第2話「この世界の名は……」
「この世界はエロゲの世界だって?」
「そうだ」
時は戻って転生した日から半年以上経った時間軸へ。
ちょうど高校1年の後期辺りだ。
いつものように女神様の力で超豪華になったヒロシ家で、夕食の買い出しを賭けた麻雀をしているとヒロシが語りだした。
「あん時女神に自ら名乗り出たのは……」
「この世界に来たかった」
「はぁー、そんなんだと思ったぜ」
あまり物事に関心のないヒロシが先頭に立って行動したもんだから何かあるとは俺たち三人思っていたが、まさかエロゲの世界だとは。
「ボクの予想だと、一見平和に見えるこの世界が実は魔法少女と怪人が人知れず戦っていて、敗北した少女たちはエロい目にあう系のゲームだね」
「なんだよそりゃぁ」
「去年レポート書けってヒロシの家でやらされたゲームの話じゃない?」
ヒロシは引き籠りで暇人だから時間が無限に有り余っている。故に定期的にエロゲでも健全なゲームでも何でも作り俺たちにプレイさせる。
俺たちはレポートを書いてヒロシに提出し、そこから改良を重ねてネットでゲーム販売をしている流れだ。
売り上げは好調らしくその資金で俺たちはいつもヒロシ家で遊び惚けられる。
「あぁ、去年の夏くらいにそんなんやったな、ユーリやけに気に入ってたよな。じゃあオレたちヒロシが作ったゲームの世界に来たのか?」
「ちがう」
ちがうのかよ。
「この世界の元となったゲームタイトルは『僕の好きになった女の子がクラスメイトの陽キャたちに身も心も奪われる~僕には見せないあんなことやこんなことまでしていて僕は勃起しイクッ!~』だ」
「クソみてーなタイトルだな」
「魔法少女凌辱じゃなくてただの寝取られじゃん」
「最悪だよ」
ヒロシの性癖まんまなゲームだった。俺は寝取られというのは興味ないからよくわからんと考えてると『素質あるぞ』とヒロシに言われた、ぶっ飛ばすぞ。
「なんでわざわざエロゲの世界に来たんだよ」
「好きな絵師の描いたヒロインが可愛かった。可愛いヒロインをこの目で見たかった」
「欲望丸出しじゃねーか」
「じゃあその気に入ったヒロインをヒロシが寝取るの?」
「おれは一生この家から出たくない」
「ヒロイン見たいんじゃないのかよ!?」
流石は超が付くほどの引き籠りだ。家から出ないのにどうやってヒロインを見る気なんだよこいつ。たまには家から出ろよ。
――話を進めると。
どうやら以前に突如発狂した時にやっていたゲームがこの世界らしい。
ヒロインは可愛く、エロシーンのクオリティが抜群。ヒロシの大好きな寝取られものということもあり、とても気に入ったゲームらしいが、どうしてもシナリオが気に入らなかったというわけだ。
どういうシナリオなのかというと。
内容としては主人公の周りにはヒロインが2人居り、一人はツンデレ系幼馴染、もう一人がダウナー系のクラスメイト。
要は炎珠朱奈と氷音碧依がそのヒロインだということだ。
んで主人公が無地来。
主人公……無地来はうじうじした陰キャではあるが、ゲームご都合主義により彼女たちの心が次第に無地来に寄っていくというよくある恋愛ストーリーが繰り広げられる。
しかし、そこで邪魔に入るのがクラスメイトの陽キャといわれる3人の男だ。
夏休みの間に炎珠と氷音はそれぞれの陽キャたちに犯される。セックスを繰り返し次第に快楽堕ちした彼女たちは完全に無地来から心が離れてしまう。
休み明け、陽キャたちの企みで学校の空き教室に炎珠と氷音、それに無地来を誘い込み、陽キャたちが彼女たちを犯し尽くす所を無地来に見せつける、彼はその光景を見せつけられ勃起をしてしまい次第には絶頂するといった流れらしい。
典型的な寝取られストーリーだな。
「超典型的な寝取られものじゃん、何が気に入らなくて転生先に選んだんだよ」
「……このゲームの陽キャたちがなんとなくお前たちに似てたから気に入らなかった」
「はい?」
「だからシナリオ通りにしたくなかった」
……はぁ、なるほどね。
似てるだけではあるが、俺たちが悪い扱いをされたのが気に食わなかったってことか。
ったく本当にめんどくさい奴、このツンデレ引き籠りが!
とはいえ、その想いに悪い気はしない。
口には出さないが俺たちはヒロシに感謝の気持ちを抱いた。
絶対言わないけどな!
「シナリオ通りにしないってことは、オレたちが余計なことしなけりゃいいんだろ、楽勝だな」
「ボクはそもそも女の子に興味ないし」
「あの冗談でもそう言うの止めて、友情壊れるから本当にやめて」
「うふふふ」
……冗談だよな?
常に女装をしていて、友人の俺らから見ても女顔負けの可愛さを誇る。これまで数多くの男子たちの性癖を歪ませた。
そんなユーリを俺とソーマは目が合わせられない。
「ゲームの主人公がイラつくから奪ってはほしい」
「……は?」
せっかく良い話で終わったのに何言ってんだこの引き籠り。
「じゃあウサちゃん出番だな」
「なんでだよソーマがやれよ、転生したから今フリーだろ。つーかウサちゃん言うな」
「炎珠と氷音はタイプじゃねーし、そもそもオレはボロボロに疲れ切った社畜系お姉さんしか興味ねぇんだよ」
「性癖が特殊すぎんだよ」
「まぁまぁ、ボクも女の子に興味ないし残りはウサちゃんしか居ないからさ」
「本当に女の子に興味ないの? 俺らの尻の保証はされてる? あとウサちゃん止めろ」
『ボクは入れられる側でもいいんだけど』とか言ってる。頼むから冗談だと言ってくれ。
とにかく癖の強い二人のせいで、俺だけが彼女たちを寝取る陽キャ役を続行することになった。
「なーに自然にやりゃいいんだよ、ヒロシ以外ゲームのこと知らないから思ったように口説けばいいって」
「ある意味これって強みだよね、原作通りにならないし。ボクとソーマも協力するしさ」
「よろしく」
というわけで『原作を1ミリも知らない俺による炎珠、氷音を口説き堕とせ』作戦が開始されたのだった。
あとヒロシは『よろしく』じゃなくて少しは手伝えよ。
ちなみに喋りながら続けていた賭け麻雀には負けてしまい、結局俺が買い出しに行く羽目になってしまった。
「そういえば追加コンテンツやってなかったな」
出掛ける時にヒロシが何か呟いていた気がしたが、俺の耳には届いていなかった。
「えーと、ポテチ、チョコ、アイス、ジュース……飯一個もなくね?」
買い出しリストと籠の中身を併せて確認をする。
この流れだと夕飯絶対お菓子パーティじゃん。
まぁ頼まれた物はこれで全部だし問題ないだろうと確信を持ちレジへ並びに行く。自分用の飯だけは調達を忘れずに。
レジへ向かうと、前方にはレジ前で必死にバッグの中をあさっている少女が。
「あれぇ、お財布入れたと思ったんだけどな。おかしいなぁ……」
何やらトラブっているようだ。
知った顔ではあるので声をかける。
「炎珠、なにやってんだ?」
「あ、帝くん……」
そう、前にいたのは今まさにトレンド(身内)にいる炎珠朱奈であった。
さんざん他人な感じで話題に挙げていたが炎珠はクラスメイトである。
普通の友人としてコミュニケーションは既にとっているのでこうして話すのは何も問題ない。
ちなみに無地来も同じクラス、氷音は別クラスだ。
「財布忘れたの?」
「うーん、家を出るときに入れたはずなんだけど……」
と、ゴソゴソ鞄を漁っているが一向に財布が出てくる気配がない。
レジの店員さんも苦笑いで困っている。
……しゃーねーな。
「いくら? 代わりに払うよ」
「えぇっ、そんなの悪いって」
「店員さん待たせ続けてると店にも他のお客さんに迷惑だしさ、万が一財布がなかったらそれ全部元へ戻しに行くんだろ。それも大変だしとりあえず払うから会計しちゃおうぜ」
「うーん……、ごめんね帝くん」
レジにお札を入れて無事購入をする。
結局払い終わるまで財布は出てこなかった。
「ホントにごめんね、帝くん。しかも荷物まで持ってくれるなんて……」
「こんぐらいいってことよ、女の子に荷物持たせるのは男として格好悪いからな、しかしこれ結構重いぞ、言っちゃ悪いけど炎珠のその細い腕で家まで運べるのか?」
「あー舐めないでよ、これでも毎日一人で買い物して日によってはお米も買って帰るんだから」
「そうだったか、そりゃ失礼」
すぐにお金を返すという彼女の主張に押されともに帰路へ就く。
ならついでだからといって彼女の買い物袋を持つことにした。
もちろん最初は拒まれたが『俺の金で払ったやつだからまだ俺のもんだろ?』ってことで強引に持つことにした。
炎珠は呆気にとられたようだが『……ありがとう』と笑顔を見せてくれたのでこれで良いってことだ。
「いつも家事とか炎珠がやってんの?」
「お母さんが遅くまでお仕事だからね」
「へぇー、えらいな。昼も毎回弁当作ってるみたいだし、無地来の良い嫁さんになれそうじゃん」
「ちょ、ちょっと何言ってんのよっ、白とはそんなんじゃないし……」
顔を赤くして否定をしているが間違いなく意識しているのだろう。
「無地来の食ってる弁当も炎珠が作ってんだろ、弁当旨そうだなーって見てるからさ、あいつが羨ましいよ」
炎珠と無地来は教室で弁当を一緒に食べてることが多い、その時に見た弁当が旨そうだと思ったのは本当のことだ。
「……ほ、ほんとに?」
「嘘なんかつかねーよ」
「そっか、ありがとう。白は褒めてくれたことないから……」
はぁー、何やってんだか無地来の奴。
女子の手作り弁当に何の感想も抱かないのか。
幼馴染って距離が意識させないのかねぇ。
ただの帰り道でのいち会話ではあるが、他にもため息が出そうなことやってそうだな。
こりゃ原作で寝取られるのもなんとなくわかる気がする。
その後は特に代わり映えのあることもなく、普通に楽しく喋りながら炎珠の家まで行き、代払いした金額を受け取って彼女と別れた。
ソーマたちには遅いと怒られたが事情を話すと『さっそくやるじゃん』と称賛の声に変わるのだった。
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