第15話 待ち伏せ勇者たちは、悪夢を見る-②

 吹き飛んだ腕は、そのまま弧をかいて地面に落下。

腕のあった部分からは、人間と同じ、真っ赤な鮮血が吹き出す。


「勝負あったな、魔王」

 勝ち誇った様子で勇者がいう。


「素直に降参すれば、楽に殺してやろう。貴様のしたことを思えばヌルいが、裁きは女神リトラに委ねよう」

「勝った気になるのは早いぞ」

 ひとまず、剣を地面に刺し、空いた手で腕を搾って止血。


「……痛みはないのか」

 そのグロテスクな光景に眉をしかめ、一行の一人が呟くのが聞こえた。


「知っているだろう。魔族は痛覚がほとんどない」


 致命傷でも負わない限り痛みを覚えることはない。

話している間に止血が済む。

左手で剣を抜く。

止血をしている間に攻撃すれば良かったのに、完全に油断している。


「まだ、やる気か」

 一斉に彼らが武器を構える。

先ほどから集まっている。悪手だ。リスク分散が彼らの強みなのに。


「もちろんだ。とういうか、勝負は決した」

「「!?」」


 ビシッ、鋭い音を立て、ムチが背後から現れ彼らの体にあたる。


 先ほど切断された右腕に握られていたムチだ。魔法により、力を失った勇者達は地面に倒れ込む。


「腕を切り落としたからって、油断してはダメだよ」


遠結(コンカパーツ)


 体の一部を切り離しても、つながっている時と同じように動かすこともできるし、他の魔法を使うことも出来る。

もっとも、普通の使い手は、髪の毛などを使うが。


 切断した腕から注意が逸れたのを見計らい、切れた右腕を通して魔法を発動。

ムチはどこまでも伸びるから、彼らの死角を通り、背後から襲いかかった。


「それに腕くらいすぐに再生できる」

 右腕を拾い上げ、治癒魔法を発動させる。

瞬く間に、腕も、ついでに服も元通りだ。


「クソぉ……」

 無念そうにローウェルが呟くが、後の祭り。


「残念だったね。さてと、どうしてくれようか」

 彼らに剣を見せつけるように掲げる。


「不殺の誓いは立てたが、刃向かう者には相応の報復をするとも宣言した。

てっきり男だと思っていたから、腕を切り落とすつもりだったんだが、女性相手にそれをやると評判が悪い」

「……ふざけるな。男か女かなど、関係ないだろう」

「きみがどう考えるかは問題じゃない。世間がどうみるか、だよ」


 残虐な存在と認識されれば、魔王討つべし、の声が高まりかねない。

人間を殺さないと宣言したのは、それを回避するためなのだ。

舐められず、しかし、憎まれ過ぎないよう、立ち回らないといけない。


 屈辱に震えている勇者を見下ろしながら、この難問の答えを探す。

今まで敗北者には死しか与えてこなかった。

それに代わる報復とは?


「いいさ。負けは認めよう」

 すこし冷静さを取り戻したようで、ローウェルが呟いた。


「だが、私たちの自由を奪って、油断したのが、間違いだ。また同じ間違いを犯すとは、学習能力がないな、魔王よ」

「……なんのことだか、わからないが」

 本当に思い当たるフシがなかったので、首をかしげた。その時だった。

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