第7話 リチャードと生贄の花嫁


 エディリスは義兄の言葉に驚きを隠せなかった。

「魔族って空想上の生物だとばかり思っていたわ。本当に存在していたなんて」

 魔に憑依されたとか、魔に堕ちたとかよく耳にするけれど、実際は信ぴょう性に欠ける話ばかりだった。魔族の存在も噂としてささやかれているものの、その姿を確認した者は未だにいないのが現状だった。

「どうして足が切断されているの?」

 フローリスが死体の足を指さして言った。

「生前祖父は、咆哮ほうこうする痩身そうしんと呼ばれて恐れられていた。そんな祖父を親族たちは地下室に幽閉し、けっして逃げられないように足を切断したのさ」

「理解が追い付かないわ」

 エディリスは頭をかかえた。

「魔族を血族に取り込み、その事実を闇の彼方に葬り去ろうとした呪われた一族、これがこの館の、フィッシャー家の秘密だよ」


 リチャードは義妹いもうとたちに向き合った。

「わかったかい。君たち姉妹は魔族の子供を産むための生贄の花嫁なんだ」

「生贄の花嫁、わたしたちが…」

「そうさ。二人いれば魔族の血を受け継ぐ子供を授かる確率も高くなる。あいつらはそう考えてこの館に君たちをよこしたのさ」

「あいつら?」

「父上、そして義母はは上、その他フィッシャー家の血族、彼らは魔族の血を受け継ぐ呪われた子供の誕生を切望しているのさ」

「いったい何のためにそんなことを…」

「魔族の血を絶やさないため。そしてより強い魔族の血を取り込むための媒体として」

「更に魔族と交わるというの?」

「人が魔族の子供を宿すのは危険がともなうが、魔族が魔族の子供を宿すのはあたりまえのことだからね。より強力な魔族と交配するために魔族の子供を産ませる、それが一族が考えた筋書きだよ」

 エディリスを見つめるリチャードの表情が突如歪んだ。

「くっ!」

「義兄様、大丈夫ですか!」

 リチャードは苦悶の表情を浮かべながら、震える手を伸ばした。

「エディリス、初めて君の姿を見たときから、僕の中に流れる魔族の血が騒がしい。いつまでも抑え込める自信がない。この呪われた身の、身体の芯から突き上げてくるどす黒い奔流こそが、まごうことなき魔族の証なんだ!」

「それってただの思春期の性衝動なんじゃないの?」

「!」

 フローリスの身も蓋もない発言でその場の空気がひんやりしてしまった。


「みなさん、そろそろお休みにならないと、明日に差し支えますよ」

 いつのまにかメイドのパメラが入り口に立っていた。

 リチャードはばつが悪そうに頭をかいた。

「ああ、そうだな。続きは今度ということで、おやすみ、義妹いもうとたち」

「おやすみなさい、義兄様おにいさま

「おやすみなさーい」

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