第22話 魔女狩り-①

「このあたりだな、例の魔女狩りが行われている場所は」

 空を飛んで、対岸のホルマンド王国までやってきた。


「あの、ターリ様、幻楼城を空けても良かったのでしょうか」

 隣を飛行するシーミアが不安げに尋ねてきた。


「留守番が居るから心配ない」

 パルメを呼び出して、シーミアと入れ替えさせた。

ご無沙汰なので、ゆっくり二人きりが良いと甘えてきたが、出来ない相談なので断った。


「あれか、なるほど、『お祭り騒ぎ』だな」

 下に大行列が出来ているのが見えた。

処刑場に向かう場面らしい。

荷車に引き立てらた者が四人、先頭に据えられている。


 引っ立てられているのは、四人。

若い男女に、まだ幼い少年が二人。

魔女狩りとはいうものの、性別は関係ない。

女性の方が捕まることが多いので、魔女狩りと表現されるだけのこと。


 特に、魔女の家族は男だろうが、巻き込まれるという。

この四人も家族なのかもしれない。

若い男女は夫婦で、少年は二人の間の子供といったところか。


 後ろには、馬に乗った聖職者に、物々しく武装した僧兵が続き、その後には手製の十字架や松明を掲げた民衆が、祈りやら、魔女への罵倒やらを口々に呟いている。


「ひどいことを……」

 シーミアが呻くように呟いた。


 罪人に仕立てられた四人を見て言ったのだろう。

確かに痛々しい光景といえた。


 ここに来るまでに散々拷問を受けてきたに違いない。

皆、拘束など必要ないくらい、傷だらけで、衰弱している。


 特に悲惨なのは、母親と見られる女だ。

顔は腫れ上がり、金色だったに違いない髪の毛には、固まった血がへばりつき赤黒く変色している。

ボロ雑巾になった服も同様に血まみれ。

乳房には短剣が刺さったまま。

脚は、火にあぶられたのだろうか、ただれてしまい、ところどころ炭になっている箇所もある。


 もう死んでいるのではないか、と思うほどボロボロだが、生きている証拠に、乗せられた荷車が地面の凹凸で揺れる度に、傷に響くのか、力なくうめき、痛みから逃げようと微かに身じろぎする。


「……あの人たち、あのままでは、死んでしまいますよ」

 ちらりとシーミアが顔をこちらに向け、懇願するような目で見てくる。


「ご指示をください」

 助けに行かせてくれ、と言いたいのだろう。


「もう少し待て。処刑場に着いて、いよいよという場面まで」

「しかし……!」

「無償の人助けがやりたいなら、他所でやれ。待つんだ」

「……わかり、ました」

 不承不承の体でうなずくシーミア。

シーミアは魔族の癖に情が深く、人間を食料として見れず、家畜で代用する方法を模索するような者だから、この場面もすぐに駆けつけたいのだろう。


 目的地についたらしい。

一行の先頭が止まった。

教会の目の前にある広場だった。

墓に入れる気もないのに、教会の前で死なせるとは、意地の悪い趣向だ。


 先頭集団の僧兵達は罪人を、荷車から引きづりだして、丸太を組んだだけの、粗末な十字架にくくりつける。

その手慣れた手つきは、今回が初めてではないことを推測させる。


 処刑の準備が着々と進むなか、後ろからやってきた民衆も続々と広場に入り、十字架を取り巻いていく。

この広場が処刑場に選ばれたもう一つの理由がわかった。

怖い物見たさの見物人を、充分に収容できる広さがあるのだ。


「これより、魔女ゼルシア、及びその一家を火刑に処する」


 見世物の最後の客が入場したのを見計らって、僧侶の一人が声高に宣言した。

服装や装身具から見て、この男がこの場で最も身分の高い人物に見える。

でっぷりと肥え、脂ぎったその様は、神に使える人生を選んだ者には到底思えない。


「罪状は、魔王ターリと契約を交わし、魔女としてーー」

「違うッ、母さんはそんなことしてないッ」


 まだ、体力が残っていたらしい。

子供の一人がケガをおして、最後の訴えを上げた。


だが、懸命の叫びは、誰にも響いていない。

民衆から怒号があがる。

様々な言葉が混ざって意味をなさないが、とにかく好意的な反応ではない。

誰も動かない。


 僧侶は不愉快そうに眉をしかめて、脇にいる僧兵に目で合図した。


「信じてくれ。誰か助けてくれ、これは誤解なんーー」

 弁解の言葉は中断させられた。

棍棒を持った僧兵の一人が、少年の頭をたたき割る勢いで殴りつけたためだ。

僧兵は念を入れて、手早く猿ぐつわまでかませる。


「ぬけぬけと、このガキはいうがーー」

 長々しい演説が再開される。


「ターリ様、本当に殺されてしまいますよ!」

 シーミアの我慢の限界が近い。


「わかったよ。少し早いが行く」

「誰から倒します。あのしゃべっている僧侶から?それとも周囲の僧兵を?」

「違う、きみは手を出すな。俺がやるから、きみは周囲の警戒だ」

「わ、私だってお手伝いを」

「きみは護衛で来ているんだろう?役目を忘れるな」

 広場に向かって降下を開始する。


「それに、これからやることは俺一人で十分だ」

 隠密魔法を使うことで、姿を隠しながら、人の群れに接近する。

自分に気づく者は誰一人としていない。

予想通り、この魔女狩り、ロクな戦力がない。


 強力な魔術師や、聖職者なら、隠密魔法をどれほど巧みに使ったとしても、こちらに気がつく。

演説中の僧侶の目の前に立ってみるが、全然気がつかない。

 

 邪魔が入ることはなさそうだ。


 敵の品定めを終わらせ、やることに取り掛かる。


 魔女とされた、ゼルシアという女の前に立った。

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