第7話『妹ちゃんのお手伝い』


「あー……眠いな」


 大型連休も終わり憂鬱な学校が再開される。

 連休中は遊びに遊んで見事に遊びボケである。


 そんな状態でも学校へちゃんと登校する俺を褒めてくれ。


「授業サボんなければな」

「むしろサボらず授業受けてるボクらの方が偉いよね」

「それもそうだな」


 なんせ俺はこの後サボる予定である。

 天気良いし今日は屋上で寝るか。


 校門で朝から元気よく挨拶活動をする妹ちゃんたちを尻目に俺たちは校舎へと向かっていった。


 ―― 


「うおおぉぉーっ!?」

「待つです帝兎月ぃぃっ!」


 屋上で惰眠を貪るという完璧なプランの元、教室へと着いた俺は親友二人に別れを告げ教室を出た。

 その足で屋上へと向かい、閉じられてた扉の鍵を職員室から拝借し、複製したもので難なく開錠し屋上へと出る。

 

 この開放的な場所でサボるのは最高だ。

 今も登校している生徒たちを屋上から眺めつつ、目的場所のベンチへと向かう。

 

 さて寝るか、と目を瞑り夢の世界へと旅立とうとしたその時だった。


「こらぁっ! 何寝ようとしてるですか!?」

「げぇっ、妹ちゃんっ!?」


 何とそこには鬼の形相をしていた妹ちゃんが。


「おいおい、さっきまで下で挨拶活動してたろ。なんでここに?」

「朝のあなたを見て勘づきました『こいつこの後サボる気だ』と」


 どんな勘してんだよ。

 

「そもそもここには鍵が掛かってたはずですよ、どうして入れたんですか!」

「そりゃもちろんこの鍵で……あっ」

「ソレは職員室にあるはず、どうしてあなたが持ってるんですか」

「いやぁ、ほら。こないだ担任に呼び出された時見つけたもんだからちょっと拝借して、ね? あ、もちろんマスターキーは返したぞ、これは複製品な」

「ふ、ふふふ……」


 下を向いて肩を震わせながら笑う。

 あ、これアカンやつだ。


「授業の無断欠席、禁止区域への立ち入り、職員室から鍵を窃盗……容疑は十分です」


 ジワジワと迫ってくる妹ちゃん。

 顔は見えないが代わりに物凄い怒りのオーラが超見える。


 「今から指導室に連行ですっ! 私から特別にお説教してあげますっ!」

 「やなこった!」


 俺を捕獲しようと腕を伸ばした彼女の腕を躱し出口へと直行する。


「こらぁ! 逃げるなですっ!」

「むーりっ!」


 そのまま始まる楽しい追いかけっこの時間。

 なお、懸命に逃げ続けたが最終的に増員された風紀委員たちの手によって俺は捕縛されるのだった。


 このあと我が担任に滅茶苦茶怒られた。

 もちろん鍵は没収された。


 ――


「くそっ、何故俺が清掃活動に勤しまなきゃならんのだ」

「口じゃなくて手を動かす!」

「はいはい……」


 放課後、授業をすべて出席させられた俺に待ってたのは校内の奉仕活動。

 校門前を箒でせっせと掃き掃除をするのを後輩に監視される。

 通り過ぎる生徒たちからは『帝の奴また授業サボって奉仕活動させられてんじゃん』『帝君がんばれ~』と冷やかしを受ける。


 何とも惨めである。

 

「お、清掃活動か。大変だなぁ~」

「みんなの学校をきちんと綺麗にするんだよ」

「うっせ」


 通りがかった親友二人からニヤニヤと揶揄いを受ける。

 

 親友のために少し手伝えよと言ったら『親友のためを思ってオレたちはあえて手を出さないんだ』『ボクたちも胸が痛むよ』と言って去っていった。クソがっ。


「帝くんも大変ね」


 次に通りがかったのは炎珠と無地来だ。

 

「お、炎珠と無地来じゃん、頼むよ手伝ってくれ」

「遠慮しとくわ」

「ごめんね」


 チッ、こいつらもだめか。

 

 ――先日の一件以降も何事もなかったのように二人は一緒に行動している。


 そもそも無地来は気にした雰囲気もなかったけども。

 炎珠も惚れてる弱みってやつなのか、健気だねぇ。


「あ、朱奈お姉ちゃん今帰りですか、気を付けて帰ってください!」

「ありがと、翠ちゃんも委員会活動頑張ってね」

「はいですっ、帝兎月をビシバシ使うです!」

「無地来、お前の妹こえーよ」

「あはは……、妹がごめんね」

「こらっ、帝兎月。手を動かすです! 時間は限られてるんですよ!」

「へいへい……」


『じゃあね帝くん』と手を振って炎珠たちは去っていった。

 

 ちょっとしたことだが、あの一件から俺と炎珠はそこそこ会話が増えるようになった。


 元より普通の友達関係ではあったが、わざわざ俺たちの座ってる所へ来て話しかけまではせず。挨拶とか用があった時以外は特に会話はなかったのだが。

 最近は俺らが盛り上がってる所に『楽しそうだね、何の話してるの?』と交ざってくるようになった。


 これも原作からの変化ってやつなのかね。


 あとそれによって無地来から少し睨まれる、意外と嫉妬深い男である。


 と、思考をしていると今度は碧依の姿が。

 さっきから知り合いがよく通るな、校門だから当然っちゃ当然か。


「……がんばれ」

「おう、手伝ってくれてもいいぞ?」

「……ばいばい」


 ――最後の希望、碧依は去っていった。


 俺の友達たちの辞書には『手伝う』の項目が存在しないようである。

 はーっ、薄情だねまったく。


「ほら、暗くなってくるからさっさとやるですっ!」

「妹ちゃん見張ってるだけだと退屈だろ。それに校門は広いから一人じゃ大変だ。手伝ってくれれば早く終わるぞ」

「私が手伝ったら罰則の意味がないですよ」

「俺妹ちゃんと掃除したいなー、もっと仲良くなりたいなー、共同作業で仲深めたいなー」

「つべこべ言わずやるですっ」


 チッ、ダメか。


 これ以上抵抗するとマジで怒られそうなので渋々掃除を再開する。


 結局終わったのは日が暮れた頃だった。



「はーっ、やっと終わった」

「最初からちゃんとやってればもっと早く終わったです」


 掃除が終わり用具を片付けに校舎内へ戻る。

 ひと仕事終えた後は気持ちがいいぜ!


「じゃあこれで今日の罰則は終わりです、帰っていいですよ」

「おう、じゃあなぁー」


 教室へ鞄を取りに戻る。

 日も暮れたしさっさと帰るか。


 そういや。


 妹ちゃん風紀委員会の教室に向かっていったような。


 まさかこれから仕事するのか、まさかなぁ。

 そんなことはないと思いつつも風紀委員の教室へ向かう。普段は絶対に近寄りたくない所である。


 そこにはせっせと何やら資料を分けている妹ちゃんの姿が。


「妹ちゃん」

「あれ、帝兎月まだいたんですか?」

「もう日が暮れたぜ、帰んないの?」

「まだお仕事残ってますから」

「マジかよ、これから仕事すんの? まだ高校一年生なのに社畜魂染みついてんね」

「こういうのは誰かがやらないといけないですから」


 俺の軽口にも手を止めず資料を分ける妹ちゃん。


 ここまでふざけてみたが冷静に考えよう。


 ――本来妹ちゃんは今日の委員会活動で資料整理があった。

 ――しかしそこで朝からサボりをかますアホのせいで罰則の見張りが追加される。

 ――そのアホは真面目に掃除をしないため時間がかかる。

 ――ようやく見張りが終わり自分の仕事ができる←いまここ。


 俺のせいだな。


 ――しゃーないな。


「何か手伝えることない?」

「どうしたんですか急に、鍵は返しませんよ」

「そんなんじゃねぇよ、俺のせいで妹ちゃんが帰れないから申し訳なくてね。あ、もちろん鍵も返してほしいけどな」

「ふふっ、最後の一言が余計です」


 クスッと妹ちゃんは笑って『じゃあそこの箱から印の付いたプリントをとってください』と指示を出した。

 彼女の指示に従いながら仕事を続ける。


「風紀委員て妙に仕事多くね?」

「大変だけど楽しいですよ、帝兎月も入って風紀とはを学ぶといいです」

「俺は自分なりの風紀を大事にして生きてるんだ」

「なんですかそれ」


 喋りながらもてきぱきと手を動かす妹ちゃんを見習うように俺の手伝いを進める。

 ただの書類整理だけだと思ったが掲示物の作成とか、学校内外からのアンケート整理とかやることが多い。


「風紀委員てこんなに細かいことやらなきゃいけないんだな」

「細かいことだけど大事です、それで学校全体が良くなるんですから」

「ふーん、妹ちゃんの頑張りには脱帽だよ」

「ただの役割ですけどね、でもありがとうです」


 気付けば既に外は真っ暗だった。


「終わったです、帝兎月のおかげで少し早まりました。ありがとうございます」

「元々俺が原因だしな」

「それもそうですね、これを機に心を入れ替えるです」


 ――うん、それ無理。


 俺の思惑を見透かしたように妹ちゃんは溜息を吐きつつも机の上を片付け帰り支度を始めた。


「もう暗いですから気を付けて帰ってくださいね」

「何言ってんだ、一緒に帰ろうぜ」

「え?」

「もう外暗いし、妹ちゃん可愛いんだから夜道に一人で帰せないだろ、送ってくよ」

「な、な……っ」

「ほら、はよ帰るぞ」


 口をパクパクさせながら固まってしまう。

 しょうがないので手を引いて校門まで引っ張ったが『は、離してください。一人で歩けます!』ってことで振り払われた。


 その後は何言っても『ガルルッ!』『送り狼です!』としか返事をしなくなってしまった。何故だ。

 

 結局家に着くまで全く会話という会話はせず本当にただ送るだけになった。

 ただ、別れる間際『……ありがとうですっ』とお礼を言うようになったので心の広い俺は良しとしたのだった。

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