第12話 偶然の重なり合い
微風が肌に触れ、小鳥が囀る。あぁ…なんて良い日だろうか…
そう。只今、絶賛現実逃避中なのだ。あぁ…なんていい天気なんだろう…
ふと、自分が座っている崖の下から音がしたので、視線を下に落とす。
キンキンと、剣が擦れ、当たり合い、壊れたりしている音が鳴っている。
血みどろな惨状を見て、現実に引き戻される。
だが、自分には考えがある。
「あ…チームの人が殺られてる…。行くのやめとこ…」
そう!リーダーらしいことを一切しないのだ!これが一番自分が生き残るのに最適な選択肢だ!
自己中とか、サイテーとか罵られても構わない!僕は、プライドとか、自尊心とかはすべて捨て去った!痛いのは嫌だから!処理は頑張ってくれ!先頭に立って、戦闘はしない!
あ、駄洒落になっちゃった。まいっか!
はぁ…景色がふつくしい…
※
「おかしい…なんでこんなにも、凶悪犯らしき人物が見当たらないんだ…?」
このWW3。警察の方からじかじかに頼み込んで、無理やり開催させたもの…
普通なら、あの凶悪犯は戦闘狂だから、例え1000人程いても、嬉々として襲いかかるだろう。そこで処理された凶悪犯を捕らえて、リスキルするつもりだったが…
「本当に誰だ…?」
警察視点、キル数などを見ることができるのだが、これと言って大量殺戮している人物は居ない。多くても一桁…二桁に届くかどうかぐらいのやつしか居ない。
というか、辻本から、「凶悪犯は恐らく、その他…【精鋭】だ。」
とかなんとか言われたけど、本当に【精鋭】なのか?恐らくとか言ってるから、正確な精査はしていないだろう。
現地に飛んでいるドローン映像を見る。犯人の特徴は、黄色い帽子被ってて、サングラスを掛けてるんだったな。
カタカタとパソコンに要素を打ち込むが、それと一致したアバターが見つからない。
思い返してみると、精鋭部隊が全員死亡したと連絡が来た3分後ぐらいに更衣室を使用させるなって言って、1分も経たない内に連絡が来たから、アバターを変える時間は無かったはず…
「辻本の野郎…伝達ミスか…?」
普通に考えて、1分の間に、更衣室で着替えることはできないはずだ。確か、ゲーマーのトップランカーが検証として、更衣室で全力で着替えた際には、2分程はかかったはず。ちょうどその時、ライブを見ていたから分かる。このゲームの仕様で、アバターが着替える際には、自分の体の動きで、服を脱いで、他の服を着るという一連の着替えの動作をしなければならなかった。
よって、着替えていないと考えるほうが自然なのだ。
「辻本ぉ…」
拳の関節の中にある気泡が弾ける音がする。
ちょっと、しばかんとなぁ!
警察は気づいていなかった。いろいろな偶然が重なっていたことに。
一つ目。彼が居たのは森の中。必然的に電波が悪い場所だ。だから、規制が少し遅れた。
二つ目。その時、彼は多くのタブを開いていた。更衣室のタブを開き、アイテム欄のタブを開き、更には、死神を高いところから落としたせいで、処理に時間がかかった。
三つ目。余計に、目の色に効果が追加されたことにより、また処理速度を遅くした。
四つめ。半径10mに人が現れたので、アナウンスを流す必要があった。それにより、処理速度がまたまた遅くなった。
五つ目。彼は社畜なので、着替えるスピードが異次元だった。ゲーマーなどは、ごく普通の生活を送っているだろうが、彼は違う。1秒でも早く会社につかないと、上司にお仕置きされる。よって、朝に弱い彼が身につけた能力であった。ある日は服を破ったときもあるぐらいだった。
以上の5点が重なり合ったことによって、通常1分のところ、2分ほどになった。
目の色も、そこまで悩まなかったことにより、ギリギリ時間内に着替えることができたのだ。
そんなこともつゆ知らず、無情にも辻本の悲鳴が事務室に響いたのであった。
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