第6話 月宮高校のエースVS光徳明倫高校の最強打者

2回戦表、投げる文珠に相対してここで登場するの光徳明倫高校4番、蔵元 良治 捕手だ。


日本の野球のおいては3-5番に好打者を置くことが多く(クリーンナップという)、特に4番はそのチームの最強打者が務めるパターンが多い。


そして、光徳明倫高校においてもそれは当てはまっており、チーム1のパワーヒッターであるのが蔵元だ。


(さて、ベンチから見ても驚きの投球だったが、打席に立つとどんな印象になる?)


構える蔵元に対して、深く踏み込んだ右腕から放たれた球は、鋭く曲がり内角のストライクゾーンへ突き刺さった。


「ストライク!」


文珠が投げたのはシュートと呼ばれる投手の利き腕方向に速く少し曲がる変化球で、バッティングを詰まらせ凡打を狙い投げることが多いが、今回はストライクを取る意図で投げられている。


(……なるほど、これは1回表で打席にたった連中から聞いた通り打ちづらい球を投げる)


これは、シュートが打ちづらいというわけではなく、彼が投げる球筋が打ち辛い軌道を通っているということである。


(そして投げる瞬間まで腕が体に隠れているせいで球の出所も見づらい上に、ストライクを確実に取れるくらいにコントロールが良い。ここまでなら、普通の好投手なんだが……)


しかし、文珠の次投がその評価を許さない。

短いステップから上から投げ下された球は、鋭い角度からいつのまにかキャッチャーミットへ到達していた。


「ストライク ツー!」


(―――っつ、これだ。なんて投球術だ。ベンチから見ても驚きだったが、打席に立つとそれ以上だな。タイミング全くとれない)


やはり、野球に興味がない者がみたら何が驚きなのかわかりにくい文珠の投球だが、打席に立つ蔵元には驚愕のようだ。

地区最強と言ってよい彼ほどの打者でも、二球目ではバットを振ることができなかった。


(監督は、桜井が世代№1だと明言していた。それを目の当たりしている現状だが、とにかく振らないと次にもつながらない―――)


チームの大黒柱らしい建設的な思考で、次投に備えようとしていた蔵元だったが……。


深く踏み込み担ぎ上げた蔵元からは見えない(体に隠れ)右腕から投げられた球は、彼からははっきりと低いボール(ストライクゾーンの外)だと認識されていたのに――――。


「ストライク スリー!」


内角低めに決まったその球、蔵元の膝元より確実に上の球は正しく球審からストライクと宣言されたのだった。


(……おいおい、これで4者連続3球三振だぞ? 地区最強と言われるチーム相手にだぞ? なんなんだ、こいつは?)


蔵元はこの結果に、失望と驚愕が混ぜこぜになったようなものに襲われていた。

バットを振ることすらできなかった無力感と、今までに見たこともない投手と出会った驚き。

それらがない交ぜになったまま、俯きながらベンチへ戻ることになった。


「おい、別に打席で寝てたわけじゃないよな?」


そんな蔵元にこんな口の悪いことを言う人物は一人……か二人くらいだろうが、今回は当然これからバッターボックスに立つ彼だ。


「当たり前だ、冴木」


そう、光徳明倫高校の№2バッター、冴木 行李だ。


「ちっ、なら監督の言う通りの投手ってわけかよ」


「……なんだ? 怖じ気つかいたか?」


「そりゃお前だろ?」


「……っつ!」


図星をつかれたのか、蔵元は珍しくも軽口をたたく冴木に言い返すことが出来なかった。


冴木はそれが嬉しかったのか、はたまたなんとなく情けない顔をしている蔵元に気遣ってか、さらに軽口を重ねる。


「まあ、見てなって。あの生意気な一年坊主をわからせてやるぜ」


「……まあ、逆にわからされないことを期待しておくぜ」


なんて蔵元が返したのだったが、その期待に応えたのか応えられなかったのか、あっという間に残りの打者も3球三振で2回表が終わってしまったのだった。


「ちゃんちゃん」


「ちゃんちゃんじゃねーぞ、蔵元! 俺の打席見てたか!」


そんなやり取りに、俺も居たんだが? と、思う光徳明倫高校6番バッターであった。


ちゃんちゃん

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