第4話『主人公の妹は風紀委員!』


 「よし、じゃあ今日はこれで終わりだ。みんな気をつけて帰るように」


 担任からの伝達事項が終わりを告げる。今の時間はすべての授業を終え帰りのホームルームの時間だ。

 めんどくさい授業を終え(ほとんどどっかで寝てた)これからはお待ちかねの放課後タイムだ。


  ……のはずだったが。


「あと、帝、お前は後で指導室にくるように」

「はぁ?」


 何故か俺をご指名してくださる我が担任。


「お前は今日も俺の授業をサボったからな、指導室で楽しいお説教の時間だ」

「え、マジで?」

「大マジだ。いいか、逃げるんじゃないぞ。それじゃ号令頼む」


 クラスがくすくす笑いに包まれながら号令係が挨拶をし、帰りのホームルームが終わる。


「ご指名だよ、大変だねぇ」

「最近サボりすぎたな、失敗したわ」

「サボんねぇで教室で寝りゃいいんだよ」


 それはわかってんだけど、開放的な状況で寝るのと、机に突っ伏すのじゃ満足感が違うだろ。


「んで、説教は?」

「バックレるに決まってんだろ」

「あーあ、知らないよー」


 いいんだよいつものことだからな。


「じゃあヒロシのとこでも行くか」

「ボクは今日パス、買い物しなきゃいけないんだよね」

「オレはこの後30連勤終えたお姉さんとデートだ」


 というわけで今日は二人と別行動となった。

 すでに帰り支度が整っていた二人に別れを告げる。

 俺は今日もヒロシの所に行くか、昨日のゲームの続きやりたいし。


 ヒロシの家は前の世界からだが、ゲームにパソコン、遊び道具など何でも揃っている。

 一人ひとり別でゲームができるように専用にディスプレイも用意されていて遊び場として快適な環境だ。

 何故こんなにも揃っているのかというとあいつ自身が引き篭もり続けたいから。

 引き籠るためならばどんな努力でも惜しまない男である。


 目的地も決まったし、さっさと帰ろう。そう思い帰り支度を進めていると。


「お兄ちゃん」

 

 女の子の声が聞こえた。

 発生源は教室後ろの扉からだ。

 そこには翠色がかったショートカットの小柄な女の子が立っていた。


 視線の先は――無地来か。


 彼女は目的の人物を見つけるとトコトコと無地来が座っている窓際の方へ歩いて行った。


 一瞬、俺と目が合う。

 が、特に会話を交わすことなくそのまま横を通り過ぎて行った。


すい、どうしたの?」

「ちょっと用事があって、それとお兄ちゃんに伝言です」

「そうなんだ、わざわざ来なくてもスマホで事足りるのに」


 特に代わり映えもなく、普通にある兄妹の会話である。

 そこへ炎珠やってきて、炎珠の姿を確認すると『朱奈お姉ちゃん!』と彼女は抱き着いた。


 どうやら無地来より炎珠の方に懐いているらしい。


 なんとなく興味本位で俺も声をかけてみる。


「その子は無地来の妹さんか?」

「うん、すいって言うんだ」

「……初めまして、無地来翠むじきすいです。いつも兄がお世話になってます」

「どうも、俺の名前は――「大丈夫です、知ってます」――うん?」


 自己紹介をしようとすると遮られる。

 そしてビシッと指を突き付けられる。


「あなたのことは知ってます有名人ですから、帝兎月!」


 家族のため今も海外で働き続けている親愛なるお父様、お母様。

 何故俺は初対面の女の子に呼び捨てで指差されているのでしょうか?


 無地来(兄)と炎珠も彼女の行動に面食らっている。


「あなたのこれまでの悪行は我々風紀委員に筒抜けです!」

「あー、風紀委員なのねキミ」


 合点がいった、風紀委員なら俺のことを知っていて不思議ではない。

 定期的に授業はサボる、私物を空き教室に持ち込む。

 

 ……うん、見事な問題児だ俺。


 というように、勝手に自分で納得をしていると。


「私はあなたのような極悪人は大嫌いです!」

「ずいぶん嫌われてんな俺」

「ご、ごめんね帝君、妹が失礼なことを」

「翠ちゃんってこういうこと言う子じゃないんだけどね」

「お兄ちゃんも朱奈お姉ちゃんも甘いです! この男は学校の風紀を乱す大悪党なんです!」

「正義感溢れてる子だねぇ。はぁん、さてはニチアサもの好きだろ?」

「ど、どうしてそれを!? むむ……極悪人はストーカーの気質あり、許せないです!」


 ただの当てずっぽうで言っただけなのに冤罪だろ。


「まぁ嫌われてんならそれでいいけどな、そんじゃあな~」


 これ以上ここに居てもお互いに良い気はしないと思い退散を決め込む。


「ダメです、あなたはこの後先生からのお説教が残っているはずです」

「あー……、そういやウチの担任って風紀委員の顧問だったな」


 じゃあもしかしてこの子がここに来たのって俺が逃げ出さないようにするための見張りか。


 なーるほどね。


 でもまぁ……。


 素直に言うこと聞いてたら授業サボったりなんかしないだろ?


「残念ながら説教はバックレるって決まったんだ。顧問によろしく言っといてくれ、それじゃっ!」

「あ、まてっ。お兄ちゃん、私はこの男を成敗するので帰るの遅くなるです!」


 成敗とは物騒な。

 

 鞄を手に取り教室から脱出、当然後を追いかけてくる無地来妹。

 今ここに負けられない戦いが始まるのであった。


 ――


「待ちなさいっ」

「やーなこった」


 自身の教室を出てから、逃げ続けること数十分。

 諦めが悪く今も追いかけ続けてくる。


「ど、どこに隠れたですか!?」

「……」

「あ、ここです! お縄につくです!」

「勘が鋭すぎんだろ」


 掃除用ロッカーで息を潜めたり。

 

「なあぁっ!? なんですかコレ!?」

「OBたちが置いてった悪戯用のおもちゃ」


 おもちゃで足止めしたり。


「ぬぬっ、なんのこれしき……っ」

「妹さんパワフルだな」


 大量の机と椅子でバリケードをつくったり。


 空き教室を経由したりて撒こうとしてるんだが、まったく効かずに今も追われている。


「はぁ……っ、はぁ……、つ、まてぇっ」

「……そろそろ諦めようぜ?」

「私は……悪に負けないっ、です!」

「難儀なこって」


 とはいえ、いつまでも学校内を逃げ続けるのは俺も疲れるし。

 向こうはだいぶお疲れみたいだからここいらで本気で撒くか。


 スピードを上げて階段を駆け降りる。

 向こうも焦ったような雰囲気が出たが、まぁこれまでだ。


 このまま撒こうと思っていると『きゃぁっ』と悲鳴が聞こえた。


 後ろ――階段上を見上げると無地来妹がバランスを崩したのか倒れてくるのが目に入った。


 ――さすがにこれは見過ごせない。


 歩を止め落ちてくる彼女の身体を抱き支える。

 ふんわりと鼻を擽る柔らかい匂いがした。

 

「あ、その……」

「危ないだろ、廊下走んなよ」

「そ、それはあなたが……っ」

「冗談だって、悪かったな。怪我させようとする気はなかったんだ」


 抱き止めていた彼女を放し素直に謝罪する。

 無地来妹はどうしていいのかわからなかったのか『あ、うぅ……』と変な呻き声をあげている。顔も少し赤みが掛かっている。


 逃げようと思えば今すぐ逃げられるが。

 さすがにこの状況でまた逃げるのはな、なんか冷めたし。


 はぁーっ、説教はめんどくさいけど仕方ないな。


「ほら、行こうぜ指導室」

「え……?」

「だって捕まえに来たんだろ、ほれ、こうしてはい捕まったー」


 無地来妹の手を取り俺の腕を掴ませる。

 我ながらクサい芝居だと自覚もある。


「ほら、さっさと連行してくれ」

「あなたは……変な人です」

「変な人とは失礼な、ちょっと授業サボるのが好きなだけだって」

「でも……極悪人じゃなかったです、ちょっとだけ悪い人です」


 くすっ、と笑みをこぼした無地来妹。

 

 優しく腕を引かれながら指導室へと歩いていく。


 あー、でも説教は嫌だな。とはいえクサい芝居しといて今更逃げるのは何か違うけど、でもなぁ。


 と、微妙な諦めきれなさと潔さに葛藤しながら指導室へ連行されていく。

 もちろん担任からは大目玉を食らい、結果として反省文10枚を書かされるのであった。


 ――担任も他の風紀委員も指導室からいなくなった後でも、無地来妹は反省文を書き終わるまでずっと俺に付き添っていた。


 ――


「ういーっす、おはようさん」

「おっす、ここで会うのも珍しいな」

「だねー」


 いつもの2人と通学路で鉢合わせ、そのまま一緒に学校へ向かう。


「昨日はデートどうだったん?」

「最高だったぜ、途中で彼女が会社から電話掛かってきちまってデート切り上げたんだけどさ『仕事が……呼んでる』って絶望した顔になった時は最高に興奮したな、帰ってたくさん出したぜ」

「ソーマ、相当歪んでるよ」

「ブレねぇなお前」


 談笑しながら歩みを進める、校門へ着くと声が響く。

 風紀委員が挨拶運動とやらを校門前で行っているようだ。


「おはようございます!――あっ」

「おはようさん」


 偶然にも無地来妹が挨拶している場所を通る。

 昨日ぶりとは言えキョロキョロ視線が落ち着かないのが面白い。


「朝から大変だな、がんばれよ」


 ここに突っ立ってんのもほかの生徒に迷惑だし、軽く一言だけ伝えその場を離れようとする。


「あ、あのっ!」


 呼び止める声が聞こえ振り返る。


 昨日のように少しだけ顔が赤くなっているが、会った時と同じように指を差し。


「またサボったら追いかけます! 絶対ダメ、ですよ!」


 高らかに言い放った。

 そんな彼女に俺は背を向けて『考えとくよ』と伝えてその場を去ったのだった。

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