第3話 リチャードの溺愛


 フィッシャー邸で義兄と同居生活を始めて一週間が過ぎた。

 一週間もすればさすがに慣れるだろうと予想していたエディリスだったが。


「エディリス、頬にソースが付いてるよ。僕が拭いてあげる」

「エディリス、そんな重い物はメイドに運ばせればいい」

「エディリス、今日も綺麗だね」 

「エディリス、ダンスは必須科目だよ。僕が相手をしてあげるよ」

「エディリス、バラの花束を君に」


 なぜだか義兄あにの溺愛が止まらない。

 細身で長身で、顔もそこそこいい義兄に纏わりつかれて、けっして悪い気分ではなかったのだが、自分だけに構う義兄に疑問を抱かずにはいられなかった。

 義兄はフローリスにはほとんど関心を示さなかった。妹も義兄に無関心だったのでお互い様なのだけれど。

 エディリスの目には妹がないがしろにされているように映り、それがもやもやの原因でもあった。

 妹は勉強家で努力家で、性格には難があるものの、ないがしろにされていい人間ではけっしてなかったのだ。


 フィッシャー邸の図書室で勉強しているとリチャードがやってきた。

「エディリス、勉強を見てあげようか?」

「まにあってます」

「今の成績のままじゃ婚約者として完璧とは言えないよ?」

「でしたら、フローリスと婚約すればよいではありませんか。妹なら非の打ちどころのない婚約者になりますよ」

「あいつ、胸がペッタンコなんだよね」

「はっ?」

「詰め物か何かで盛っているけれど、僕の目はごまかせない。あいつの胸には魔力がかよってない。それにくらべて、エディリスの胸には魔力が充満している」

「お、義兄様おにいさま…」

 エディリスは唖然とした。

(フローリスの言う通りだわ。男の人の頭の中には胸のことしかないみたい)

「その胸に顔を埋めてもかまわないかい?」

「かまうにきまっているじゃないですか!」

「減るもんじゃないだろうに」


「お茶の用意ができました」

 メイドのパメラが入ってこなければ、リチャードは本当に顔を埋めていたかもしれない。

 リチャードとエディリスはティールームへ移動してソファーに腰を下ろしお茶を飲んだ。 

 お茶を飲み終わったリチャードが口を開いた。

「女性の魔力含有量は胸の大きさに比例するそうだ」

「はあ?」

「研究者によれば、魔力は女性の胸に集まる傾向があり、器の大きさによって含有量がほぼ決まるらしい」

 リチャードは視線をエディリスの胸に移した。

「だからエディリスはフローリスより魔力量が多いんだよ」

「ど、どこを見て言っているのですか!」

 エディリスに睨まれてもさして気にする様子のないリチャードだった。

「魔力量の多い子供がほしければ、ムネの大きな女性と結婚しろという話さ」


「だ、男性の場合はどうなのです?」

「おっ! 君も大胆だね。知りたいかい? 女性が胸に魔力が集中するなら、男性の場合は当然おち…」

 リチャードがズボンに手をかけたところで、エディリスはあわててさえぎった。

「も、もうけっこうですわ!」

「えーっ、残念。僕が実地ナマで教えてあげようと思ったのに」

「きょ、今日はこれで失礼します!」

 エディリスはあわただしくティールームを後にした。

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