第4話 練習試合開始!

野球とは基本的には先攻後攻に分かれて、交互に攻撃と守備を9回繰り返し多くの点を取ったチームが勝つスポーツである。


先攻がまずバットと呼ばれる棒を持ちバッターボックスに立ち、グランドの守備についた後攻チームの投手が球を投げるといったことが基本的な試合の形だ。

攻撃側はバッターボックスに立った打者がその球をフェアゾーンへ打ちボールが戻ってくるまでに塁へ進め、4つある塁を一周できれば点が入る。

対して、守備側は投手が球を投げ3つストライクを取るか、打たれた球をノーバウンドで捕球するか打者が塁へ着く前にその打たれてバウンドしたボールを投げ回しタッチできればアウトとなり、それを3つ集めれば攻守交替となる。


そして、今回マウンドには後攻となった月宮高校のエース・桜井 文珠が投手として立っていた。

バッターボックスには光徳明倫高校の一番バッターが立っていて、正面に座ってミットを構えているのは当然ながららぶりだ。


「いつもの、見慣れた光景だな。マウンドに立って目の前にらぶりが居る光景ってのは」


文珠がそのように独り言を呟くほど相棒として信頼してるらぶりから、投げる球種とコースのサインが送られてくる。

それにうなずくと、文珠はその右腕を担ぎあげ第一球を投げこんだ。


深く踏みこみ、上から投げ下した球は低い軌道からうなり上げるように真っ直ぐらぶりのミットに突き刺さった。


「ストライク!」


野球は3つのストライクを取ればその打者はアウトとなり打席が終わるゲームだ。

そのストライクとは高さは肩上とズボン上部の中間点から膝上の間、横はホームベースの17インチ(43.178cm)と決まっていて、そこのゾーンに球を投げこめばストライクとなる。

または、そのゾーンに外れていても打者が球を空振りしてもストライクである。


さきほど文珠が投げこんだ球は高さは胸と腹の間の位置に、横で言えばど真ん中で球審の宣言どおり明らかにストライクだったが、光徳明倫高校は微動だに出来なかった。


…いや、しなかったというほうが正しいだろう。


彼はまず、文珠の投げる球がどんなものか測るためにバットを振らず、球を見定めることに集中したのだ。


そして、その球をみた彼の感想は驚きのものだった。


(いや、なんだこの球。打ち辛すぎだろ。まるで浮き上がってくるみたいだし、球速より速く感じる)


1番バッターの彼は確かにボールを見るために一球捨てたのだが、例え打ち気があっても手が出るような球ではなかったようだ。


ただ、こうも思っていた。


(けど、慣れれば打てないことないんじゃないか? 打席立つと速く感じるが実際のスピードはそこまでだし。これだけなら監督が言うような打てない投手とは思えない)


そう思った、次の投球だ。


短いステップと担ぎ上げた腕からから放られた球は、角度のついた真っ直ぐでひざ上外角のストライクゾーンにまたもや決まった。


一見すると先ほどとあまり変わらないようなこの投球に、光徳明倫高校の一番は全く反応しなかった。……いや、反応できなかったというほうが正しいか。

なぜなら、今度は球を見に行ったわけでは無く完全に反応できなかったからだ。


(おいおい、なんだそれ?!)


これが彼の感想であり、光徳明倫高校のベンチも似たようなことを言っていた。


「……監督からちらっと聞かされた時はいまいちピンとこなかったけど、実際に見ると驚きしかないなあの投球」


聞いてた話からは理解できていなかったと、冴木は同じ投手として文珠の投球に驚きを隠せないようだ。


「俺はもっとわかりにくい感じかと思っていたんだが、あんなにはっきりと違うとは」


野球に詳しくないものが文珠の投球を見ても驚きの点を見つけ出すことはおそらく難しい間違い探しのようなものだろうけど、球児である蔵元達からすれば離れたベンチからでもその投球の特異さがよくわかるもののようだ。


そんなこの会話を聞いている野球素人がいるならば、置いてきぼり間違いなしの専門的な驚愕をしている野球部員達をみて、古城監督はどこか嬉しそうにしている。


「よう、俺が言った通りだろ? 文珠はスゲーてよ」


敵チームの投手を嬉しそうに褒めるっておかしいだろ…この監督……。

監督の発言を聞いて、そんな表情を光徳明倫高校野球部員一同が作っていたのだった……。


そんな試合中とは思えない (まあ練習試合だが) ゆるゆるなやり取りをしている中、光徳明倫高校のバッターは3者凡退で1回表の攻撃が終わってしまった。


もう、なんだか締まらない1回表だ。

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