第12話 君の罪

 昇降口までの道のり、保健室へ向かうため別れたうさと離れ俺と相須あいすさんは階段を下っていた。


「教室での話は聞こえていたんですよね?」


「はい。すみません……」


「謝ることでは。何というか、凄い偶然ですね」


 そう言う彼女は本当に何とも思っていないようにこちらに笑顔を振りまく。

 わずか三日のうちに同じ人に二回も告白現場を見られた張本人にしては嫌に冷静な対応だ。

 こちらとしてはありがたいのだが告白とはそんな淡白なものなのだろうか。ドラマやアニメの中の話でしか見たことがなかった俺はそんな疑問を浮かべる。


「相須さん。モテるんだね」


 自分で言ってまずかったと手で口を抑える。これは流石にデリカシーが無さすぎる質問だった。

 ようやく今日一日の緊張感から解放されると気が緩んだとしてもあまり褒められた行為ではないだろう。

 そう危惧していた俺とは裏腹に彼女はどうなんですかねと会話を続ける。

 

「高校に入学してから何名かの男性から交際の申し込みを受けましたが、本当に私に魅力があってのことかは分かりませんので」


「そう? 俺は十分魅力的な人だと思うけど」


 しまった。これじゃ口説いているみたいだ。

 このには多少なりとも言葉の意味と違った内容も含まれているのだが、彼女にそれが伝わるわけもない。


「ありがとうございます。でも本当に……そんなんじゃないかもしれませんよ?」


 何だろうこの意味ありげな返しは。

 初めこの会話はあまり踏み込んじゃいけない内容と思っていた俺も、この二日で彼女が見せてこなかった表情に呑まれる。


「それってどういう…………」


「そういえば。今日はとこさんとも会ったんですよね?」


 意味なのか。その先を踏み込もうとした俺に彼女はまるでこれ以上は踏み込ませないという線引きをしていたように話題を変える。

 古都子常ことことこ。あの別棟で出会った腐の方のことだろう。


「どうしていきなり?」


 ひとつ前の会話の終わり方も言及するように俺は質問に質問で返す。


「彼女、私たちのメンバーなので」


 そういえばそうだった。それ以上の濃さを含んだイベントの数々で頭から抜けていたがアイスクリーム戦線という謎の団体が存在するという話も聞いていたんだった。


「まぁ会ったけど……いろいろあったし……」


 いろいろにいろいろな意味を込めて濁す。

 俺の困りように何か満足したのかこれまでの笑顔に戻った彼女は知ってますと一言添える。


「相須さん……何か楽しんでない?」


「バレましたか。美見みみちゃんとのやり取りを見て、つい真似してみたくなったんです」


 なるほど。意味ありげな話題も、思い返したくない昼の続きも俺への罰の継続のためだったのか。

 この人本当になんなんだろう。

 そうしてからかわれる内に風景は昇降口へと変わっており俺は彼女と別れようとする。 

 二日前は理由があったから下校の道を共にしてもらったが意味なく男女で帰るのは彼女も望んでいないだろう。


「じゃあ相須さん。また明日」


「少しお待ちを」


 溜息交じりにそれだけ言って帰路に立とうとする俺を彼女が止める。


「どうしたn」


 振り返った直後口元をヒンヤリした空気が襲う。

 知っている。これはアイスだ。

 突然棒アイスを突き付けてきた彼女は先程まで距離感をいともたやすく超えてきた。


ばびなにしてるの!?」


「気になりますか」


 俺の口にいきなり氷菓子をつっこんできた張本人はそんな質問をする。

 気になるとは一体どれにたいしてだろう。


「明日の放課後は尾花おはな君が今日出向いた空き教室に来てください。約束ですよ」


 俺の頭を整理させぬまま彼女はそんな約束をこじつける。

 空き教室? アイスクリーム戦線一同総出で今日の粗相を詰めに来るのだろうか。だとすると【怪人】の相上さんとかすごく怖いんですけど。

 いらぬ心配を巡らせる俺に彼女はそのままの体勢で俺を見つめる。

 ……見つめ続ける。


「……分かったよ」


 俺は彼女の瞳を断ることができずに結局頷いてしまった。

 そして相須さんは俺の反応を分かってたかのように頷き返すと俺との距離を戻す。


「では、また明日尾花君」


 相須恵あいすめぐみ。同じクラスのアイスを持った謎の少女。

 何を思い何のための行動だったのか。

 彼女が俺に構った理由も、彼女が俺に見せようとした罪も、俺には知る由もなかった。



 

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