第24話 電話

 これは村を完全に滅ぼす前の話…


 脇腹から生暖かい血がドロドロと溢れてきている。体力バーの減り方的にせいぜい後十分が限界だろう。


 というか、ここまで歩いてこれたのも相当な奇跡だった。それも、自分のサブスキルが【治癒】だったのが幸いだった。

死後の世界を憂う。まぁ…悪いことはしてないからな…ちょっとコーラを無駄にしたぐらい…?


 胸ポケットからバイブ音が鳴り続けている。誰かから電話がかかってきたようだ。

今までは、俺を倒す人しか電話をかけて来なかったので全く対応してこなかったのだが、最期だしと思い、電話先も見ずに応答する。


 どんな罵詈雑言を浴びせられるのだろうか。静かに次の声を待った。

『あぁ…聞こえてるか?

突然名前を呼ばれ、思考が停止する。だが、反射である名前を呟く。


 「高岡…涼成…お前…なんで…」

一旦耳から電話を離し、発信者の名前を見る。

「Syachiku-san…あいつが…?」

信じられなかった。というか、信じたくなかった。あの真面目で、部下想いで、優しかった高岡が殺しとかいう物騒なことをするなんて…


 「信じたくねぇよ…高岡ぁ…なんでそんなことをしちまったんだ…?」

『……いや、実質、僕が殺したようなものだ。この忌々しいスキルのせいで僕のVEM人生がめちゃくちゃになった。まぁ…変えられないんだけどね。』

乾いた笑いが電話越しに聞こえる。悲しさがこちらまで伝わるような、そんな笑いだった。


 「それで…俺に電話してきた理由って何…?もう疲れた…」

本音を漏らすと、慌てたように高岡が話す。

『あぁ…お前、怪我してんだろ。そのことについて電話した。回復薬なら今いる場所から北にずーっと進めば、僕たちが壊滅させた村がある。ここからそう離れてないから五分ぐらいで行けるんじゃないかな…?あと、ラベルが貼っていない液体は飲むなよ。あれ毒だから。』


 どうやって知ったのかは分からないが、色々と教えてくれた。絶賛大量出血中の自分にとっては嬉しい情報ばかりだ。

「ありがと。じゃあ切るね。」

そう言って電話を切ろうとする。だが、高岡の一言によって、その手はピタリと止まった。


 『なぁ…東雲…出来たらでいい。?』

俺は黙りこくってしまう。どちらの選択が良いのだろうか。指名手配されている身で一人で行動するか、指名手配されている者同士が固まったほうが良いのか。


 『まぁいいや。自分で決めてくれ。位置情報を共有するから来る気になったら来てくれ。もし、それで悪用なんかしたら……分かっているよな?』

電話がそこで途切れる。正直言って怖かった。


 「もう、あいつはあいつじゃねぇ…一緒には今、行きたくないな…」

そう言いながら、重い足取りで歩いていく。

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