第27話 共食い

正直言って、死ぬかと思った。あのとき圧倒的な殺意を感じて、無意識の内に起死回生を発動していなかったらあっさり死ぬところだった。


どうやら、この世界のパラメーターのMAX値は1000のようだった。

そして、あのリリエルとかいうやつの走りは見えなかった。ただ、唯一見えたのは、剣先から放たれている光が綺麗な弧を描いているところだけだった。

前に、後輩に対して走力300程度の走りをしたら、早すぎて見えないと言っていたから、それを鑑みるに、こいつの走力はMAX値の1000だろう。


だが、そのMAX値を超える速度を僕なら出せる。

一歩目、僕は瞬時にウィンドウを手を開く動作で開け、即座にサブスキルを逃走者に切り替える。


体が一瞬浮いた感覚がした後、周りの景色が溶ける。

このゲームにはありえない速度…走力2400を記録しているのだから。


そのままの速度で壁に背を向ける。奴と相対する形になるのだが…

そんなことは気にせず、残った勢いで壁に足をつけ、翔ぶ。

足全体を劈く痛みが走り、一瞬顔を歪める。だが、もうここまで来たら止められない。


そのまま腰を目掛けて突進をする。僕が見えなかったのか、意外と簡単に後輩の剣をることができた。


数メートル床を抉った後、剣をゆっくりと構える。


「へぇ…見えんかったで。妾より速いやつがおったなんてな。さぁ、来や。最後の戦いをしようやないか。」

相手も剣を構える。そして、次の言葉を継ぎ足す。

「負けたほうが相手の言う事を全て聞く。それでどうや?おもろいやろ。まぁ…妾は自害を要求するけどな!」


一直線の攻撃を仕掛けてくる。だが、今の状態では僕のほうが走力が速い!

見え見えな攻撃を剣で受けようとすると、アナウンスが自動的に流れる。

その機械音声が告げる。


『相手が不幸になる確率は…50%です』

二分の一……いや、十分だ。この戦いを制すには。

引けないやつは負ける。それだけのことだ。


「悪いけんど、スキルを使わせてもらうぜ!【異常付与】お前に付ける!」

だが、特に僕の体には何も起きなかった。

すかさず、剣で相手の剣を受ける。走力と攻撃力と力が全て掛け算の演算が行われ、自分のほうが優位に立った。その時、完全に確率が絡むパリィが発動し、相手の武器を真っ二つに破損させる。


奴は一瞬驚いた顔をしていたが、ニタァと悪く、覚悟を決めた顔をし、一飛びで屋上まで跳び上がる。

流石にそこまでの跳躍力は無いため、近くにあった階段を駆け上がる。


数段、木製だった階段を壊したが、3秒ほどで屋上にたどり着く。

屋上に続く扉を開けると、血生臭さが、鼻の奥を鋭く突く。


「な……貴女、何をやって…」

凄惨な光景に思わず後退る。そして、ゆっくりとこちらに顔を向けてくる。


「なぁ…知ってるか?」

急に人格が変わったかのように標準語になる。口の周りに付いた血を拭い、光が入っていない、死んだような目でこちらを見下す。


「獣人ってな…共食いをするんだよ」

ゴトッという音と共に、左手の小指から中指までが床に転がる。


あ……これ勝てねぇ…

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