第28話 同化
当然のように損傷ペナルティが課され、激痛が走るが、今はそれどころではない。
今まで剣を中心に使っていたのが、共食いをしたことで爪が伸び、鋭利になっている。一瞬、痛みを感じなかったくらい威力が強い。
「クッソ…」爪から反射する光で相手の位置を見分け、本当にギリギリで避けているが、こんなことをしていたらこっちが体力切れになる!
突然、自分の体が宙を舞う。くるくると2回転ほどして、ゴツゴツとしたものに抱きかかえられる。驚き、顔を上げると死神と目が合う。そして、覚悟を決めたような顔でこちらを一瞥し、骨の口を動かす。
「主は…刺し違える覚悟はありますか?」
その言葉は、重く、明瞭に聞こえた。
「………ああ。」
「なら…私と同化をしましょう。主の生命力を徐々に吸い取ってしまいますが。」
「分かった。」怖かった。だが、今の現状を打開するにはこれしか無いことは頭では理解していた。死神が張ったバリアがリリエルの爪で破壊された時、僕たちは既に同化が完了していた。
「ほう…かっこよくなってんじゃん。強さにはつながってない気がするけど。」
体には死神のローブが着せられ、そこから赤いネクタイと白いシャツが覗いている。鎌には魂の模様が刻まれ、刻々と柄の部分から模様が消えて行く。
「じゃ、かっこいいまま死んでくれ。」
ご自慢であろう俊足を活かして来るが、全て見える。冷静に柄で爪を受け、単純な力のステータス差で上に持ち上げる。
刃が顎に達しようとしていたが、すんでのところで避けられる。
一瞬、足が深い闇に沈むような感覚がしたが、なんとか踏みとどまる。
鎌を見てみると、10はあった魂の模様が半分を切っている。
「時間が…ねぇな…」
地面を蹴り、体勢が崩れているところに突っ込む。
狩れる。いける。
「甘いな。周りを見れないのは三流だ。」
熱い感覚が全身を襲ったかと思うと、下半身が無かった。認識した途端、地獄とも言い難い痛みが駆け巡る。他のやつが来てたのが気づかなかった…!だが、時すでに遅し。HPバーがぐんぐんと減少をし、残り10になる。
「さあ、死んでもらおうか。」細剣を心臓辺りにあてがわれる。
絶望的な状況。だが、僕は視ていた。こいつの存在を。
「いるんだろ。そこに」
鎌を全力で投げつける。
「なんだ…?妾にはその程度の攻撃は当たらないぞ。」
「ああ…知ってる。だけど、居るんだよ。」
景色から後輩が出てくる。そして、しっかりと鎌を掴む。
「はい…居ます。」
リリエルの反応が遅れ、鎌の刃の方が先に到達する。そして、剣を持っていた右腕を切り落とす。
流石、と言っていい。切り落とされた瞬間、鎌の特性でHPが半減する。という苦痛に耐えながら、後輩の胸を引っ掻く。怯む後輩にもう一撃を与えようとしていたため、声を掛ける。
「なぁ…もう、終わりにしようぜ。このままだと共倒れだ。もしそうなったらどうなる?貴女たちの部下は全て混乱に陥るよ。」
「……五月蠅い……妾は刺し違えてでも殺すって決めたんだ。それに横槍が入ったからこいつも殺すだけだ。」
「もう刺し違えている…貴女の勝ちだ。リリエル。もう、止めに…しよう…」
視界が暗転し、発動させていたメンタリストが消える。力なく仰向けになると、視界端に後輩を捉える。
「はは…何泣いてんだよ。まぁ……死んじまうけどな。」
「先輩…」
最後の力を使い、ウィンドウを開く。そして、オプションを開き、スキルの譲渡という欄を選択する。だいぶ前に見つけてたけど、まさか使うことになるとはな。
「じゃあ、スキルは全て托す…全快はもうすぐ使えるようになるから…使っといてな…」
視界が闇に染まる。もう無理だ。死に必死に抗ったが、やっぱりシステムには勝てない。
「楽しかったで…」
目を閉じ、体の浮遊感に身を委ねる。
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