第5話
(あの時は何を言ってるんだコイツはと思ったが、本当にすごいもんだよ、この人は…)
昔を振り返りながら、オレの隣でまだスヤスヤ眠るローズを見る。3年前、初めて出会った時は今よりも幼く、髪も長かった。彼女はどう見ても子供にしか見えないその顔を少し緊張でこわばらせて、こちらを見ていた。
「ねえヨダカさん、人を助ける仕事をしませんか?」
オレが封印されていた城跡は、長い時を経て気づけば魔術医療専門機関になっていた。そして何をどうやったのかは知らないが、地下で封印されているオレの存在を知ったローズは、上のお偉様に掛け合い封印を解いて、オレに向かって、そう言った。
なぜオレがそんなことを、そう問うと、彼女は続けて
「だって貴方…このままずっとこうしていたら、何も変わらないし、いつか処分されかねないわ…それに『これ以上オレは、人を傷つけたくも、殺したくもない。それができるのなら、封印でも破壊でも、何をしてくれてもいい。』のでしょう?だったら、ここから出て、ちゃんと生きて、人の命を助ける仕事をしましょうよ。私と一緒に、魔術医療師として!」
と言って、今と変わらない、向日葵のように曇りのない笑顔をオレに向けてくれた。
我ながら本当に単純だと思うが、ローズのあの笑顔を見た時…それだけで、なんだか救われた気がした。
それからオレは、ローズの助手として働くのを条件に地上に上がる許可を得て、その2年後に魔術医療師としての資格も取得した。
そうして彼女のそばで働き続けて、ある日ふと気になって、調べ物をしている彼女に聞いた。
「なぁ、キミはなんで魔術医療師になったんだ?」
彼女はキョトンとしたあと、少し考え込んで、口を開いた。
「私ね、困ってる人がいたら助けたいし、ヨダカさんも含めて、全員に幸せになってほしいの。人はいつか死んじゃうけれど…それでも救える命は全部救いたいし、守りたいの。だから、沢山勉強して、いろんなことを知って、人を助けて、もっともっと、みんなを笑顔にしたいの。そのために、ありとあらゆる病気を治せるようになるのが目標よ。そんなの綺麗事だ、無理だーって人から思われるかもしれないけれど、本気なのよ。だから私は、魔術医療師になったの。」
そう言って笑う彼女は、とても綺麗だった。暗い闇の中でもはっきりと見える輝星のような人だと、そう思った。彼女のそのまっすぐで果てしない夢を、応援したいと思った。
(彼女を支えられるくらいになれたら…なんてのは、高望みか。そもそもこの人は、そんなのが要らないくらいに強いからな…)
なんなら、何もないに越したことはないが、それでも。もしものことがあった時に、彼女がオレにそうしてくれたように、オレも彼女に何かしてあげられるような、そんな人間でありたいと思った。
車窓の外を見ると、魔道機関車は徐々に高度を下げ、オレ達が降りる街の光が近づいてきていた。
「ローズ、駅に着いたぞ。起きてくれー」
「ん…」
オレはもたれかかって眠るローズの肩を軽くゆすると、彼女はゆっくりと目を開いた。そしてその緋星の眼でオレの顔を見て、いつものように、ゆるりと微笑んだのだった。
緋星の君 月餠 @marimogorilla1998
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