第9話 縮みゆくリチャード


 長身のリチャードを軽々と担いで、パメラは地下室への階段を下りて行った。エディリスとフローリスも後に続いた。

 リチャードを咆哮ほうこうする瘦身そうしんの死体の前に降ろし、魔導書をパラパラとめくり、目的のページが見つかると、パメラは詠唱を始めた。


「絢爛なる星辰の輝きよ、深淵の闇を照らす光輝よ。紫紺の煌めきと深紅の血潮を紡ぎ、禁忌の秘術を解き放つ。我が手に宿れ、天使の微笑みよ、聖徒の名において、我が前に顕現せん!」


 眩い光がリチャードの身体を包み込むと、口から巨大なナメクジのような生き物が這い出してきた。

 ずるずると床を這って、巨大なナメクジは咆哮ほうこうする痩身そうしんの口の中に戻っていった。


「いまのおぞましい生物はなに?」

 エディリスは震えあがった。

「ごらんのとおり、寄生生物です」

「寄生生物! どうしてそんなおぞましい生物がここにいるの!?」

「ベラスコ・フロストに寄生していた生物が、リチャード様に寄主替えしたのでしょう」

「あっ! 義兄様おにいさまが!」

 フローリスが指さす先のリチャードの長身が、物凄い速さで縮んでいった。時間を巻き戻すように、青年から子供へと変化していった。

寄生生物あいつはリチャード様の魔力と生命力を全て奪ったようです。このままではリチャード様は生まれる前まで戻ってしまいます。つまり、消滅してしまうということです」

「えっ! それは大変だわ!」

 こうしている間にも、リチャードの身体はどんどん縮んでいった。

「た、助かる方法はないの?」

「ありったけの魔力を注ぎ込んで下さい」

「わかったわ」


 エディリスとフローリスが魔力を注ぎ込むと、リチャードは縮まなくなった。

「止まったみたい」

「でも、これって」

 どう見ても、5歳児くらいの大きさになってしまった。

「元に戻る…のよね?」

 エディリスはすがるようにパメラを見た。

「戻りますよ。10年くらいかかると思いますけど」

 妹はリチャードをまじまじと見て言った。

義兄様おにいさまったら、身体は子供、頭脳は大人になっちゃった」

「はーっ。これでは婚約の話も白紙に戻りそうだわ」


「後始末はしておきますので、みなさんはお休みください」

「パメラ、あとは頼んだわね。いきましょう、フローリス」

「はーい」


 姉妹がリチャードを連れて地下室を去った後、パメラは死体に手を伸ばし、拳を何度も叩き込んで咆哮ほうこうする痩身そうしんを粉々に粉砕した。死体は塵に変わり、塵の山から這い出してきた巨大なナメクジを、最後は分厚い魔導書で押しつぶした。


 グチャッ!

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