第8話 指名手配


「はぁ…」

僕は溜息を吐く。何回目だろうか。しかし…本当に面倒だな。

「一旦、早いけどゲーム抜けるか…」

画面を操作し、扉マークを押す。あれ…押しても押しても退出判定されない…

「なんで?」

連打すると、目の前に大きく表示が出てくる。

『貴方はゲームを退出することができません』

あ…


「終わったァァァァァァ!」

森の中で一人叫ぶ。これ、凶悪犯扱いされて、確保されるまで退出できないやつだよね?しかも僕の会社無断欠勤したら精神的にボッコボコにされるから、ヤバイんだけど。

ドドドと上からヘリコプターの音がする。上を見上げると、何かで視界が埋まる。

「何だぁ?絶望してる時に…」

warningという文字が見える。これもしかして…

嫌な予感が的中した。自分の顔写真が載っている指名手配の紙だった。


「終わったァァァァァァ!」

僕は再度叫ぶ。こんなふうに配られたら確実に自分のこと狙ってくるじゃん。もし、もしだよ?もしこのゲームでお金が稼ぐとかいう機能が無かったら、真面目にプレイヤーは探さなかったかもしれない。だけど、今のゲームはVMEだ。

思いっきりゲームタイトルにmoneyが入ってるんよ。だから、確実に探しに来るよね?


自分の懸賞額を焦りすぎて焦点が合わない目で見る。

生きて警察に届けた場合、懸賞金1000万円。

「あっひゃぁ〜」

あの時と同じような声を出して地面に体を沈める。終わった…絶対に痛い目に遭う…

「楽しんでゲームをしようとしたのにぃ!」

大声に驚いたのか、死神が出てくる。


マスター!大丈夫ですか?急に大声を出されて。」

「いや…ちょっと指名手配されちゃった…冤罪なのに…」

突然、死神がキラキラした目で見てくる。なんで?!

「流石です!マスター!一番最初に指名手配されるなんて!」

うん。論点が違うね。論外だね。

「いや、あの、えと。」

「安心して下さい!マスターに攻撃をしてくるやつには、私が全て仕留めますので!」

シュッシュッと骨しかない腕でボクシングの真似をする。はぁ…

「ま、まぁ…任せるよ…」

お任せを!と言いながらアイテム欄に戻る。なんなんだ?こいつは…


行く宛が無くなった僕は、ただひたすらに街とは逆の方に歩き出す。茂みが多くなってきたから流石にこっちまでくるプレイヤーは居ないだろう。

「念には念をってな。」

このままだと本当に街に行けなくて、いろいろな理由で死んじゃいそうだから、メニューを開いて、更衣室をタップする。ここでいろいろ着替えておかないと…


サングラスと、帽子を取り、服を、黒いフードが付いているパーカーにする。

一応、目の色も変えておこ。そういうのが楽だよね。ゲームって。

赤色にしようとした途端、急にアナウンスが出てくる。なんだぁ?

『目の色を【鮮血】にしますか?した場合、体力と力が増加しますが、走力が大幅に下がります。』

え?なんだなんだ?目の色変えて遊んでたけど、そんなの最初には出てこなかったぞ?


僕は実績を確認する。何か見落としてたか…?

『実績獲得【指名手配】【多重スキル】能力を与えます。能力授与成功。目の色を変えることでステータスを強化できます。』

ちょっと待て。僕、運営からめちゃめちゃ強化されてないか?能力のインフレが激しいんだけど…

あと、多重スキルって何?!おかしくないか?

スキルの欄をパソコンのマルチタスク画面のようにして見る。

スキル【死神】【格闘家Lv2】【狙撃手】【メンタリスト】


死神くん…?

頭の中のどこかがプツッと切れた気がした。僕、これのせいで死ににくくなってんじゃん。痛いの嫌だよ?

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