第3話『サボり仲間』
「さて、昼も食って眠いしどこかで寝るかぁ」
学食でソーマ、ユーリと昼食を摂った後に『じゃあ寝てくるわ』と伝えて別れた。
この後は現国だしな、眠くなるからこのままサボるか。
ブラブラと廊下を歩く、まだ時間は昼休み中盤くらいで生徒たちの喧騒が校舎内に響いている。
この学校は何故か空き教室というものが多い、おかげでサボるのに困らないのだ。
転生前は屋上か資料室くらいしか眠れるところがなかったからなー。
異世界サイコー!
――これは想像だが。
ここは学校が舞台のエロゲ世界、しかも寝取られ凌辱モノなので都合よく空き教室が多いのだろう。
もちろんナニする為に。
「うし、今日はここで寝るか」
目当ての場所へとたどり着く。
校舎の外れ付近に位置するこの教室は学校内の音が届きにくく、静かに眠れるので非常に快適なところだ。
「おっと、先客がいたか」
扉を開けるとそこには詰めれば四人で座れそうなソファに座って音楽を聴く少女の姿が。
――サボり仲間の
「ん」
氷音は俺に気づくとヘッドフォンを外し、スッと手を挙げた。
「氷音もここでサボり? じゃあ俺は別のところ行った方がいいか」
「……大丈夫、ここで眠っていいよ」
真ん中に位置取っていた氷音がスッと横へとズレる、大きくスペースが空きポンポンと横においでとソファを叩いている。
――本当は横になりたいんだけどな。
しかし女の子に誘われておいて断るというのは男が廃るというもの。
ただ隣に座るだけであるがせっかくのお誘いなので氷音の隣へと腰掛ける。
「氷音がサボりに来てるってことは、また何かあった?」
「うん、お母さんがまた新しい男の人連れこんでた」
「相変わらず家庭環境が複雑だな」
サボり仲間ではあるが氷音がサボりに来る頻度は多くない。
こうして授業を抜け出してくる時は大概彼女の中のストレスが溜まりきった時だ。
「じー……」
「……どしたん?」
氷音に見つめられていた。
「……寝ないの?」
「寝るけど、何故にそんな急かす?」
「わたしのことは気にしないで、はやく」
――めっちゃ気になるわ!
『はりー、はりー』と寝るように促してくる。
まぁ眠たかったから別にいいんだけどさ。
特に抵抗する事なく大人しく目を瞑る。
そういや氷音と初めて会った時もこの教室だったな。
彼女と初めて出くわした時のことを思い出しながら、次第に眠りにつくのだった。
――1年前。
「……」
「おわっ!?」
授業をサボり、後者の外れにある空き教室で眠っていると何やら視線を感じた。
目を開けてみるとそこにはとてもおっぱいの大きい青髪の女の子が。
「だ、だれ?」
「……」
声をかけるが何も発することなく見つめ続けられる。
なにこの状況。
どうしたらいいものやら、黙って視線を合わせ続けること数分だろうか。
おっぱいの大きい子はようやく口を開いてくれた。
「なに、してるの?」
――やっと喋ったのがそれ?
掴み所がよくわからない女の子だが、聞かれたことには答えねばなるまい。
「ここで授業サボって寝てたんだよ」
正直にそのまま伝えた。
「……なんで?」
「なんでって、なんとなく?」
サボるのに理由なんてない。
めんどくさい、眠い、気が向かないなど様々なことがあるが、なんとなくって答えが一番適当だろう。
「へんなの」
なんだこのおっぱい、めっちゃ失礼じゃん。
俺は女に罵倒や軽蔑されて喜ぶ性癖はないぞ。
ヒロシ辺りは喜んで絶頂しそうだけど。
「つか君はなんでここにいんの、今授業中だぞ、サボるのは感心しないな。学生の本分は勉強だぞ」
「……そのセリフそのままあなたに返す」
たしかに。
現在進行形でサボってる俺が言うセリフじゃないな。
この時のやりとりが彼女的に気に入ったのか。
これ以降サボる度に彼女と出くわすことになる。
――屋上。
「……」
「……うぉ!?」
――資料室。
「……」
「また!?」
――旧男子更衣室。
「……」
「なんで!?」
――トイレ。
「……」
「いや流石に寝ねぇし着いて来んなよ!?」
――
「あのさぁ」
今日は例の空き教室。
彼女、いやおっぱいはまた居た。
だが心の広い俺でもさすがに物申したい。
「ちゃんと授業出た方がいいと思うよ?」
「こっちのセリフ」
「もうこの際サボる度に現れるのは慣れちゃったからいいんだけどさ、いったい誰なの君?」
「……やっと聞いてくれた」
少しムスッとしたような表情で彼女は返した。
初めて彼女の表情の変化を見た気がするが、もしかしてずっと名前を聞いてくれるのを待ってたのだろうか。
「氷音碧依、わたしの名前……」
「氷音か、俺は帝兎月な」
「帝……兎月……」
そうか、こいつが噂の氷音か。
まだこの時はヒロシからエロゲ世界と告げられる前の話。
氷音碧依という少女はこの学校で有名だ。
――誰とも喋らない、声を滅多に聴いたことがない無口な女の子。
――ずっとヘッドフォンを付けて音楽を聴いている変な女の子。
――夜な夜な繁華街を歩き回り、色んな男と淫らな関係になっている金を払えばヤラせてくれるビッチ。
真意はわからないが、そんな噂が出回っている女の子であった。
「まぁそこで突っ立ってても疲れるだろ、座れば?」
今座っているソファの横にズレてトントンと横を叩く。
俺の誘いを受けて彼女はストンと横へ座った。
「理由はどうあれここでこうしてんなら俺ら仲間だな」
「仲間……?」
「そ、仲間。サボり仲間だな」
「仲間……仲間……」
噛みしめるように呟く氷音。
何だか知らんが思うところでもあったのだろう。
俺は人の噂なんざ興味ないからよくわからん。
「君がなんでここでサボってるのか知らないけど、せっかくサボりに来たならダラダラしようぜ。後ろにマットレスあるだろ、アレ自由に使って寝ていいからな。俺も何度か使ってるけどそこにあるファ〇リーズで消臭してるから綺麗だぞ」
「どこから持ってきたの?」
「通販、ここに届けてもらった」
「私物化してる……」
サボるなら快適にサボらないとだめだろう。
俺はサボり場所に対する課金は惜しまないんだ。
「……これからもここに来てもいい?」
「もちろん、せっかく出来たサボり仲間だしもう俺たちはこれで友達な。友達に遠慮は無しさ」
「仲間……友達……」
「さすがに馴れ馴れしいか?」
「うぅん、友達。わたしとあなたは今日から友達」
噛みしめるように『友達』と彼女は呟く。
こうして紆余曲折あったが俺と氷音はこれを機に話すことが増えていった。
――
「んぁー、よく寝た」
「おはよう」
「おう」
なんだか懐かしい夢を見たような気がするがよく覚えていない。
まぁよく眠れたからいいか。
隣の氷音を見ると寝始める前から全く変わってない気がするが……。
「え、ずっと隣で見てたの?」
「うん」
「はは、だよなぁそんなわけ……マジで?」
「まじ」
「退屈じゃねぇの?」
「そんなことない、楽しい、わたしのストレス解消」
「そっか、ならいいか」
「うん」
寝顔見ることの何が楽しいのかわからんが、氷音がいいと言っているんだからいいだろう。
「ねえ」
「うん?」
「わたしも……ウサって呼んでいい?」
「別にいいぞ、但しウサちゃんは止めろな?」
「わかった」
「なら良し」
「やった」
氷音は顔を綻ばせる、急にどうしたんだろうか心境の変化だろうか。
しかし綻ばせたのも束の間、またいつものような無の表情へと戻り……何か迷っている。
「その、わたしのことも……」
「名前がいいってか?」
「……っ、うん」
「いいよ、碧依。これでいいか?」
「いい、これからもそうやって呼んで、わたしもウサって呼ぶから……」
「おう、じゃあこれからも頼むな碧依」
「うんっ」
と、ちょうどその頃に時間を知らせるチャイムの音が。時間的にちょうど現国が終わった頃か。
「次の科学はテストあるらしいし、さすがに戻るか、碧依」
「うん、一緒に戻ろう、ウサ」
名前を呼びあった時の彼女はこれまでで一番の笑顔を見せたのだった。
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