第5話 リチャードと地下室の秘密
「これからわたしたちどうなってしまうの?」
エディリスは小声で妹に話しかけた。
「たぶん
「ええっ!」
「将来のための勉強と思えば平気でしょ、何事も経験よ」
階段を下りて地下室に入ると、そこは物置と化した一見何の変哲もない部屋だった。しかし、よく見ると、最奥の壁の一部が崩れて更に奥へと続いていた。
「あれは?」
「隠し部屋さ」
「地下室に、隠し部屋があったの?」
「そうさ。そこの壁だけ他の壁と造りが違うから壊してみたのさ」
リチャードは声のトーンを少し落として言った。
「君たちはフィッシャー家の噂について聞いたことはあるかい?」
「いいえ」
「あまり外聞のいい内容じゃないからね」
そう言ってリチャードは二人の背中を押した。
「答えはこの先にある」
隠し部屋の中に足を踏み入れると、奥の壁に風化した布の塊を見つけて、二人は悲鳴を上げた。
「ひっ!」
「死体!」
部屋の奥の壁には鎖につながれた痩身の死体があった。
死体はミイラ化して、かろうじて体の原型ととどめている状態だった。
足は膝から下が切り落とされて無くなっていた。
「これを見てごらん」
リチャードは死体の腕に手を伸ばし、指輪に刻まれたイニシャルを指さした。
『V.F.』
「『Velasco Frost』の略だ。この館はかつてベラスコ・フロスト邸と呼ばれていた」
驚いて固まっている姉妹に、リチャードは話を続けた。
「ベラスコ・フロストの死体が埋葬された記録はどこにもない」
* * *
パーティー好きのベラスコ・フロストは、この館で毎日のように夜会や舞踏会を開いていた。
しかしそれは名ばかりで、実態は乱交パーティーだった。
男も女も、夜ごと昼ごと、皆裸になって快楽に興じていた。
痩身で長身の彼はどこにいても目立っていた。むつみあう男女の間を悠々と歩く彼の姿がよく目撃されていた。その姿は咆哮する瘦身と呼ばれて恐れられていた。
ある日、親族が館を訪れると、男も女も全員死んでいた。しかしその中に、ベラスコ・フロストの死体は無かった。
「彼が何を考えてそういう行為に及んでいたのかは分からない。ただ、親族の間でこう噂されている。ベラスコ・フロストは生きていて、今も館の中を徘徊していると」
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