あぁ、あんまり飯食わないほうがいいってこと?」

「も、もう、違うってば」


 悪かった。ちょっといじわるをした。

 態度と言動でなんとなくわかっていたけど、何かそれを普通に認めるのは少しだけ恥ずかしくて、つい意地悪な態度を取ってしまったと反省する。


「だから、私と、その」

「一緒に飯食おうか、その方が都合良いっしょ」

「あ……うん、そうしよう! 私お弁当作ってきたから分けてあげる!」

「お、またあの最高に美味い弁当食えるのか、楽しみだな」

「えへへ、楽しみにしていてね」


 炎珠にいつもの笑顔が戻った。

 俺の頬が熱くなっている気がするのはきっと快晴による暑さのせいだろう。そうに違いない。


 ――


「よっしゃあ、2年C組気合入れていくぞ!」

『おぉーっ!』


 体育祭本番前、開会前にグラウンドで輪になり俺はその中心に立った。


「いいか、今日優勝したら我らの担任が焼肉をご馳走してくれるそうだ!」

「おっしゃぁーっ!」

「気合入ってきたぜ!」

「太っ腹な我らの大先生は当然俺たちを叙〇苑に連れて行ってくれるらしいぞ!」

『イエエェェーイッ!』

『叙〇苑! 叙〇苑!』

『上カルビ! 黒毛和牛!』

「食べ放題に決まってるだろ! 安〇亭だ!」

『ぶうぅーっ!』


 そんないつものノリで気合が入った我がクラスは優勝目指してクラス一丸となったのだった。


「帝兎月たちのクラスはにぎやかですね」


 輪も捌け、開会まで各々自由に過ごしていると妹ちゃんがやってきた。


「お、妹ちゃん。今日も風紀委員は忙しそうじゃん」

「実行委員のあなたたちに比べたら大したことないですよ」


 あちらこちらに風紀委員の腕章を付けた生徒がいる。

 体育祭中の警備的な担当をしているそうだ。


「妹ちゃんは種目何出んの?」

「私は1500m走と玉入れです」

「この暑い中1500mも走るのか、キッツいねぇ~」

「あなたはリレーに二人三脚も出るんでしょう、お兄ちゃんが言ってたです『朱奈と二人三脚出るなんて……』って嫉妬してました」


 嫉妬するならあの時に手を挙げろってんだ。

 そもそも種目決めの時一切手を挙げないからこっちで割り振ったまである。

 不満があるなら行動すべきだと思う。


「朱奈お姉ちゃんに怪我させちゃダメですからね」

「わーってるって、練習もしたしなんとかなるっしょ」

「今日はあなたと同じ黄色グループなので応援してあげます。……頑張るですよ」

「おう、妹ちゃんもな、一緒に頑張って優勝しような」


 そう言って妹ちゃんは去っていった。

 風紀委員の業務に戻るのだろう。


 今説明した通りこの体育祭はクラス毎にグループ分けされている。

 A組が赤、Bが青、Cが黄色、Dが緑、Eが紫、F組がピンクとなっている。

 妹ちゃんは1年C組であるため同じ黄色グループだ。

 

 各競技によってポイントが加算され最終的にスコアが決まるといった仕組みになっている。


「お、碧依。今日はさすがにヘッドフォンつけてないんだ」


 辺りを見回していると端の方でじっとしている碧依が目に入った。


「さすがに邪魔だったから」

「たしかにな、でもあのヘッドフォンは碧依の一部って感じがするからむしろ付けて無いとなんだか新鮮な感じだな」

「あれはお気に入りだから、そう言ってもらえると嬉しい」


 そういって笑みを彼女は浮かべた。

 

「去年は体育祭出なかったんだっけ」

「うん、わたしが居るとみんな迷惑だと思ったから」


 俺だったら碧依を迷惑だと微塵も思わないが、こういうお祭りのような雰囲気の時、彼女のようなキャラだと居心地が悪いのかもしれないか。


「でも」

「うん?」

「今年はウサが頑張ってたから、あなたが盛り上げてくれてる体育祭なら……わたしは出てみたい」

「……」

「ウサ顔赤い」

「う、うっせっ」


 碧依の指摘に顔を背けることしかできなかった。

 彼女のストレートな誉め言葉は俺にこうかばつぐんだ。


「200m走に出るんだろ、がんばれよ」

「うん、自信ある。任せて」

「ほんとかぁ~?」

「ぶい」


 いつもの様子を見てるととてもじゃないけどそうは見えないんだけども。

 でも種目決めの時に珍しく彼女が自分から手を挙げてくれたんだから信じるとしよう。


「帝くん、そろそろ準備いこ」

「わかった、今行くよ。じゃあな碧依」

「ばいばい」


 炎珠から声を掛けられた為、彼女との会話を切り上げて向かうとする。


「……やっぱりズルい」


 彼女の呟きは俺の耳へと届かなかった。

 

 ――


「しゃあっ、この騎馬戦取りに行くぞ!」

「落っこちるんじゃねーぞ」

「振り落とされないようにね」


 プログラムは順調に進んでいき、騎馬戦の時間となった。

 この騎馬戦は2人で土台を組み、1人が上に乗る。

 ソーマが前方、ユーリが後方で俺が上に乗るといった形になる。


「帝たち頼んだぞ、ひっかきまわしてくれ」

「まーかせてください、大将はどーんと構えていてくださいよ」

「ははっ、頼りになる2年たちだな」


 1年生から3年生まで混合のグループ対抗戦で相手はD組だ。


「帝くんがんばってー!」


 クラスの応援席から炎珠の声が聴こえた。炎珠に続くように他のクラスメイトたちも声援を送ってくれる。


「応援されてんじゃん」

「おう、気合入るわ」

「名指しで羨ましいねぇ」


 いつもの揶揄いにもこういう時は却って力になるというもの、炎珠の声援もかなりありがたい。


『男子生徒による騎馬戦開始です!』


 放送部主導による実況と共にホイッスルが鳴る、グラウンドに熱気が立ち込めて全ての騎馬たちが動き始めた。


「よし、まずは右側から行くぞ!」

「オッケー」


 ソーマの合図で右側の騎馬へと突っ込んでいく。相手側も俺たちが仕掛けると気付いたか『来たぞ』と警戒を露にしていた。


「おっせーよ!」


 相手が攻撃を仕掛けようとする動きを見せたが、既に俺は始動を開始していて相手より早く動いていた。

 身を乗り出して相手の帽子を素早く奪い取る、まずは1組撃破だ。


「もらったぁ!」


 倒された騎馬を尻目に他の騎馬たちが俺たちへと突っ込んでくる。

 帽子を奪い取ろうと手を伸ばしてきたが、ソーマたちの判断も早く、するりと躱すことが出来た。


「ほい、背中ががら空きだ」


 するりと躱した後、相手の後ろ側へ回り込み帽子を奪い取る。

 これで2組撃破っと。


 俺たちが素早く撃破していくぶりを見て相手側が焦っていくのが感じ取れる。

 もちろんその隙は見逃さない、次々へと標的を定め順調に帽子を奪い取っていく。


「頑張れ帝くん、もうちょっとだよ!」

「帝兎月頑張るです!」


 炎珠と妹ちゃん二人の声が俺の耳へと届く、チラッと応援席へ目を向けると手に汗を握る碧依の姿も見えた。

 

 体に熱が篭る、女の子に応援してもらって気合入らない男なんていないだろ。


「帝、挟み込むぞ!」


 相手の騎馬も残す所あと1組、先輩の指示で俺たちは後方へ回り込んだ。


「うおぉーっ!」


 先輩たちが攻撃を仕掛け、相手が防御している隙に帽子を奪い取った。

 これでD組たちの騎馬は全滅となり、試合終了のホイッスルが鳴り響く。


『勝者C組です!』


 実況の声と共に歓声がわぁっと響く。


「帝大活躍じゃねーか!」

「やったぜ!」


 騎馬戦に参加した先輩たちやクラスメイト達が駆け寄ってくる、応援席の方からも大きな歓声が届いていた。


 この勢いのまま俺たちC組は騎馬戦で優勝することとなったのだった。

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