第17話 待ち伏せ勇者たちは、悪夢を見る-④

 太古の昔から、空を飛ぶ魔法は、魔族の専売特許であった。

いまだ人間の魔法使いたちはメカニズムの一部しか解明できず、長時間の飛行を実現できずにいる。

人類が魔族に勝てない大きな理由の一つだ。

魔族は不利になったら、飛んで逃げれば良い。


 大海原を下に見ながら飛び続けること一時間、根城にしていた幻楼城が視界に入った。

五〇〇年間、幻楼城は人間による占領を免れ、主を待ち続けていた。

アイレーの報告によれば、代わる代わるで、部下たちが番人を勤めていたらしい。


 テラスに複数の影が見える。

だれが待っているかはわかっているので、構わずに降下する。

着陸用に設けた広々としたテラスに、中央のスペースは空け、彼らは待っていた。


「「ようこそお戻りになりました、ターリ様」」

 ドレーン、シーミアなど、忠臣達が、片膝をついて出迎えた。


「うん、ご苦労様」

 部下達を見回しながら、答える。ずいぶんと数が減った。


「きみたちも良く生き残ったものだ。ここに居ると言うことは、みんな、喰わなかったのか、人間を」

 城に入りながらドレーンに尋ねる。


「は、この五〇〇年、あなた様のご指示通りに。なので……」

 ドレーンをはじめ、全員が頭を下げる。


「再び、あなた様の部下として仕えさせて下さい」


「別に構わないよ、好きにしろ」


 城の奥に進む。内部は手入れが行き届き、完璧な姿のまま、主を待ち受けていた。

愛用のチェアにたどり着いて、一段落する。


「お戻りの際、邪魔が入ったかと思いますが、いかがされましたか。

 手出し無用とのご指示でしたし、ローウェル程度の相手に、心配するだけ、ターリ様に失礼かとは思いましたが、それでも気が気ではございませんでしたので」


 追いついてきたシーミアが聞いた。本当に心配していたようで、こうして俺の姿をみて安堵のあまり泣きそうになっている。


「問題ない」

「そうでしたか。ご無事でなによりです」


 シーミアの顔は、霧が晴れるようにパーッと明るい表情になった。


 自分の腕を切り落として、オトリにしたとしゃべったらショックで気を失いかねないし、黙っておこう。


「それで、どのように後始末を」

 喜びのあまり小躍りしそうなシーミアにかわり、ドレーンが話しを引き取った。


「気になるか?」

「もちろんです。ローウェルの一行には、下っ端ではありますが、何名かやられましたので」

「そうか。これからも油断しないように言いつけておけ」

「と、いいますと?」

「ローウェルたちは、その気になればこれまで通り戦うことができるからさ」


「……どういうことですか」

「言葉の通りの意味だ。ローウェルに対しては、殺さない代わりに相応のことはした。ただ、戦う分には支障がでない」


「無傷なのですか?それでは、また我々の邪魔をするのでは?」

「ああ、もし彼らがまた、立ち上がればね。でもたぶん、それはない」

「なぜ?」

「傷は与えたからだ。剣士としては影響がなくても、女として、立ち直れない傷を」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る