第16話 利用
※
「1600人の脱落情報だとぉ!?どうしたらそうなるんだよ!要素寄こせや!要素!」
上司に殴られ、ヒリヒリしている頬を冷やしながら叫ぶ。
「さっきも聞いたんだけど…そもそも要素ってあるだろ…」
岡島にツッコミを入れられるがそれどころではない。たった一人で1600人が脱落したのだ。そう。たった一人で。
「とりあえず指名手配だな。うん。」
「急に冷静になるのやめてもらっていいですか?まあやりますよ…」
カタカタとパソコンに打ち込む岡島を見て、俺は考える。どうしたらこいつの無双を止められるんだ…?
あ。良いこと思いついた。警察の権力で一般市民を…
「辻本さん。絶対に悪いこと考えてるでしょ。一般市民とかは巻き込まないで下さいよ。後処理が面倒くさいんだから。」
「え。なんで分かったん?」
こいつ、人の心を見透かす能力でも持ってんのか?
少しゾッとしたが、岡島の次の言葉で気が楽になる。
「でもまぁ…良いかもしれないですね。一般市民を巻き込むぐらいなら。懸賞金をかけて、VEMに招待すればいいでしょう。お金はかかりません。とか言っといて。金の亡者か、命知らずか、はたまた別の人とかが来るでしょう。ここからは、市民をも巻き込んだ、凶悪犯との決戦です。」
なんだ。同族じゃねぇか。フッと息を漏らす。
俺はあいつの肩に腕をかけ、
「相棒。頼むぜ。」
「誰が相棒ですか。まぁ…名前を検索して…」
動きが止まっていた。なんだ…?
「あー、面倒くさい!なんで名前変わってるんだよ!」
「はぁーっ!?」
騒がしい二人組が誕生したのだった。
※
「はぁ…疲れた…」
もう今日は寝よう。その前に温かいお風呂に入ってだけど…
俺の名前は、東雲 勇斗。高岡の同期だ。
あいつは今日も最後まで来なかった。
家に入った瞬間、目の前に大きなカラオケボックス…いや…
「VEM…?」
そう。玄関を塞ぐように置かれているVEMのせいで奥のリビングに行けないのだ。
どかそうとするが、重くて開けられない。頼んでないのに…
「とりあえず、上司に電話…」
電話をかけようとすると、目の前に紙が貼り付けてあるのが見えた。
『おめでとうございます!全国の人口の内の10万人に選ばれました!』
は、はぁ…。別に嬉しくないんだが…死亡リスクも高いって言ってたし…
だが、次の1行を見て、腹をくくるしかないと思った。
『参加しない場合は死ぬことになります。残り1時間以内に決めて下さい。』
俺は迷わずに上司に電話をかけた。
「なんだ?突然。」
不愉快そうに返される。うん。そこまで不愉快にされても困りますねぇ…
「ちょっと、死地に踏み込んできます。帰ってこなかったら俺が死んでるって考えてもらって。それじゃあ。」
上司が何か言いかけたが、遮るように電話を切る。
「よっしゃァァァァ!」
うっきうきの足取りでVEMに吸い込まれるようにして入る。これこれぇ!やりたかったんだよねぇ!
アバターの服装の選択などをし終わり、一段落ついた時に、アナウンスが流れた。
『貴方がこのVEMから出るためには、この人物を倒す必要があります。』
オッドアイで、青年のような顔出ちをした人だった。この人がなにかしたのかな?
『彼は凶悪犯です。この人を倒した時点で、ゲームから退出ができ、かつ、1億円の懸賞金を獲得することができます。』
ここで俺は察した。
利用されてるんだと…
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