第6.5話 下校。不思議なアイスで 

 10月21日月曜日12時31分頃。被告カメムシの強引な接近により尾花優也おはなゆうや氏はそれはそれは見事な悲鳴と共に泡を吹いて気絶した。

 保健室での惨状をこう俺に説明した姫川は、12時40分を少し回って保健室に現着していたたらしい。

 根夢亥ねむい先生が言っていたデカいクラスメイトとは姫川のことだったらしい。


「それ……じゃ。ちゃん、と……送って……あげ、てね」


 俺が再び目覚めたのは6時間目も終盤の15時手前。先生の判断で今日は帰宅となった俺は登校初日の最後に保健室の先生からの見送りを隣のクラスメイトと共に受け帰路に立っていた。


「でも災難でしたね。お加減大丈夫ですか?」


「もう大丈夫だよ」


 現在俺の隣を歩くのは相須恵あいすめぐみ、1年B組出席番号一番の彼女だ。俺が寝ている間に到着まで30分以上を要する1年B組まで出向き、時間は経っているとはいえ頭をぶつけて、気絶した病人を一人で帰すということは出来ないとのことで帰る方向が同じクラスメイトに俺と途中まで一緒に帰ってくれるようにお願いしてくれていたらしい。

 何と優しい先生なのだろう。

 ちなみに担任の教員には自己紹介以降一度もあっていない。


「でもごめんね。わざわざ着いてきてもらって」


「気になさらないで下さい。どうせ私の家もこちらの方向ですし」


 思わぬハプニングで女子のクラスメイトと下校するというイベントを起こした俺だが流石に申し訳なさと恥ずかしさなどで喜ぶ隙などない。

 

 それにしてもまさか高校最初の1日を一時間目の授業の途中でリタイアするとは思ってもみなかった。

 何なら朝方の告白シーンと冷蔵庫のこととカメムシしか印象に残ってないので授業を受けた感じもほとんどない。


「そこまがったらもう家だからここで大丈夫だよ。本当ありがとう」


「いえいえ。困ったときはお互い様です」


「ありがとう。それじゃぁ。相須さんも気をつけて帰ってね」


「はい。また明日、尾花君」


 いろいろな感情がひしめいていた下校時間はあっという間に過ぎ、俺は相須さんに感謝の意を伝えると彼女に背を向ける。


「あ! そういえばこれ」


 直後後ろの声と鞄をあさる音に呼び止められて足を止める。  

 何だろう? 授業のプリントでも貰っておいてくれたのかな……


「はい!! クールリッシュです」


 手渡されたのはクールリッシュ赤こんにゃく味。

 彼女の持つ鞄から冷気が見えたのは気のせいだろうか。


「ありがとう……いただくよ」


 満面の笑み。断れるはずもない。


「では改めて。また学校で、尾花君」


「うん。またね……」


 そうして挨拶を済ませると彼女の背中は遠ざかっていく。

 夕日に照らされ可憐に歩く少女の姿に見とれていると口元にひんやりした温度を感じる。


「……普通に食べちゃった」


 翌日。俺は大事を取って欠席となった。

 こうしてクラス内での相須さんのアイスの噂がまた一つ信憑性を増してしまったことを俺は後になって知らされるのだった。





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