第6話 リチャードと約束の場所へ


「ベラスコ・フロストはまだ生きている」

 義兄の言葉が耳から離れない。

「今も館の中を徘徊している」

 ミシッ! どこかから音が聞こえた。

 エディリスは頭から毛布をかぶって震える夜を過ごした。

 

 明け方、地下室の死体が起き上がり、鎖をガチャガチャいわせながら、ドアを開けて入ってきた。エディリスは悲鳴を上げて飛び起きた。

 恐る恐る部屋の中を確認したが、死体はどこにもなかった。ナイトウェアは汗でびっしょり濡れていた。


 朝食時、フローリスは姉の顔を心配そうにのぞき込んだ。

「お姉様、ひどいくまだわ。今日は学園は休んだほうがいいんじゃない?」

「だいじょうぶよ」

 死体のある館に一人で残されるほうがよっぽど恐ろしい。

 けれど学園に行ったものの、授業中何度もウトウトして教師から叱責されてしまい、帰宅する頃には涙目になっていた。


 その日の夕食時、リチャードが言った。

「真実を全て明かす時がきたようだ。今宵約束の場所にて待つ」

 エディリスの手がピクッと動き、フォークとナイフがカチャリと音を立てた。

「あの、義兄様おにいさま?」

 リチャードはその後口を開くことなく食事は終わった。


 夜になると姉の部屋にフローリスがやってきた。

「べつに行かなくてもいいんじゃない?」

「このまま真実を知らなければ、この先も眠れない夜が続いてしまうわ」

「お姉様、とんで火にいる夏の虫ということわざをご存知?」

「いくらなんでも義兄様が変なことをするとは思えないわ」

「それをするのが男なのよ」

「でも」

「じゃあメイドに行き先を伝えてから行こうよ」

「そうね。何かあればきっと人を呼んでくれるわね」


 姉妹は礼拝堂へ行き、義兄と落ち合った。

 リチャードは義妹たちを連れて再び地下室に足を運んだ。隠し部屋には痩身の死体が鎖につながれた状態のままそこにあった。


『V.F.』

 死体の腕を持ち上げてリチャードは言った。

「指輪のイニシャルが示す通り、この痩身の死体こそがベラスコ・フロスト本人だ。そして僕の祖父でもある。僕がこの館を受け継いだ理由は、ベラスコ・フロストの孫だからさ」

「義兄様が館に一人で住んでいたのはそういう理由があったのですね」

「僕は館の書庫を調べるうちに、ある確信へと至った。ベラスコ・フロストにはおおやけにはできない秘密があったんだ」

「公にできない秘密? それはいったい」

 エディリスとフローリスはかたずをのんで義兄の言葉を待った。

「ベラスコ・フロストは魔族だったんだ。魔族であることを隠すため、地下室に拘禁されていたのさ」

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