第20話 すれ違い


「はぁ…はぁ…」

ひたすら走って息が切れる。もう消し炭は見えない。

そして、襲撃者も追ってくる気配がない。

「逃げ切っ…たぁ…」

脱力して木にもたれかかる。もう、こんなのが続いたら洒落にならないぞ…?


ピロンと陽気な音を立て、メニューから通知が来たことを知らせてくれる。

もう一つ買っておいたコーラをラッパ飲みしながら、通知を見る。


『指名手配犯追加!リス地をPKした二人目の凶悪犯!』

コーラを思いっきり吹き出す。

「ゴホッ!エフッ!なんでっ!俺じゃないのに!」

自分の顔写真と、懸賞金もかけられていた。

一、十、百…

「にせんまん…?ふぇぇ…」

絶望より、驚きが勝ち、5歳児が発すであろう声を出してしまった。


「とりあえず逃げないと…このままだと処理されちゃう…」

貧血気味になった体を無理やり起こし、フラフラな足取りで人気がないところに歩いてゆく。


「なんでなんだよ…俺が何したっていうんだ…」

涙目になりながら虚空に呟いた。



「ん?」

突然通知が来たメニューに目をやる。

そこには、でかでかと記事のタイトルが映っていた。

『指名手配犯追加!リス地をPKした二人目の凶悪犯!』

…なんかデジャブ。


「先輩、行きますよ。貴方には関係ないでしょう。」

確かに僕には関係ないんだけどね。なんかこの顔どこかで見たことがあるような気がしないでもないんだが…気のせいかな?


「どうしたんですか。そんな急に考え込んで。」

「なぁ、君のアバターの顔って、現実世界でもそんな顔なのか?」

「なんですか、唐突に。」

眉間にシワを寄せ、なんだか嫌そうな顔をしていたが、「そうですよ。」と答えてくれた。


じゃあ、こいつって…

「東雲…か…?」

自分の顔は原型をとどめてないけど、新規に投入されたプレイヤーだったら話は変わってくる。


はぁ…なんでこんなことになっちゃうかなぁ…


「………」いつの間にか無言で彼がいなくなっていた。あれ?!なんでいないんだ?!

しびれを切らしたのか?


「えぇっと…どっちから来たっけ…?」

方向音痴な僕は、自分を信じて道を突き進む。

そう。来たはずの方向に。


「なんか見たような景色だけど…まぁいいか。」来た方向とはつゆ知らず、ひたすらに歩く。


このあと、僕が倒した木を見つけるまで逆方向へと突き進んでいっているとは思わなかったのであった。



ズカズカと歩く。なんでマルチタスクができないかなぁ!歩きながら考えること位できるだろ!


怒りで頭が回らなかったのであろう。あの人の事を置いていってしまった。

そう。あの人が方向音痴とは知らずに…

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